特集シリーズ                                
            

 
  
  ハロウィンの夜に遭遇した事件

 
‥日本の留学生は「フリーズ!」がわからず亡くなったのか?‥


 
10年前のことです。1992年10月、アメリカの地方都市バト
ンルージュに留学していた服部剛丈(ヨシヒロ) 君が、ハロウ
ィーンの夜に訪問先を間違えて、銃で撃たれてしまうという不
幸な出来事がありました。 
 縁があって、私は事件後にできた「YOSHI の会」に参加しま
したが、現在は同会に参加していません。あれから10年経っ
て、ようやく語れるかもしれないと思い、この事件を取り上げ
る決心をしました。 

  

1 事件のあらまし 
                              

 
ヨシ君のホームステイ先だったヘイメーカー氏は、クリント
ン大統領に請願書を出しています。まず、その請願書から抜粋
して、事件のあらましを伝えたいと思います。 
  

   
 
「事件は「ヨシ」と私どもの息子ウェブが、郊外で催される
ハロウィンパーティにでかける途中に起きたものです。二人は
仮装してお面をつけずに、訪問先と思った家をノックしました。
応対に出た婦人は、二人の少年を見て、ひどく驚いた様子でし
た。彼女はドアを閉めて、夫を呼びました。
 一方、ヨシとウェブは、家を間違えたことに気づき、歩道へ
引き返しました。その時、婦人の夫が、44口径マグナムを手に
して、車庫から現れました。ヨシは「僕たちはパーティーのた
めに来たんです!」と言いながら、家の方へ歩いて行きました。
男は、少年たちに向かって「フリーズ!」と叫びました。ヨシ
は危険を察知できなかったのか、ウェブが戻るようにと歩道か
ら叫びましたが、男の方に近づいて行きました。男は至近距離
から、ヨシの左胸を撃ち、ヨシは、数分後に息が絶えました」

                  
2 事件の補足説明 

 
 ヨシ君の母親服部美恵子さんと、友人である坂東弘美さんが
著書を出版しており、その「海をこえて銃をこえて」より、抜
粋しています。

   
(坂東さんのサイトとはリンクしています。
         
http://www1.u-netsurf.ne.jp/~bdk/)

・男はピアーズ、30歳です。マグナム44は撃ったら確実に倒せる
 必殺の銃であり、それ以外にも、彼は5個の銃を持っています。

・事件前夜にピアーズ夫人は、前夫と子どものことで争っており、
 前夫が「俺の子どもに手をだす奴がいたらぶっ殺す!」と怒鳴
  っていた。そのせいか、その日、夫人はおびえていた。

・前夫は赤い車を持ち、わが子との面会日が事件の日時にあたり、
 ヨシとウェブは赤い車に乗っていた。夫人は前夫の仲間と間違
  え ていたかもしれないと、夫人の友人が証言する。

・ピアーズ夫人は、夫には何も言わずに、ただ「ガンを持ってき
  て!」と叫んでいる。

・事件当夜のピアーズ氏の供述「フリーズと言ったが止まらなか
  った。それで撃った。173 〜175センチの東洋人だった。ドア
  の外に出なければよかった」         

・ピアーズ夫人の証人喚問では「私はドアを閉めて鍵をかけた時
 には、ほとんど家の中まで入ってきていました。すごく怖かっ
  たです」と答えている。          

・ヨシ君は当日、日本から来た女の子に会えると興奮していて、
  車を飛ばしていて、パーテイを予想して、うきうきしていたと
  ウェブ君は証言。

・事件の夜、ピアーズ氏はコークハイを飲んでいた。事件以前に、
 彼は自宅の裏庭にまぎれこんだ、さかりのついた近所の犬を射
 殺し、どこかに捨てに行っている。

・ヨシ君が銃口に近づいていったことを、ヨシの同級生たちは理
  解できる行動だと見ている。「私達はその理由がはっきりと分
  かる。ヨシは分からないことがあると話し手の目の前まで近づ
  いていく。それが彼なりの理解の仕方だと分かっていました」 


その他として

・ヨシ君の評判として取り上げたいのは、彼がサッカーのゴールキ
 ーパーをしていて、ボールを怖がらず、相手が突っ込んできても
 毅然と立ち向かったというもの。タックルはガッツに溢れている、
 と友人たちの弁。

