夏は毎年同じように暑いわけではない
 この記事は2015年7月に記載したものです。内容はその時点のものです。

夏は暑い
 我々が栽培する植物を考えるとき、夏の暑さを好むものもあれば、夏涼しい方を好むものも少なくない。冬季に栽培環境の気温を上げるということは意外に簡単なのであるが、夏の暑さを和らげることは簡単ではない。前述のとおり日本列島は縦に長く、亜寒帯から亜熱帯まで気候はかなり幅広い。同じ本州であっても、高地寒冷地、日本海側、太平洋側ではかなり違う。違うといっても、趣味のために引っ越すわけにはいかないので、その住処に合わせて工夫して夏を過ごさなければならない。
 だいたい毎年夏は暑いものだけど、毎年の暑さにも差があって、この差が植物の状況にかなりの影響を与える。涼しさが好きな植物は、暑ければ打撃を受けて最悪枯れてしまう。去年の夏は上手く過ごして「へへん、簡単じゃん♪」て調子に乗ってると痛い目にあう。
 本ページでは、夏は毎年同じように暑いものだと思っていて、去年さほど問題なかったので今年も大丈夫だろうと、夏の暑さを甘く見ている人のために記載する。

夏の暑さの指標を考える
 そこで、毎年の夏の暑さを表す時に何を指標とするかを考えてみよう。
 普通の人が真っ先に考えるのが「最高気温」だろう。ニュースなどでも、本州のどこそこで最高気温○○℃を記録した・・とか報道される。脳の単純な人はそればかりに気をとられやすいのだが、我々の身近な植物の育成の場合、実は「最高気温」よりも、夏の「最低気温」の方が重要なのである。日中はかなりの暑さになっても、夜間、最低気温が下がれば比較的元気に過ごせる植物が多いことに気付いているだろうか?
 以下は、太平洋ベルト地帯本州中部某地域の2010年から2014年までの7、8月の日ごとの「最低気温」をグラフ(縦軸:最低気温、横軸:日)にしてみたものである。どうだろう、各年の夏の状況が分かるだろうか?
 はっきりいって、このグラフをどんなににらんでも、データがごちゃごちゃしているだけで何も分からないと言っていいだろう。


 
熱帯夜日数を指標にすると
 そこで少し考え方を変えてみよう。植物は、「自然界」においては、特定の気温になったからといっていきなり枯れるようなものではない、暑い日が続いて、徐々に元気を失い生気を失いそしてついに枯れる。つまり、「気温が下がらない」状況の累積が死をもたらすものと考えていいと思う。
 この場合、何℃以上が続くと植物を弱らせるという境界の気温がどのくらいかは、植物によっても違うだろうし、本ページの主旨からは離れてしまうので、こだわらないようにしよう。
 人間界において、夏季の最低気温を表すものとしては「熱帯夜」がある。日の最低気温(通常明け方に記録する。)が25℃を超えるのを「熱帯夜」と呼ぶ。熱帯夜ともなると暑苦しくて、人間様においては何らかの冷房装置がないと寝付けない。
 日中の最高気温に比べて、「熱帯夜(最低気温25℃以上)」というものがあまりポピュラーでないのは、そのとき人間は涼しいお部屋でぐーすか寝ているためである。だから、ニュースで報道されるのは、生活に直接関係ある日中の最高気温ばかりになる。
 この熱帯夜(最低気温25℃以上)というのは、人間界の指標なのだが、私の経験上からは植物においてもかなり「重要な指標」と思う。
 そこで、先ほどと同じ地域の2008年から2015年までの7、8月の熱帯夜の日数をグラフにしてみたのが以下である。
 *この記事を記載したのが2015年7月30日なので、2015年のデータには7月の31日分と8月分はない。
 

7月熱帯夜日数 8月熱帯夜日数
2008年 13日 12日
2009年 2日 10日
2010年 12日 26日
2011年 11日 18日
2012年 11日 19日
2013年 8日 17日
2014年 10日 11日
2015年 11日 -

 このグラフを見ると、夏の暑さが毎年違うということが一目瞭然だろう。
 だいたい7月の熱帯夜日数は毎年それほど変わらない(2009年の異常な冷夏を除いて。)。ところが、8月の熱帯夜の日数はかなり違う
 2010年はこの数年間において、まれに見る酷夏で、8月の熱帯夜は26日あり、ほとんど毎日が熱帯夜であった。実は、この年に比較的冷涼さを好む植物をかなり枯らしてしまった思い出がある。その前年2009年が8月熱帯夜が10日しかない冷夏であった。
 このグラフを見ると、8月の熱帯夜日数は、2010年をピークとして毎年少なくなる傾向にある。だからといって、2015年の8月の熱帯夜日数はさらに少なくなるとは言えない!逆に、2010年の(植物にとって)灼熱の地獄が再来するのかも知れない!
 この記事を書いているのが2015年7月の終わりなのだが、去年の2014年はどうだったか見てみよう。2014年の8月の熱帯夜は11日と月の半分以下で、まず冷夏だったといってよいだろう。
 毎年夏は同じように暑いと思っている人、そして、この1、2年に植物栽培を始めたビギナーさんに言っておこう、「去年上手く夏越しできたからといって調子に乗っても、今年も上手くいくとは限らない」。
 
育てられるモノ、無理なモノ
 全国主要都市の気温データは「直近の最低・最高気温の推移(日単位)」を見てもらうと良い。日本列島は南北に長いので、寒い地域もあれば年中暖かい地域もあるのは当たり前である。しかし、そんな極端な地域を除いても、じっくり見ると、同じような緯度の地域でも、地域によって熱帯夜日数がかなり違うのに気が付く。
 似たような地域なのに、冷涼な気候を好む植物がある地域ではうまく作れて、自分のところではうまく作れないってことがよくある。データをよくよく見ると熱帯夜がやたら多いとかの原因で、管理方法や栽培家の愛情では何ともならないことがある。地域の気候特性は変わらない。どれだけチャレンジして枯らしても、無策のままで、栽培環境を画期的に変えない限りは同じである。そういう場合は、「育てられないモノ」なんだと諦めるのも必要だと思う。もちろん、効果の知れない怪しげな方法ではなく「有効な方法」で栽培環境を画期的に変えればいいのではあるが。