ぱんさのマイナー植物園/ウォレマイパイン

ウォレマイパインとは
 

ウォレマイパインとは

 ウォレマイパイン(Wollemia nobilis)は、近縁種がかなり前から化石で知られていた植物です。ウォレマイパインは、裸子植物ナンヨウスギ科の仲間の一つで、これらの仲間は、恐竜が闊歩する中生代ジュラ紀(2億年前〜1億4600万年前)には、現在とほぼ同じ姿で多く繁栄していました。
 すでに化石でしか残っていないと思われていましたが、1994年にオーストラリアのウォレマイ国立公園(シドニーの北西約200キロ)の峡谷の谷底でブッシュウォーカーであるデビッド・ノーブル氏により生きたものが発見されました(20世紀最大の発見とも・・)。この植物は、新属新種に分類されました。
 野生でも成木は、とても狭い範囲に100本程度しかなく、とても貴重な植物です。

化石とウォレマイパイン

 新生代第3紀(200万年前)の「Dilwynites」と呼ばれる花粉化石と現存の植物の花粉とを比較した結果、ウォレマイパインの花粉が最も近いものとされました。つまり、200万年前には存在していたことになります。
 さらに遡って、1億5,000万年前の中生代ジュラ紀の植物化石である「Agathis jurassica(アガチス・ジュラシカ)」は、ウォレマイパインと極めて近い植物でないかと言われています。この化石の発見は、生きているウォレマイパインの発見以前であり、当時既に知られていた、ナギモドキ(アガチス)属のカウリマツ(後出)の近縁種とされこの学名が付けられました。実際には、カウリマツよりもウォレマイパインに近い植物と考えられます。

「Agathis jurassica」の画像:The Virtual Fossil Museum
「Agathis jurassica」の画像:Australian Museum Collections
「Agathis jurassica」の画像:Australian Museum Collections
「ジュラナギモドキ(Agathis jurassica)」の画像:群馬県立自然史博物館

 私が知っている植物化石の中で、更に古くて形状が良く似ているものとしては、三畳紀(2億5,100万年〜2億年前)の球果類(マツ、スギの仲間)である、Podozamites(ポドザミテス)やStorgaardia(ストルガルジア、激似)があります(こりゃまためちゃくちゃ古い・・)。私は専門家ではありませんので、見た感じをそのまま言っているだけなので、ここまで遡ると眉唾ものになってしまいますが・・・(笑)。
 
生きている化石?

 「生きている化石」とは、以下の条件を満たすものであり、ウォレマイパインは、すべてを満たす生きている化石です。
  • 太古の化石種と比較してその現生生物種の形態があまり変化していない。
  • かつて繁栄したが現生種は細々と生き残っている。
  • 現生種が再発見される前に化石の方が先に発見され研究されている。
(ウィキペディア「生きている化石」より)
 と、言われると、何となくジュラシックな雰囲気に見えてきます
 
 「太古の化石種と比較してその現生生物種の形態があまり変化していない。」ということであれば、ゴキブリ(古生代石炭紀)やイチョウ(中生代)であってもそのとおりであり、同じ中生代に繁栄した、ナンヨウスギの仲間では、シマナンヨウスギ(Araucaria heterophylla)、チリマツ(Araucaria araucana)、カウリマツ(ナギモドキ、Agathis australis)も同じです。ただ、これらは昔から生きたものが知られており、また、いろいろな所で見ることができます。ウォレマイパインとどこが違うかというと、簡単にいえば「珍しさ」が欠けているだけで、そういう意味で、新発見の「珍奇」さから、ウォレマイパインがモテるということなのです。
 メタセコイア(Metasequoia glyptostroboides)なども、新生代(100万年前頃、ウォレマイパインよりはすっと最近。)に繁茂して化石としてしか知られていなかった訳ですが、中国で生き残っているのが見つかって、それが繁殖量産されました。その後、いたるところで植栽されるようになり、今の状況があります。改めて感動する人は、多くないでしょう。メタセコイアは成長速度が速いので、植栽されている公園の周りの民家からは、伐採しろとの苦情が出るほどです。
 
 また、ここで誤解があってはいけないので、はっきり言わせてもらうと、ウォレマイパインが中生代に生えていたものとまったく同じ種という訳ではありません(同じだとはどこにも書いてありません。)。少なくともジュラ紀、白亜紀の温暖な気候で、恐竜と過ごしていた植物であるならば、ウォレマイパインの耐寒性がそんなにあるはずはないと思います。やはり、ジェラシックな雰囲気があっても、少なくとも現代の気候にあう性質をもつ新しい種であることは間違いないと思います。
 
 したがって、「生きている化石」とはいっても、狂喜乱舞するようなものではなく、雰囲気の変わったちょっと由緒(?)ある(学名の種小名「nobilis」は、発見者の名前から。くしくも「気品のある、立派な」の意味もある)植物のように考えるべきだと思います。  少なくとも、10年も経てば、(メタセコイアのように)どこにでもある樹木になるかもしれません。おそらく、本当の意味で、ウォレマイパインの良さ、愛らしさや有用性が評価されるのはそれからでしょう。
 
 私たち一般の日本人が目にする、裸子植物のマツ、スギ、マキの仲間と比較すると、ウォレマイパインの形状はかなり異質に見えますし、葉の辺りは、どちらかというとシダやソテツのように見えるでしょう。けれど、この葉に似た植物は、ナンヨウスギの仲間では他にもあります。
 よく似ているのは、ナギモドキ(アガチス)属のカウリマツ(ナギモドキ、Agathis australis)です。トンデモなくウォレマイパインの葉の形状が変わってるという訳ではありません。(もちろん、細かく見れば違います。)
(イヌガヤ(Cephalofaxus harringtonia)も葉の雰囲気は似ていますが・・・)
 

ウォレマイパインの量産・販売戦略


「正式な」木に付属する、マニュアル、認定証明書、シリアルナンバータグ。
 さて、こうした植物は、自生地で大切にされ保護が行なわれるのは通常のことです。しかし、ある種の人たちにとったら、お金儲けに役立つ植物でもあるわけです。そうなると、(珍しければ、珍しいほど)いかに立ち入り禁止、保護されても、盗掘されて最後には自生地が破壊されてしまう危険性は避けられません。
 そこで考え出された手法は、繁殖させ正規のルートを構築しどんどん売ろうというものです。なんとすばらしい発想でしょうか。有効な繁殖方法や栽培方法を研究し、計画的に繁殖させ、販売すれば、盗掘しようとする人たちにはなんのメリットもなくなってしまいます。
 さらに、この木に正規販売品であることを証明する証明書と1本1本にシリアルナンバーを付けるということをして、何と、新たな商品付加価値(ブランド?)さえも生み出してしまったのです。ブラボー!
 それは、盗掘を防止すると同時に、私たちのような好事な栽培家にメリットがあるだけではありません。収益金の一部は日豪の絶滅危惧植物の保護と骨髄バンクに寄付されるのです。
 私は、この素晴らしい戦略には脱帽です。
 
 

 
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