・誰もがヨシを好きになり、彼のまわりにはいつも笑いがあったと
 いう評判。

・ヨシ君の母親の美恵子さんの弁として「母の願いを直感的に理解
 できる子で、よく勉強をし、スポーツも抜群、活発でひょうきん
 で、何にでも好奇心を示し、母親を大いになぐさめ支えてくれる
 存在だった」

・留学校で、ある時、ヨシ君は靴下をはかないで登校し先生に注意
 を受けたが、翌日、ソックスという名前のクラスメートを先生の
 所へ連れて行き、「これが僕の靴下です」と言ってのけたという。

 

   
 
3 その夜を想定する 

 
ヨシヒロ君の性格は、かなり明るくひょうきんで、どちらかとい
うと怖さを知らない元気な若者だろうと推察できます。そんな若者
が、ハロウイーンというお祭りに参加しようと出掛けました。少し
興奮気味だったようで、また、女の子と会う予定があるので、ハイ
になっていたかもしれません。ハイの状態にいると判断力は甘くな
りがちで、慎重さに欠けていたのではないかと予想できます。

 一方のピアーズ氏は、5個もの銃を持っているほどですから、相
当に用心深い性格だと考えられます。アメリカ社会は銃を持つこと
が普通であると言われていますが、それでも5丁とは多過ぎます。
また、マグナムは熊でも殺せる殺傷力の強い武器です。彼のような
都会人が持つ必然性は薄いと言えます。また、彼は近所のさかりの
ついた犬が、うるさく吠えるのが我慢できなかったらしく、射殺し
ています。かなり神経質な性格であることを物語っている出来事で
す。
                               

 また、ピアーズ夫人も相当に怖がりの人ではないかと予想できま
す。例えば、ヨシ君たちはドアまで来て引き返しています。にもか
かわらず、彼女は証人喚問で「ほとんど家の中にまで入っていた」
と答えています。この言い方は翻訳されているので正確に読み解く
ことはできませんが、「家の中にまで入ってきているような気がす
るほど怖い」。
 つまり、彼女はかなりの怖がりで気が小さいので、家の中に入ら
れてしまったような錯覚をするくらいな危機的な精神状態にいたの
ではと考えられます。恐怖に駆られて、思い違いをしていたので、
そのように証言したのではないでしょうか。 

   


4 恐怖の相乗効果!

 
例えば、親が子どもたちにお化けの話をしていたとすると、何気
ない小さな物音が、怖いものを連想する異様な音に聞こえます。て
っきり泥棒が入ったなどと思い込む子どもがいます。   

 そして、ピアーズ夫人は、この夜、怯えていたのは事実のようで
す。彼女はハロウィンの夜であることなどすっかり忘れていて、正
常な判断力が働かない精神状態にいたかもしれません。冷静な時な
らば、ヨシ君たちの服装は、ハロウィンの祭りのせいだと見るでし
ょう。

 しかし、彼女はかなり怖がっていて、そんな状態の時に、前夫と
同じ赤い車に乗った見知らぬ外国人がやってきました。前夫の仲間
が脅しに来たのかもしれないと考えた可能性もあります。見知らぬ
若い男が、わが家に入りこんでくるような様子に見えたのでしょう。
彼女の恐怖心は高まって、思わず知らず、夫に対して大声で「ガン
をもってきて!」と叫んでしまったと考えられます。

 一方、ピアーズ氏は、恐怖にひきつっている妻の声を聞いて、す
っかり異常事態発生と思いこみ、一番心丈夫な銃をとっさに手にし
て、戦々恐々とした気分で外に出ました。そして、勇気をふり起こ
して相手に「フリーズ!」と叫びました。しかし、若い男性が自分
の制止を無視して、一歩前に出てきたのです。彼はとっさに引き金
をひいてしまった……! 



5 あの夜、あそこに行かなかったら!

