薬疹・アナフィラキシー

作成者 たらお皮膚科

薬剤使用中および使用後に生じた皮疹は薬剤を疑うことが重要です。少しでも“おかしい”と感じたら、すぐに薬の使用を中止して、医師の診察を受けることが大切です。薬剤使用中は、発熱、目の充血、粘膜や口唇のただれ、皮膚のかゆみ、違和感、皮膚の発赤など微細な変化にも注意してください。薬疹はどんなに注意しても発生をゼロにすることは不可能です。薬剤アレルギーがいつ成立するかだれも予測できないからです。しかし、いったん生じた薬剤アレルギーは自分で薬歴を医師に伝えれば次回からは未然に防ぐことは可能です。

もし、薬疹と思ったら、直ちに処方を受けた医師の診察を受け、薬剤アレルギーかどうか判断してもらってください。薬の名前が解らないままにしたり、因果関係を調べずに放置すると、次に全く別の名前の薬でも薬疹が出る場合があるので、薬剤アレルギーがある方は、常に保険証などと一緒に薬剤アレルギーカードを保管しましょう。副作用があったからと言って、薬をすぐに捨ててしまわないで、因果関係をはっきりさせた後で捨てましょう。市販の風邪薬での死亡例も報告されています。自分の身は自分で守ると考えましょう。
なお、薬疹の治療にステロイド(内服や外用)が処方されることがありますが、特別の場合を除いて、私はお勧めしません。

固定薬疹 固定薬疹 固定薬疹
播種性紅斑丘疹型 多形紅斑型 固定薬疹
光線過敏型 紅皮症型 多形紅斑型(中毒疹)
クロレラ(?)による薬疹 グリセオフルビンによる薬疹 抗精神薬による(?)掌蹠角化症

重症型薬疹の種類 特徴
スチーブンス・ジョンソン症候群(Stevens-Johnson);SJS
表皮の壊死性障害に伴う水疱、びらん病変が体表面積の10%未満の場合。目・呼吸器の後遺症が出る場合がある。
中毒性表皮壊死症 (Toxic Epidermal Neclolysis;TEN) SJSから移行する場合も多い。
表皮の壊死性障害に伴う水疱、びらん病変が体表面積の10%以上の場合。死亡率20〜30%。
薬剤性過敏症症候群(Drug-Induced Hypersensitivity;DIHS) ヒトヘルペス6型HHV−6の再活性化を伴う。薬剤アレルギー+ウイルス感染が関与。抗けいれん薬、サラゾスルファピリジン、ジアフェニルスルホン、アロプリノールなど。


