(新シリーズ)         

 昔話や童話からタイプを理解する方法 
          

 

                 
さあ、お話のはじまり〜!  

 
就寝前になると、幼い子どもたちは母親や祖母などに、お話を
ねだるのではないでしょうか。たぶん、古今東西、万国共通にあ
る習慣かもしれません。この頃では、ゲームに興じる子どもが多
くなり、生活習慣も、急激に変わろうとしています。しかし、そ
れでも絵本が大好きとか、昔話をして欲しいとせがむ子は少なく
ありません。

 さて、昔話が誰の手に拠るものか、よく分かっていません。ま
た、伝説と民話の違いを説明するのも、なかなかに困難のようで
す。この方面の研究者は多いのですが、どのようにして昔話が発
生し継承されて来たのかは、まだ不明のままと言えます。無名の
人たちが、幼い子どものために寝物語を即興で作ったのかもしれ
ません。

 いずれにしろ、長い年月消滅せずに語り継がれて来たのですか
ら、惹きつけられるものがあったのでしょう。時代を越えて、今
も私たちの心に響くものがありますが、それは昔話や民話が、
人の心理を反映しているからではないでしょうか。

 しかし、全ての人の心に響くのではなく、人によっては、理解
できにくいとか違和感のあるお話もあります。つまり、タイプの
違いによって、理解できるものとそうでないものがあると考えら
れます。そこで、昔話や伝説、あるいは童話を取り上げて、それ
を通じてエニアグラムの9つのタイプへの理解を進めようと思い
ます。

 初回は、日本人なら誰もが知っている「桃太郎」です。物語の
中に、人の心理だけでなく、世界観や人間観などもにじみ出てい
ると考えられます。 
           
 なお、ユング派の心理学者たちは、昔話から深層心理を探る試
みをしています。しかし、どうも難解で分かりにくく、学問と化
しているように感じられます。それゆえ、このサイトでは、「分
かりやすく」をモットーにして、「性格タイプ」への理解を深め
る参考資料として取り上げます。

                        

   
 
シリーズ・その1
(改定版2007/12)

  
「桃太郎さんはタイプ8か?」  
                 

                    
1 きび団子は日本一か? 
                           
 「桃太郎さん、桃太郎さん! お腰につけたきび団子、一つ私
にくださいな!」 
 この童謡を知らない日本人は、たぶんいないでしょう。いつの
時代か定かではありませんが、鬼ケ島から来た鬼たちが、村を荒
らしたり子どもをさらったりして、村人を困らせていたそうです。
それを伝え聴いた桃太郎は、鬼退治に行く決心をしました。そこ
で、まずお婆さんに日本一のきび団子を作ってもらって、旅に出
るというお話です。   
 ところで、書かれている本によって「桃太郎」の内容が少しず
つ違います。そこで、児童用のものでなく、なるべく古い様式を
保つものを探してみました。以下です。   
                     
 
桃太郎は、じさとばさに見送られ、鬼ケ島めざして出掛けまし
た。しばらく行くと、犬がやって来ました。「桃太郎どん、どこ
に行くのですか?」「鬼ケ島へ鬼退治に行く!」「お腰のものは
何ですか?」「これか、これは日本一のきび団子。一つ食えばう
まいもの、二つ食えば苦いもの、三つ食えば辛いもの、四つ食え
ば、頭の鉢がざるになる!」「それでは、一つください、おとも
します!」       
 その後、猿と出会いキジとも出会いますが、同じように、一つ
のきび団子を与えて、おともにつれて、桃太郎は鬼ケ島へと勇ん
で向かったのでした。   
                                           
                       

2 桃太郎は人使いがうまい!
                          
