98/5/1:キリンは生き残れるか

(1)「三菱は国家なり」(参考:日経1997-10-25)

 スリーダイヤ「三菱は国家なり」は三菱系企業のトップはだれもが自負しており、実際、経団連や日経連など財界の要職を占める、日本のエスタブリッシュメント(支配層)となっている。自ずと「政官財」の連携を重視したいわゆる三菱商法が当たり前のように通ってきた。たとえばパチンコ業界健全化の名目で警察主導ではじまったパチンコカードは、三菱商事が選ばれた。入札はなし。政官には、まず三菱、次は三井、住友という「常識」があるからとのこと。商事がパチンコカード事業の赤字で全面撤退を検討したらしいが、同社のトップが「次からは国家プロジェクトの声がかからなくなる」と結局撤退策を翻した。キリンビールはこんな三菱系企業に属する。三菱グループでは各会長・社長で構成される「金曜会」、その事務局として各総務部長の集まりが「月曜会」。

(2)キリンビール事件 (参考:日経1997-11-11)

 1993年7月に発覚した総会屋への利益供与事件。元総務部長ら4人が逮捕された。警視庁の調べによると、キリンは93年の株主総会対策で4660万円を総会屋45人に渡していた。85年からの累計は4億円を越すという。事件の責任をとって本山英世会長(当時)ら役員4人が辞任した。事件後、総務部の要員を取り換え、更に警察OBも入れた。また総務部への配属は3年で替えている。総会屋事件で逮捕された社員は解雇しなかった。「仕事として総会屋窓口の渉外担当となり、会社によかれとやったのであり、個人的な着服ではない。元職場から気の毒だから是非戻してほしいという声もあったほどだ。もし解雇すると言ったら、他の社員が反対しただろう」(佐藤安弘社長)。この事件そのものに関するコメントは控えるが、重要なことはこの事件後、企業がどのように対処していったかである。昨年三菱自動車工業を初めとした「海の家」事件をみると、少なくともキリンビール事件は生かされなかったわけであり、キリンビール自身の体質がかわったかというと、確かに総会屋対策はやっているようであるが企業体質の改革となるとやはり疑問である。

(3)キリンの2000年中期計画

 アサヒビールの一人当たりの生産量が年間1400キロリットルに対し、キリンは15工場平均で年間900キロリットル。これが収益力の差となっている。そこで、小規模で老朽化のすすんだ東京、京都、広島の3工場を99年までに閉鎖し、残りの12工場を改良して生産性を高める中期計画をだした。これはシェアよりも利益を重視したもの。また本社の間接部門の人員も20%削減し、96年12月末に9100人だった社員数を2000年までに8000人以下に減らす。しかし、従業員数が8000人を達成してもアサヒに比べると2倍になる・・・

  1. 福岡
  2. 広島 閉鎖予定。
  3. 四国
  4. 岡山(瀬戸町) 発泡酒免許取得。300億円と投じて最新鋭化。2000年着工。生産能力現状の27%upの年産40万キロリットルに。
  5. 神戸 
  6. 京都  閉鎖予定。
  7. 滋賀 他品種少量生産型工場。発泡酒免許取得。発泡酒中心の生産体制に。
  8. 名古屋
  9. 北陸
  10. 横浜  発泡酒免許取得。
  11. 東京  閉鎖予定。
  12. 取手 (茨城県取手市) 2002年5月目標に280億円を投じ設備刷新。生産能力40万キロリットルと現状より1割高める。一人当たりの生産量を国際的な最高水準の2000キロリットルに引き上げる。
  13. 栃木  他品種少量生産型工場。発泡酒免許取得。発泡酒中心の生産体制に。
  14. 仙台  1998年にビールパレット自動洗浄装置を導入。6000万円。
  15. 千歳 

   (4)マルチブランド戦略への転換  (参考 日経産業98-4-12)

現社長は佐藤安弘氏。1996年3月に就任。子会社の近畿コカ・コーラボトリングの立ち上げに携わり資金調達などで苦労した経験を持つだけに、成功体験にとらわれない柔軟さ、地道さに期待が集まる。社長就任後は、それまでのラガー偏重の営業政策の転換、社内で「まがいもの」と見られてきた発泡酒への参入など、矢継ぎ早に再生に向けた手を打ってきた。今年3月末、社長自ら店頭試飲キャンペーンに登場した。

最近のキリンを振り返ってみよう。この10年はアサヒの追撃に振り回されている。88年に「キリン・ドライ」。これは、あっけなく敗退。ただアサヒも90年代前半までは大きな動きがなくキリンも静観。93年ごろからアサヒの攻勢が始まり、キリンは96年1月に主力の「ラガー」を生化。ところが、「生化」で爽快感を強調しすぎたために「一番搾り」との差違がなくなってしまう結果に。そこで98年1月に成分を微調整して苦みとコクを強調した。そして、2月に「苦みが少なくすっきりした」味の発泡酒「麒麟端麗<生>」をついに発売。スーパードライの味に踏み込み、しかも低価格という武器で望んだ。

キリンのマーケティングは「迷走している」とよく言われる。私もそう思う。アサヒの「スーパードライ一本で!」というのはちょっと不安であるが、キリンの場当たり的な対応をみていると、将来を見据えたマーケティングとは言えない。今回の発泡酒は、発泡酒単体としては非常によくできた「ビールもどき」であり、サントリーのスーパーホップスやサッポロのドラフティより魅力ある味に仕上げていると思う。しかし、この味では自らのシェアを食いつぶしてしまうのは明らかである。

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