CVMによる長良川の環境価値評価

 

 

  1. はじめに
  2. 1990年代初頭ごろから、アメリカにおいて、環境が持つ価値をCVM(contingent valuation method:仮想市場評価法)という手法を用いて、金銭的に評価する試みがなされるようになってきた。生態系や自然環境というかけがえのないものに、あえて金額をつけることによって、これまで開発を行う際に軽視されてきたこれらの価値の重要性を客観的に示すことができる。また、CVM調査は、住民に対してアンケートなどの形で直接的に意見を聞くため、環境評価に住民の意志も組み込むことができる。そこで、本論文ではCVMを用いて、河口堰運用から5年が過ぎ、環境悪化が深刻になっている長良川の自然環境を回復させる価値を評価することを試みた。

  3. アンケート調査の設計
  4. 標本地域は、長良川流域(郡上郡、美濃市、岐阜市、海津町、桑名市)、名古屋市、東京都の3地域とし、総数で5000通を郵送した。アンケートは、(1)長良川河口堰の概要の説明、(2)河口堰が自然環境に与えている影響の説明、(3)質問部分から構成している。支払意志額を問う質問では、支払手段を税金、支払期間を毎年、回答形式をダブルバウンド方式とした。

  5. 結果と分析
  6. 回収率は、長良川流域が26.5%、名古屋市が18.5%、東京都が13.9%であり、長良川から地理的に離れるほど低くなる結果となった。一世帯当たりの年間支払意志額の中央値は、長良川流域で10,000円(_)、名古屋市で8,700円(_)、東京都で7,000円(_)という結果となり、これまでの国内の評価事例と比較すると高い部類に入るといえる。中央値は、賛成と答える人が50%となる額である。この結果を割引率で割ることによって、将来にわたる長良川の自然環境を回復させる価値を推定したところ、全国的には84038億円の価値があるという結果となった。

     

    将来にわたる長良川の自然環境を回復させる価値

    長良川流域

    東海三県

    全国

    710億円

    8495億円

    84038億円

    (備考) 長良川流域の評価額は、(_×流域市町村の総世帯数)÷割引率4%で求めた。同様に、東海三県の評価額は、(_×流域以外の総世帯数)÷0.04+(流域の評価額)で求めた。全国の評価額は、(_×東海三県以外の総世帯数)˜0.04+(東海三県の評価額)で求めた。

  7. おわりに

以上のCVMによって、長良川の自然環境を回復させる便益が極めて大きいことと、環境改善の必要性が示されたといってよい。「清流」として親しまれてきた長良川を取り戻すためには、今後の河口堰運用について再評価し、長良川の環境改善に重点的に取り組むことが求められる。また、得られた評価結果は、長良川の環境を守りたいと考える人々に、新たな議論の出発点を与え、これまでとは違う方向から長良川の自然環境の重要性を示すことができると思われる。

後藤 理絵(修士1年)