 かなり昔から、日本人にとって米はうまく、きびは米ほどでは
ないと知られています。きびは、米の取れない痩せた土地で収穫
されるものでした。ですから、「日本一のきび団子」と言います
が、本当に美味い食べ物であったのか疑問だと言えるのではない
でしょうか。しかし、庶民にとってのきび団子は、贅沢な食べ物
だったのかもしれません。

 また、きび団子を一つ食うならうまいが、四つも食べると、頭
がざるのようにスカスカになってしまうというのですから、さな
がら「たくさん食べると狂牛病になってしまうぞ!」と脅してい
るようなものです。
 どうやら、桃太郎さんは正直者とは言えず、人の欲望には限り
がないことをよく知っている人物のようです。桃太郎さんは、何
か利益になるものを与えないと、人間は動かないと見ているかの
ようです。

 例えば、村人を救うという大儀があります。その大儀に馳せ参
じるような人間もいます。なにしろ、悪を懲らして民衆を救うの
ですから、ヒーローになれます。自分の益にもならないのに命懸
けで参戦する人間は、現在でもいます。

 エニアグラムで見るなら、「世界と肯定的に結び付いているタ
イプ(261)」によく起こり得る傾向です。とくに怖さ知らずで大胆
になりがちなタイプ2の中には、自分の利益のために動いていると
取られると、遺憾に思う人がしばしばいます。そんな性格ならば、
きび団子など貰わなくても、意気に感じて、大将の供に付いていく
可能性があります。

 そうなると、桃太郎さんは、タイプ2の可能性は低く、どちらか
というと「世界と否定的に結びついているタイプ(837)」の可能性
があります。欲望を肯定的に捉えるタイプで、かつ、他人をコント
ロールするのがうまい性格ではないかと考えられるのです。


3 強い者が大将になる
  
             
 犬を、「忠義の象徴」だと読むことがあるようですが、「2・6
・1は忠実な気質が色濃くあるタイプです。それゆえ、上記のよう
に、実利を得られなくとも、「正義の戦い」に馳せ参ずるかもしれ
ません。そして、猿は「知恵の象徴」であり、きじは「勇気の象徴」
と語られることがあります。 
                 
 桃太郎さんは、それぞれの特性をよく分かっており、その特性を
活かして戦いに望んだようです。つまり、桃太郎さん自身に知恵が
あるのではなく、彼には統率力があり、怖い鬼も恐れない強い人物
であると考えられます。
 仮に、桃太郎さんがタイプ5ならば、知恵ある人が大将になるよ
うな展開のお話になるはずではないでしょうか。
        
 統率力があるタイプというならば、タイプ8です。このタイプに
とっては、タイプ5のような知恵者で、かつ権力者になりたがらな
い人物を家来にすればよいのです。タイプ8は行動力があり、知恵
を活用しますが、タイプ5は軍師タイプで、大将にはなりたがりま
せん。どちらかというと面倒臭がり屋で行動力はなく、権勢欲もさ
ほどありません。

 結論的に言えるなら、桃太郎さんは、タイプ8である可能性が最
も高いと考えられます。
                      
 なお、当エニアグラム性格学では、イメージ的には、犬または狼
タイプは「1・6・2」であり、群れを作り、互いに協力し合う集
団を形成しやすいタイプと言えます。猫または虎タイプは、「7・
3・8」と考えられるかもしれません。群れを作らず、個人行動を
して、協力関係を作りにくいタイプと言えるでしょう。そうなると、
「4・9・5」は、もぐらやパンダやゴリラ、象などが該当するか
もしれません。ただし、この3つのタイプにピッタリと当てはめら
れるのか疑問であり、少し無理があると考えています。

                 

4 鬼を征服して従わせたがる

 さて、鬼の大将は「おれは今の今まで、桃太郎どんのような強い
男がいるなんて知らなかった。これからは悪いことはしないから許
してくれ」と、降参します。そこで桃太郎は、鬼どもを許してやり、
宝物を荷車につみ、「よいこら、えいこら、えんやらや」と元気に
故郷に帰ります。それからは安楽に暮らしたということで物語は終
わります。
      
 桃太郎さんは、鬼に許してくれと懇願されたら、許すのですから、
鬼を撲滅するという考え方ではないようです。鬼とは「心悪しき者」
の象徴ですから、悪いことをした人間は、永久に牢屋に入れるか、
封じ込めるか、はたまた根絶しないことには安心して暮らせません。 

