今月の話題  2004年1月

EBMって何だろう?
作成 たらお皮膚科

Evidence Based Medicine(EBM)とは、簡単に言うと、診療を行うに当たって、根拠 evidence に基づいた診断・治療を行うことと考えられています。
以下は、日本大学医学部公衆衛生学教室EBHC研究班の文献を紹介させて頂きます。

EBMの実践とは系統的な研究や臨床疫学研究などより適切に利用できる外部の臨床的根拠とひとりひとりの臨床的専門技量を統合することを意味します。臨床的な診断や治療はともすれば個人の経験や慣習に左右されることがよくあります。また、単に動物実験より類推した論理や権威者の意見により考察されることもあります。しかし、これらの方法が的を射ているのであればよいのですが、しばしば何の根拠もなく行われているために、ひとりひとりの患者にもっともよいものとならないこともあります。これは患者さん個人に不利益であるばかりでなく、医療費の高騰や社会資源の無駄となることも多々あります。言ってみれば、EBMはこれを回避するために、知りうるかぎりの疫学などの研究成果や実証的、実用的な根拠を用いて、効果的で質の高い患者中心の医療を実践するための事前ならびに事後評価の手技であり手段であります。よい医師とは豊富な臨床的経験と利用しうる適切な根拠の両方をうまく用いることができる能力を兼ね備え、患者本人のためを常に考え危険を避けるように努力している者と言えます。臨床的専門技量は経験に基づく医学のArtの部分であり、外部の根拠を基にした批判的検証評価はまさにScienceの部分であるといえ、このArt & Science の両者があってはじめて最良の医療ができるのです。ここにEBMの果たす重要な役割があると言えます。
 「人生は短し、学術は長し。」(Vita brevis, Ars longa)で知られるヒポクラテスの箴言の続きにも「Experientia fallax, Judicium difficile(経験は欺く、判断は難しい)」とあります。EBMがその解決の糸口になるものと願っておりま


実際の皮膚科診療でのEBMについて考えてみます。代表的な2つの事例を紹介します。

第一に、水虫(白鮮)の治療におけるEBMです。検体(皮膚の皮)を取って、顕微鏡でみて、「真菌=カビ」がいれば、抗真菌剤を処方し、いなければステロイドを処方するというのが一般的に皮膚科などで行われています。もちろん、たらお皮膚科ではステロイドは処方しませんし、真菌の検査も、臨床的に判断して明らかに水虫(白鮮)という場合は検査は行いません。患者様の負担が増えるからです。

次は、アトピー性皮膚炎などの経過が長い疾患の場合です。なるほど、1週間〜2週間というような短期間で薬の効果の判断をした場合、「効果がある」という薬はステロイドやプロトピックかも知れません。はたしてこれでEBMといえるのでしょうか?私はそうは思いません。患者様の一生を通してみて、最善の治療法が良いと考えます。
たらお皮膚科を受診された患者様だけでなく、日本国内だけでなく海外の患者様から非常に多くのメールによる相談を受けましたが、長い経過でみれば、ステロイドやプロトピックを使用された方は、人生のいずれかの時点で酷いリバウンド現象(離脱症状)で地獄の苦しみを体験されています。しかし、その地獄を脱却すれば、酷く悪化することもなく平穏な生活が取り戻せます。根拠 evidenceとは患者様の体験談(治療経過)そのものと考えるべきだと思います。