薬疹の分類
薬疹のタイプ 原因薬剤 特徴など
固定薬疹 解熱鎮痛消炎剤(ピリンなど)
抗生物質
睡眠剤
抗けいれん剤
精神神経用薬
下剤
同じ部位に繰り返しできる。多くは色素沈着を残す。時に水疱をみる。
じんましん型 抗生物質(ケフラール、ペニシリンなど)
化学療法剤(サルファ剤)
解熱鎮痛剤(アスピリンなど)
局所麻酔剤
造影剤
薬剤を使用して数分以内に現れる。時にショック症状。
播種性紅斑丘疹型 抗生物質(ペニシリン、セフェムなど)
睡眠剤
解熱鎮痛剤
リウマチ治療薬(金製剤)
精神神経用剤
化学療法剤(サルファ剤)
利尿剤
ほぼ全身均等に紅斑、丘疹が出る。
湿疹型 抗真菌剤、
消毒剤(ヒビテン)
抗生物質、
化学療法剤
ステロイド剤
抗ヒスタミン剤
接触性皮膚炎の様な多彩な皮疹、かゆみが強い、リンパ腺腫大。
パッチテストで陽性が出やすい。
紅皮症型 リウマチ治療薬(金製剤)
抗生物質(ペニシリン、グリセオフルビンなど)
睡眠剤
解熱鎮痛剤
痛風治療剤
精神神経用剤
化学療法剤(サルファ剤、抗結核剤)
利尿剤
全身が赤くなり、落屑(皮がめくれる)。肝臓、腎臓障害を伴うことがある。
多形紅斑型 抗生物質(ペニシリン、テトラサイクリンなど)
化学療法剤(サルファ剤)
解熱鎮痛剤(ピリン、アスピリンなど)
睡眠剤
ワクチン
滲出性の紅斑がたいてい左右対称に出る。
粘膜皮膚眼症候群型 抗生物質(ペニシリン、テトラサイクリンなど)
化学療法剤(サルファ剤)
解熱鎮痛剤(ピリン、アセトアミノフェンなど)
睡眠剤
ワクチン
多形紅斑の皮疹の他に眼瞼、外陰部、口唇にもびらん、紅斑などが出る。
中毒性表皮壊死剥離型(TEN) 抗生物質(セフェム、ペニシリン、テトラサイクリンなど)
化学療法剤(サルファ剤)
解熱鎮痛剤(ピリン、アセトアミノフェン、ボルタレンなど)
睡眠剤
痛風治療剤
抗けいれん剤
死亡率が高い。薬剤摂取後、急に発熱、倦怠感、リンパ腺の
腫脹などを伴い、紅斑、水疱、表皮剥離(熱傷様)が体の広い
範囲に生じる。早急な入院治療が必要。
初期の鑑別に咽頭の発赤が参考になる。
acute generalized exanthematous pustulosis
(AGEP)
抗生物質(ミノマイシン、ペニシリン、マクロライド系など)
非ステロイド系消炎剤
(特にアトピーの際のアンダーム軟膏)
間擦部に生じる紅斑、多数の無菌性膿疱を認める。
症状や検査所見は重症を思わせるが、予後は良好なことが多い。
扁平苔癬型 降圧剤
刺激療法剤(金製剤)
利尿剤
精神神経用剤
不整脈治療剤
手背、両上肢の日光に当たる部位に初発することが多い。
かゆみが激しい。
発病まで数ケ月かかることもしばしばである。
水疱型 睡眠剤
化学療法剤
固定薬疹、多形紅斑型、粘膜皮膚眼症候群型、
中毒性表皮壊死剥離型(TEN)の症状の初期症状と鑑別が重要。
紫斑型 リウマチ治療薬(金製剤)
抗生物質(ペニシリン、クロラムフェニコールなど)
睡眠剤
解熱鎮痛剤
痛風治療剤
精神神経用剤
化学療法剤(サルファ剤)
抗癌剤
利尿剤
血液障害による場合と血管壁の障害による場合がある。
色素沈着型 経口避妊薬
化学療法剤(サルファ剤)
降圧剤
抗癌剤
精神神経用剤
メラニン色素や薬剤その物の色。
ニキビ型 副腎皮質ホルモン(ステロイド)
蛋白同化ホルモン
抗結核剤
睡眠剤
背部に多い。時に顔面。
光線過敏型 抗生物質(スパラ、テトラサイクリン、グリセオフルビン)
利尿剤
糖尿病剤
精神神経用剤
化学療法剤(サルファ剤)
顔面、頚部、手から上肢などの日光にあたる部位にできる。
色素沈着や白斑を残すことがある。
結節性紅斑型 化学療法剤(サルファ剤)
抗生物質(テトラサイクリン、セフェム)
経口避妊薬
下腿伸側の有痛性の紅斑、しこり。
SLE型 降圧剤
不整脈治療剤
抗けいれん剤
抗結核剤化学療法剤(サルファ剤)
抗生物質(テトラサイクリン、ペニシリン、グリセオフルビン)
発熱、リンパ腫大、関節痛などを伴う。
脱毛 抗癌剤
エトレチネート
抗甲状腺剤
主に頭髪。
多毛 副腎皮質ホルモン(ステロイド)
抗けいれん剤
四肢、体幹時に顔面。
乾癬様皮疹 βブロッカー
角化異常 砒素
その他(以外に多い印象を持っています)
掌蹠に角化が起こる。


薬疹発症に関与する因子
感染(ウイルス、細菌、マイコプラズマ、真菌) 伝染性単核球症とアンピシリン。
hypersensitivity symdromeと突発性発疹の原因ウイルスであるヒトヘルペスウイルス6型。
日光暴露(紫外線) スパラ、テトラサイクリン、グリセオフルビン、モーラスなど。
運動 小麦粉の製品の摂取後運動をするとじんましんが出る。
食物(いわゆる自然食品も含む)、飲酒 プロポリス、アガリクス、生しいたけは皮疹が出やすい。アルコールは多くの薬剤との相互作用あり。
生理 にきび、アトピーなども悪化しやすい。
他の薬剤との相互作用 イトリゾールは他の薬剤と併用しない。
悪性腫瘍、肝臓や腎臓の疾患(特に腎透析) ゾビラックスは腎機能が悪い時副作用が出やすい。
薬物代謝障害 体質による。
慢性GVHD(graft-versus-host disease)
(移植片対宿主病)
骨髄移植後100日以降にみられ、扁平苔癬様、皮膚硬化、多形皮膚萎縮、潰瘍、爪変形など多彩。

薬疹の診断法
DLST drug-induced lymphocyte stimuration test;偽陽性が多い。信頼性が不明。
パッチテスト 陽性率が低い
内服試験 危険を伴う

アナフィラキシーの症状
自覚症状 他覚症状
全身症状 不安感、無力感 冷汗
循環器症状 心悸亢進、胸内苦悶 血圧低下、頻脈
呼吸器症状 鼻閉、咽頭狭窄感 くしゃみ、咳、喘鳴、呼吸困難
消化器症状 悪心、腹痛、便意 嘔吐、下痢
粘膜・皮膚症状 皮膚掻痒感(かゆみ) 紅潮、蕁麻疹、眼瞼・口腔粘膜浮腫
神経症状 しびれ、眼前暗黒感 痙攣、意識障害

アナフィラキシーの起因物質
消炎鎮痛剤、抗生物質、局所麻酔薬、歯科治療薬、その他


参考文献;
*皮膚病診療VOL・22 NO・10 2000  中毒疹をどう捉えるか?杏林大学医学部皮膚科 塩原 哲夫先生(教授)
*皮膚病診療VOL・25、NO2 2003 アナフィラキシーの原因検索 宇賀神つかさ先生