 
さて、このような予想が当たっているのか本当のことは分かりま
せん。しかし、十分にあり得ることです。そして、もしも、あなた
自身がこんな状況の中にいたら、冷静な判断をして、危険かどうか
をよく見極めてから行動できたでしょうか。
                     

 さて、ヨシ君の人となりは、母親から直接に聴いており、タイプ
2w1と判定できます。ちなみに、テレビの報道番組で、この服部
ご夫婦を観たことがある方は多いと思いますが、母親の美恵子さん
はタイプ2w1に当たります。父親はタイプ9w1で、会の集まり
で幾度もお会いして確認しています。
 
 お二人とも、物静かで無口、腰が重くて落ち着いてみえ、いつも
淡々としており、感情的になることは見たことがありません。会合
では、お二人が並んでいる場だけ、ひっそりとしていました。

 また、上記に載せたように、ヨシ君の性格は明るくエネルギーに
溢れており、フレンドリーで、警戒心の強い性格でないことは明ら
かです。タイプ2w1の可能性があるとみています。

 そして、銃を発射してしまったピアーズ氏と夫人は防御タイプ
(714)ではないかと予想していますが確定してはいません。
 
 この事件は、幾つものめぐり合わせの悪さがあります。また、銃
がなかったら、起きえない事件だったのは事実です。しかし、ヨシ
君は、見知らぬ人が近づいてくるだけで恐怖にかられる人がいると
は、考えられなかったのではないでしょうか。


                   
6 置かれている環境も違う!

 
ヨシ君の育った日本は、アメリカと比較すれば、かなり安全な市
民生活のできる国です。一方、ピアーズ夫婦は、「自分のことは自
分で身を守るべきだ」という考え方が強い、銃社会に住んでいます。

 さらに、ヨシ君はタイプ2で最も警戒心の少ないタイプで、ピア
ーズ夫婦は警戒心が強い気質だと考えられます。

 
被害者と加害者の、それまで育った環境が違いますが、性格も違
います。事態を危機的とみる「判断基準の違い」が大きすぎるので
はないでしょうか。
 もしも、ヨシ君が警戒心の強い性格の青年であるならば、恐怖に
かられている人の表情を読み取って、一歩前に進み出ることはなか
ったでしょう。もう少し不安感の強い性格ならば、ウェブ君の後ろ
に付いていただけかもしれません。むしろ、ウェプ君のほうが土地
の人間なのですから、訊ねる役をするのが順当です。しかし、ウェ
ブ君はヨシ君に任せていたのですから、ヨシ君より人見知りが強く、
怖がりなタイプと予想します。

 また、ピアーズ氏がヨシ君のような性格の人ならば、銃を威嚇に
使うだけで、発砲しなかったかもしません。たとえ、妻が緊迫した
声を出しても、それほど心理的な影響を受けることは少なく、親切
に道を教えていたかもしれないのです。ヨシ君は、てっきり道を教
えてくれる人だと見て、それで近づいたのではないかと考えられる
のです。


 判決結果   

 刑事判決は、1993年5月に、小陪審が開かれ、陪審員の全員一致
で無罪評決が出ました。被告のピアーズ氏の行為は正当防衛と認
められました。
 そこで、ヨシ君の両親は、民事訴訟を起こして、1994年9月に裁
判が開始されました。損害賠償金65.3万ドルとなり、民事判決では
勝訴になりました。また、この裁判では、「ヨシ君の様子を見て、
身の危険を感じた」というピアーズ氏の主張は退けられました。
「銃の使用に特別の注意が必要だと定めているルイジアナ州法に反
した行為」だと判断されたようです。詳しくは
「YOSHI の会」のホ
ームページをご覧ください(以下)。
  
  
http://www11.plala.or.jp/yoshic/index.html
   
                  

 
仮に、ヨシ君がエニアグラム性格学を学んでおり、性格の違いは
大きく、防御タイプの恐怖心の強さを知っていたならばと考えざる
を得ません。防御タイプは、過剰防衛をしがちですが、それだけで
なく、この件は、幾つもの巡り合わせの悪さがあります。また、ア
メリカが銃社会であったことも要因としてあると考えられます。
 (ちなみに、服部さんご夫妻は、現在でも銃のない社会にしたいと
活動を続けておられます)

 しかし、性格の違いも大きかったと考えざるを得ません。エニア
グラムは、性格(気質)の違いを知るものです。行動パターンの違い
を学び、自己防衛戦略が9つあることを知り、状況に応じて、適切
に対処できる方法を学ぶものです。

人間関係を円滑にするためだけにあるのではなく、さまざまな危険
を予測できるものです。