野球場でのビール戦争(日経ビジネスより)

エビスが1位、東京ドームではサッポロ大健闘--野球場の競争に各社戦力結集 ( 98/09/14 、日経ビジネス)
 「東京」ではサッポロビールの「エビス」が一気に首位に浮上、関西ではキリンビールが初めてアサヒビールの牙城を崩す――。 アサヒの快走ばかりがいわれてきたビール市場にあって、販売合戦がちょっと違った様相で繰り広げられている場所がある。プロ野球の球場だ。注目度の高い野球場はメーカーにとって「販売、宣伝の両面で重要な市場」(サントリー)。優勝へ最後の山場に入ったペナントレースの陰で、ビール商戦も一段と白熱化している。 年間240万杯と居酒屋約70店分のビールが売れる東京ドーム(東京・文京区)。客席に計200人(巨人戦の場合)のビール販売員を投入し、「どのメーカーのビールも平等に提供できるように各社50人ずつ割り振っている」(東京ドーム販売部の萩原実第一営業課課長)。競争条件が同じ中で、注目されるのがエビスの躍進だ。 販売しているのはキリンの「一番搾り」、アサヒの「スーパードライ」と「黒生」、サッポロの「黒ラベル」と「エビス」、サントリーの「モルツ」の6種。今年初めて、販売員1人当たりの売上高でエビスがトップに立った。サッポロによると、前年に比べ約30%も伸びているという。 東京ドームでは、ドーム側の判断で、どの銘柄のビールも一律1杯800円で販売している。高級ビールであるエビスには割安感が出てくるとあって、サッポロは積極的に売り込んだ。 1997年までサッポロは黒ラベルを中心に販売。販売員50人のうち、47人を「黒」、残り3人をエビスで展開していた。しかし、今年は初めからエビスを25人に増やした。「EBISU BEER」と大きく刺繍したユニホームを着た販売員が、イメージカラーである金色のビールタンクを背負って場内を回り、印象づけた。しかも、他銘柄と同価格であることをタンクに大きく表示。高級ビールであるエビスを飲もうと、販売員が来るまで待つ客が増えたという。 東京ドーム内のメーカーの販売は、アサヒ、サッポロ、キリン、サントリーの順。サッポロが健闘している。甲子園ではキリンがアサヒに一矢 一方、関西では「キリンにとって歴史的なできごと」(木野正則・近畿圏営業部広域流通第二部部長)といわれるほどのニュースが、野球場内の販売で起こった。阪神甲子園球場(兵庫県西宮市)への初進出だ。 1924年8月の球場開設以来、甲子園ではアサヒの独占販売が続いていた。阪神電気鉄道とアサヒのメーンバンクである住友銀行との結びつきが強いからで、他社には諦めムードさえ漂っていた。それをキリンは、阪神電鉄の駅売店での販売をきっかけに、球場のライトフェンスに広告を出すなど売り込みをかけ、ついに牙城を切り崩した。 キリンが勝ち取ったのは客席裏の通路にある売店での販売だけで、全売上高の約80〜90%を占めるという客席での販売は、いまだにアサヒに独占されたままだ。それでも「これを客席販売の足がかりにしたい」と木野部長の意気は上がっている。 球場内のビール販売は、販売業者にユニホームを提供したり、協賛企画を頻繁に打つなど「何かと持ち出しが多い」(あるビールメーカー)ため、収益的にはそれほど魅力はない。だが、野球場は多数の観客が集まり、注目度が高いだけに広告効果は大。しかも、普段銘柄を指定する人でも、こだわらないケースが多く、新たなファンづくりにつながる可能性もある。 こうした理由から、どのメーカーも球場での販売を重視している。「同じ球場内でも、よりアピール度の高い所での販売を目指す」(キリン)、「全球場での販売を目指すと共に、ビール以外の飲料も積極的に売り込む」(サントリー)など、各社とも鼻息は一段と荒くなっている。(高柳 正盛)

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