 桃太郎は悪人を撲滅することはできないことをよく知っていると
考えられます。また、強い人間は、悪者をふれ伏させることができ
るのであり、強さこそが最も価値があると見る性格だと考えられま
す。
 また、自分の強さにふれ伏す人間や従う者が要りますから、撲滅
とか根絶させるという発想はあまりしないでしょう。これは、攻撃
タイプによくある考え方です。しかし、防御タイプにとっては、恐
ろしい鬼がいない世の中にならねば、安心できませんから、このよ
うな考え方は取りにくいと考えられます。

                 

5 誰もが正義の士になりたがる
       
 タイプ8の人心掌握術は、賞罰をはっきりとさせることであり、
恩賞を与えて人を使い、命令通りに動かない人間は辞めさせます。
褒美や利益を与えれば、人は動くもので、報奨金なしで動く人間
がいるとは考えられない人です。

 「きび団子」はその象徴であり、何も与えないで供になる人間は
いないと考えやすいのです。それゆえ、やはりタイプ8のような価
値観が、物語の基底にあると考えられます。 
 また、タイプ8の性格を知れば、桃太郎のように悪者をやっつけ
て、宝を持ち帰り故郷に錦を飾るのは理想的な生き方ではないでし
ょうか。また、タイプ8にとって根源的な自己実現だと考えられま
す。
 
 そして、強い人間になり人を従わせたがり、財宝を得て、故郷に
錦の旗を携えて帰りたいというのは、タイプ7w8にもある願望で
す。
 例えば、映画「インディ・ジョーンズ」は冒険の旅にでる学者が
主人公で、この映画を7w8の作品だと紹介しています。普段は、
知的な職業に就いて安定した生活ができ、ときに、冒険の旅に出る
のが理想的だと思う人たちが多いようです。
 日本人なら、故勝新太郎さんが7w8にあたりますが、「座頭市
シリーズ」のように貧しい者の味方をして、悪者たちを格好よくや
っつけてくれます。従って、桃太郎さんをタイプ7w8と見ること
もできます。

 なお、桃太郎のようなヒーローになりたがる男性は少なくありま
せん。故郷に錦を飾ることを願う人たちが多く、それゆえ、長く語
り継がれているのでしょう。そして、どのタイプであろうとも、「
正義の士」になりたがるものではないでしょうか。

                
6 力持ちで怠け者の桃太郎
                 
 古い形式が残っているものを見ると、桃太郎は怠け者として描か
れています。以下です。

 
村の子が「桃太郎、山に柴刈りに行かないか」と誘いますが、な
にかと理由をつけて行きません。三度誘われて、ようやく山に行き
ますが、それでも柴を刈らずに寝てばかり。「とうとう夕方になる
まで、なんにもしませんでした」ので、村の子どもたちはあきれは
てました。しかし、桃太郎はおおあくびをして立ち上がると、柴の
代わりに、大きな松の木を根元からひっこぬいて、軽々とかついで
村に帰ったようです。


 古い形式の桃太郎さんの性格を考えるなら、それはタイプ9w8
の男性に該当するかもしれません。タイプ9w8の男性の腰の重さ
は抜群で、怠け者も少なくありません。しかし、それでも周囲の人
たちの目は気になり、皆の役に立つようなことはしたがります。
 
 これは、桃太郎が力持ちであることを示すエピソードですが、タ
イプ9w8は体が大きくいかつい傾向があり、力持ちの人たちが多
いのかもしれません。アバウトで、細かい使い走りはしたがらず、
でっかい大技をして大者に見られたがる人たちです。松の木を根っ
こから引っこ抜くなどは、荒っぽくて力技があると見せたがるタイ
プ9w8らしいエピソードです。また、ウイングに8があることは、
世界を否定的に見る傾向を少し持ち合わせています。

 従って、桃太郎をタイプ9w8と見ることもできます。しかし、
桃太郎が、このような腰の重い男性だとしたら、タイプ7w8の男
性は該当しないでしょう。なぜなら、タイプ7は腰が軽くて敏捷な
タイプだからです。

 
7 桃太郎は侵略者か?   
                   
