昔話や童話から性格タイプを知るシリーズ・その7              

2007/11/05  (改定版)

        恩返しをした鶴はタイプ4か?

 
昔話のなかでも、 「鶴の恩返し」は、悲しくて美しいお話しとして
よく知られています。タイトルが「鶴女房」となっていたりしますが、
類似した物語が日本国中に、いえ外国にも、これとよく似た物語がた
くさんあるようです。

 よく知られているのは、鶴の命を助けてくれたのが中年に差しかか
る男性で、鶴が変身して、男の嫁になるというお話です。しかし、嫁
にはならないものもあります。また、お爺さんに助けられて、その娘
になるお話もあります。同居はするが、その家の娘にもならず、恩返
しだけをする鶴もいます。

 なお、鶴が人間の女に変身して機を織るというモチーフは、かつて
巫女(ミコ)が部屋にこもって神に供える衣を織ったことに由来してい
るらしいとも言われています。それゆえ、機を織る姿を人間に見られ
ることが禁忌(タブー)とされたので、このようなお話が作られたので
はと言われています。

 木下順二さん作の戯曲「夕鶴」の舞台を見たことがある方もいると
は思います。幾つもよく似たお話があるなかで今回取り上げるのは、
おじいさんに助けられて、その家の娘になるお話です。


  
1 鶴の恩返し

……山の中に住む年寄り夫婦は、柴を刈り、それを町で売って暮らしを立てていました。冬のこと。いつものようにお爺さんが柴を刈っていると、鳴き声がするので行くと、ウサギの罠に掛かっている鶴を見つけました。かわいそうに思って罠を外して逃がしてあげました。

 その夜、門の外で「あけてください」という声が聞こえました。
「旅の者で道に迷って途方に暮れています」というので、見ると美しい娘でした。その夜は大雪なので娘は泊まります。翌朝になって娘は「どこ行くあてもない身だから、父として母として仕えたい」と申し出ます。年寄り夫婦は大喜びで承諾します。

 お爺さんは柴を刈り、娘は糸を紡いで暮らしましたが、またたくまに春になりました。娘が「家の後ろに狭い小屋を作ってください。その小屋でわたしは布を織ります。でも決して見ないでください」と言いました。そこで、お爺さんは家の木を切って小さな小屋を作りました。娘は毎日のように布を織りましたが、織りあがった布はいままで人が見たこともないような布で、すぐに売れてお金もどんどんたまりました。

 老夫婦は、どうしてあのような美しい布が織れるのだろうと思い、ある晩、覗いてしまいました。すると、小屋の中の音が止まり、娘は悲しそうに「私は罠にかかっているところを助けられた鶴です。恩返しに来たのですが、姿を見られたからには、もうここにはいられません。長い間ありがとうございました」と手を広げると鶴になり、空に舞い上がると家の上を回って、山の方に飛んで行ってしまいました……。


 
2 従順な気質

 「恩返し」などという考え方は、いまどき、ちょっと古めかしく感じるかもしれません。しかし、「親に育ててもらった恩」とか、「命を助けてもらった恩」などは、現在でも十二分に生きています。もしも、恩がある人に、無理無体なことを要求された場合、それを拒否できる人がいるとしたら、どのタイプになるでしょうか。予想してください。

 実は、エニアグラムでみたら、防御タイプ(7・1・4)が拒否できにくいだろうと予想します。なぜならば、超とつけたい生真面目人間だからです。
 タイプ4と7ならば母親から、タイプ1ならば父親から、何か無理な要求された場合に、それが不可能であっても従わねばならないと思いがちです。それほど、親との関係で見えない太い絆があり、まるで縛られているのではないかと思わされるほどです。

 あるタイプ1w2の歌手の父親は、10回くらい結婚を繰り返しました。父親は家長らしいこともしない人だったようで、この歌手は、弟の面倒や実家の暮らしを十代の頃から支えたようです。とんでもなく放蕩な父親だったようですが、そんな父を見捨てませんでした。父親のことを語るときは、いつも涙が出てしまうようです。

 ある女性は4人姉妹でしたが、年老いた母親の面倒を見たのは、末娘のタイプ7w6でした。母親はタイプ7w8で、娘を手放したくないタイプであり、娘も母親から逃げ出しにくい気質です。30年以上も母親を残して旅行にも行ったことがないそうです。半日でも外出できにくく、母に遠慮して、外食もしたことがないと言います。老母から、「私ひとりを置いていくのか!」と一喝されると、怖くなって、どこにも行けなくなるのだそうです。

 あるタイプ4w5の男性も、母親を憎んでいるにも関わらず、母親のもとから逃げ出せずにいます。結婚を約束した女性がいたようですが、母親から反対されて断念したことがあると言います。現在でも、大抵のことで母親の言いなりになってしまい、そんな自分がたまらなく嫌だといい、母親の話になると興奮しだすのです。


 
3 
親や指導者に従順になりやすい

 当会では、防御タイプ(714)は、自分の存在を自分でOKとは言えず、親にOKと言われたり、世界に受け入れてもらうと、OKになるタイプと紹介しています。

 自分を産んでくれた親たちから大切にされて育つと、とても元気で 明るい子どもになります。もしも、親に捨てられるなどという体験をすると、自己肯定的になりにくい人たちなのです。 

 従って、親とか他の保護者、あるいは指導者に指示されたり求められると、それに逆らいにくい気質です。指導者に従いやすい傾向を内に持っているのです。
 「
恩を返せ」と言われたら、 絶対に返さねばならないのであり、また、恩を受けると心に染みて、いつかは恩を返さねばならないと思い込む傾向があります。 

 他のタイプにも、そのような気持ちは生まれますが、このタイプはあまりにも真面目で、真剣度が強くなり、親の命令を絶対視しやすい傾向があるためと言えます。

 ところで、親とか指導者などから恩を受けると、早く自立して立派な人間になろう、それが恩返しだと考えるのが一般的にあります。

 しかし、あるタイプ4は失恋して、恋人に捨てられてしまいましたが、その恋人がいつも自分を助けてくれたことに恩を感じていました。自分が立派になって頑張っていることを知れば、恩が返せると思ったようです。

 この場合、
恋人同士なのであり、親子とか師弟関係ではありません。しかし、つい子どもの立場になってしまうというべきか、恋人に依存的になってしまうためなのか、上下関係みたいなものの考え方をしてしまうのです。それは気質として最も年少型だということが起因しているのかもしれません。


4 約束を絶対視する人たち

 次に、防御タイプは、「約束」を絶対視する傾向もあります。防御タイプの幼児と、遊園地に行くと約束したならば、確実に果たさないと大変なことになるようです。軽い約束だとしても、まるで金科玉条のようで、代替案を示しても譲ろうとしてくれません。

 たとえば、当日は遊園地にはいけないが、欲しがっていたオモチャを買ってあげると行っても、なかなか承服しないのは、この3つのタイプです。ただ、タイプ7がオモチャに釣られる可能性があります。

 なかでも、とくに変更が効かないのが、タイプ4です。怒り狂って、泣き寝入りするくらいな子もいます。遊園地のことなどどうでもよくなって、約束そのものを守らない、そのことだけで立腹してしまうのです。軽い気持ちで約束をすると、守れない場合に軽蔑されるやもしれません。それほどに「約束」を絶対視しやすい人たちです。


 
4 見るなと言われたら
…?

 昔話には、「見るなの座敷」というジャンルに入るお話が幾つも残っています。「一番奥の部屋は見てはいけない部屋なんだよ」、「見ると災難がくるので、決して見てはいけない」などと言い残していくのです。むろん、主人公たちはみな一様に、「決して見ない」と約束するのですが、そう言われると、どうしても見たくなるのが人間性というものです。

 ところで、「君一人だけを愛します」と約束しても、その口が渇かぬうちに、浮気する男性もいます。そのような約束を本気にする女性はいないとは思います。しかし、たまに「約束したはずだ」と、頑固に主張して、約束を破った夫を許せないと思う妻たちがいるようです。また、夫が浮気したことで怒る妻と、それよりも、夫が約束を破ったことに怒りだす妻がいて、比重の掛け方が違うようです。後者になりやすいのがタイプ4です。

 あるタイプ2w1の女優が著書で「いつ男に捨てられても生きていける覚悟のないほうが、よっぽど怖い」と述べています。男が約束を破ることなど、当然に有り得ることだと認識しているように見えます。

 ところで、タイプ7も、夫たちが浮気するくらいのことは想定できるほうです。しかし、約束事を絶対視する傾向も同時に持っています。従って、タイプ7は、夫たちに捨てられた事実と、約束を破られたという二つのことで、ショックにもなりやすいタイプです。

 日頃は、男性に対してドライにつきあえるタイプですが、意外かもしれませんが。半狂乱になりやすいほうだと言えるか
もしれません。むろん、タイプ7のすべての女性がそうなるのではなく、夫婦仲とか経済的な問題なども絡んでくるので、さまざまに違います。それは当然のことなのですが。

 タイプ4自身が、約束したら絶対に守らねばならないと思うので、他人が軽く約束を破るとショックになるのでしょう。しかし、タイプ4だとて好奇心は強いので、「見るな」と言われるとよけいに見たい気持ちが募るはずではないでしょうか。どちらの心理も強くあるというならば、心の中での葛藤は強くなります。 


 
5 自分は他の人たちと違う?