 芥川龍之介(タイプ4w5)が著した「桃太郎」を併せて紹介し
ます。彼は、たぶん史上初めて桃太郎を「侵略者」として扱った人
間ではないかと思われます。以下は、 芥川龍之介全集第五巻「桃
太郎」(岩波書店)より抜粋しており、少しまとめています。

 
桃太郎が鬼ケ島の征伐を思い立ったのは、畑仕事を嫌ったせいで
あり、老夫婦も腕白ものに愛想をつかして一刻も早く追い出したか
ったからである。征伐への途上、野良犬と出会い、「きびだんごを
一つください」と言うので、「一つはやられぬ。半分やろう」と、
押し問答になった。犬はあきらめて半分もらって伴をすることにな
る。猿と雉も半分あたえて家来にした。

 この三匹の家来は仲が悪く、それぞれ相手を馬鹿にして、いがみ
あいを続けた。あわや三匹が決裂しそうな時に「そんな奴らは伴を
するな。鬼を征伐しても、宝物は分けてやらないぞ」と桃太郎。「
何でも好きなものを出せる打出の小槌という宝物がある」と言って、
欲張りな三匹をその気にさせて、旅を続けた。

 ところで、鬼ケ島は、絶海の孤島であったが、実は椰子がそびえ
たち、美しい天然の楽土だった。楽土に生まれた鬼は平和を愛して
いた。鬼たちは、人間の恐ろしさを子どもたちに話して聞かせてい
た。
 「お前たちも悪戯(イタズラ)をすると、人間の島へやってしま
うよ。人間はね。男でも女でも嘘はつくし、欲は深いし、焼き餅は
焼くし、うぬぼれは強いし、仲間同志殺し合うし、火はつけるし、
泥棒はするし、手のつけられない毛だものなのだよ……」

                       
8 昔話に親しめるか          

 この続きを読みたかったら、図書館などで探せば見つけられると
思います。また、タイプ4w5の人たちによく起こる得る人間嫌い
な傾向が、あますところなく出ていると思われます。なお、当会の
理論に、「タイプ4は人間一般コンプレックス」に陥りやすいタイ
プと紹介していますが、ここと関連性があります。

 しかしながら、タイプ4の男性も、強くて逞しい男に憧れていま
す。ブルース・リー(4w5と判定済み)のように、格闘技をマス
ターしたがる人も結構いて、ジムに行けばタイプ4の男性たちと出
会えるかもしれません。しかし、芥川龍之介のように、人間を嫌悪
しているタイプ4も多いように見受けられます。

 もう一つ、北野武さん(7w8と判定済み)が、面白い「桃太郎物
語」を書いています。タイトル「ビートたけしのウソップ物語」の
中にあるものです。一部だけの紹介ゆえ、著作権には触れないだろ
うと思います。 

 
大きくなった桃太郎は、イヌ、サル、キジをお供に連れて鬼ケ島
へ鬼退治に行きました。そして、鬼をやっつけてたくさんの宝物を
持って帰ったところ、警察がきて桃太郎を逮捕しました。何も悪い
ことをしていない鬼のところへ押し込み、鬼を殺して宝物を奪った
罪です。罪名は強盗殺人、不法侵入、器物破損、傷害です。桃太郎
は「侵略でなく進出だ」といいましたが聞き入れられず、死刑にな
りましたとさ、めでたし。
 


 ちなみに、名だたる著者の本や、インターネット上でも、「柴刈
り」とは書かず、「芝刈り」と書かれており、しばしば発見します。
「柴刈り」は煮炊きに使う燃料を刈り取ることですから、現代人に
は想像できにくい生活用語です。 

 「桃太郎」のみならず、昔話は、どこかなつかしい記憶をよび覚
ますものですが、現代生活とは相当にかけ離れており、理解できに
くくなっているようです。

 とはいえ、鬼が「人さらい」をしたので、桃太郎さんは鬼征伐に
出かけたのですが、現代にも「人さらい」はあるようです。また、
きな臭い匂いが西方からも漂って来ます。平和な社会はいつになっ
たら訪れるのでしょうか。