 タイプ4は「母親との関係で複雑な心理状態になりがちな気質を持っているタイプ」という分析をしています。他にはないものです。

 例えば、このシリーズでは、「かぐや姫」をタイプ4の作品ではないかと紹介しています。かぐや姫は月の世界の人なのですから、地球人ではありません。

 浦沢直樹(タイプ4と判定済み)作のマンガ「モンスター」は、人間ではあるがまるでモンスターのような怪物になってしまう子どもを登場させています。

 フランツ・カフカ(タイプ4と判定済み)は、「変身」という作品
を残しています。銀行員が或る朝、目を覚ましたら大きな芋虫に変身していたというストーリーなのです。

 マンガ家・岩明均(タイプ4と判定済み)さんの「寄生獣」という
作品も話題となりました。主人公が怪しげな寄生生物に侵されてしまう恐ろしいお話です。自分が寄生生物に乗っ取られてしまうのです。

 その他、映画でも「フランケンシュタイン」とか「エレファント
マン」「パウダー」など、異形の生き物となり、また何かに侵されてしまい、普通の人間には程遠い主人公がいます。他のタイプの追随を許さないほどに、タイプ4にダントツに多いように見受けられます。

 童話や昔話にも、異形の主人公がたくさんあります。蛙になった王子や姫とか、タニシや人魚、ライオンのような野獣もあり、紹介しきれないほどです。まだ調べていないので分かりませんが、どうやらタイプ4の人たちの可能性が高いのではないかと想像します。

 自分のことばかり考えて、自意識過剰となりやすく、自分を見失いやすい人たちゆえに、自分が何者か分からなくなるのかもしれません。そして、何者か分からなければ、自分は鶴かもしれず、タニシや芋虫かもしれず、美しい姫にも変身するのではないでしょうか。


 
6 悲しい物語に引かれる人たち

 タイプ4というグループに入る人たちの気質が分かれば、「鶴の恩返し」が、どれほどにタイプ4の人たちの気持ちを駆り立てるか、想像できるだろうと思います。

 鶴から美しい娘に変身した「おつうさん」(木下順二作品の名前)は、優しい老夫婦と、そのままずっと一緒に暮したかったのではないかと思います。しかし、約束を破ったのではどんなに優しい人でも、もはや一緒には暮らせないようなのです。許したい気持ちはやまやまなのに、どうしてか依怙地になり、かたくなにもなり、自分でもどうしたらよいのか分からなくなるのではないでしょうか。

 タイプ4は、許すとか許さないなどと決める主体になりにくい人たちです。そういうことは神様のような絶対者がすることで、自分は絶対者に命じられたことしかできない、ちぃっぽけな存在に過ぎないようなのです。敬愛しているおじいさんたちと一緒に暮らしたい、許せるものなら許したい、がしかし、それを決められるのは自分ではありません。

 通常のタイプ4は、「幸福になるために何をしなければならないか」という発想に欠けています。運命に翻弄され、自分がどんなに抗っても運命には勝てないだろうと、否定的なことばかり思い浮かぶのです。むろん、成長したタイプ4は、行動力がつきますから、運命に負けないぞ、と戦えるみたいなんですが……。

 また、自分と他人は違うと、いつも他の人との異質性にばかり着目してしまうのがタイプ4の人たちです。自分は普通じゃない、他人からはおかしな人間に見えているかもしれないなどと、視点は自分にばかり向けられています。

 「鶴」という出自の自分は、とうてい人間世界に同化できないと思い込みやすいのではないでしょうか。いつかは別れが来ると予感してしまいます。また、そのほうが納得できるのです。

 まさに、この物語は、タイプ4によく起こる葛藤や苦しさ、また、その気質をそのままに表わしている物語だと言えるでしょう。
 
 さて、「鶴の恩返し」は、昔むかし、あるタイプ4の娘さんが、
雪の降る寒い冬の夜に、囲炉裏のそばで、家族や弟妹たちに聞かせるために作り出したお話かもしれません。どうやら、タイプ4は悲しい物語を作らせるのが、とてもうまい人たちのようです。

 最後に、全く内容の違う「鶴の恩返し」と言う民話があります。以下のアドレスにあります。「決して見てはいけない」などとは言いませんが、どうということのないお話しなので、見ないほうがよいかもしれませんが……。

  
http://www.c-able.ne.jp/~kagee/minwa/accessible.html