チランジア・ウイルス? |
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植物ウイルスは、栽培家にとって大敵中の大敵であって、感染・発症すればいかなる治療法もなく、感染拡大を防ぐために感染株を廃棄するしかない。もし、チランジアに植物ウイルスが存在するのであれば、他の植物と同様慎重な取扱や観察が必要になるだろう。 およそあらゆる植物に、既知、未知のものを含めて感染する植物ウイルスが存在している。植物ウイルスは、宿主となる植物の系統ごとに多数種存在しており、感染する宿主となる植物の範囲が非常に広いものもあれば、狭いものもある。 植物ウイルスといっても、症状がほとんど出ないものもあれば、激烈な症状が発生する場合もある。また、複数のウイルスに重複感染したときに激烈な症状になるものがある。 従来から研究があまり進んでいないため、チランジア(パイナップル科)の植物ウイルスについてはほとんど聞かないが、「聞かない」からといっても、それは「存在しない」ということではもちろんない。 チランジアに系統的に非常に近い植物で、農業・園芸的に栽培伝統のあるイネ目、ショウガ目においては、研究が進んでいるために多数のウイルスが知られており、系統的には離れるが、同じ単子葉類では、ユリ目(ユリ等)、キジカクシ目(ラン等)においては更に多くのウイルスが知られている。 チランジアと同科近縁であり、農業用作物として多く栽培されている「パイナップル(Ananas comosus)」であれば、研究が進んでいるのであろうと、植物ウイルスが報告されているかを調べてみた。十分な研究が進んでいるとは言い難いが、パイナップルに感染する以下のような植物ウイルスが海外では報告されている。 ●Tomato spotted wilt virus(TSWV、トマト黄化えそウイルス) ●Pineapple chlorotic leaf streak virus(PCLSV) conspicuous chlorotic leaf streaks. ●Painappale mealybug wilt-associated virus 1(PMWaV-1) yellowing and flaccidity of young leaves, necrosis of leaf tips; plants wilt and may die. ●Painappale mealybug wilt-associated virus 2(PMWaV-2) *Tomato spotted wilt virusは、トマトをはじめとしてナス科、キク科、アヤメ科等広い範囲に感染する恐怖のウイルス。詳細は、下記別項を参照。 *Painappale mealybug virusは、コナカイガラムシ媒介。パイナップル萎凋病の複合原因のひとつと考えられている。 以下は、チランジアの近縁植物における植物ウイルスをまとめたものである。ここに記載の植物とウイルスがすべてではなく、ごくごく一部を挙げたものにすぎない。 分類系統は、大場秀章氏編著「植物分類表」から作成。 ウイルス種は、土崎常男氏他編「作物ウイルス病事典」から作成。パイナップルのウイルスは、沖縄県農業研究センター名護支所。
見てのとおり、チランジアに近縁の植物には、植物ウイルスが多数報告されている。それならば、チランジアにも激烈な症状をもたらす植物ウイルスが存在するのか? 当然パイナップルにも存在するし、チランジアだけがウイルスの神様から特別扱いされているとは考えにくいので、答えは「あるだろう」。園芸的な研究が進んでないために未知なだけで、少なくともパイナップルと共通の「チランジア・ウイルス」は存在するだろうし、その他の宿主の幅広いウイルスに感染することも考えられる。 そして、それによりあなたのチランジアには、治癒不可能で激烈な症状が発生する危険が常に潜んでいるのである。 |
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症状 |
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一般の植物に現れるウイルスの症状は、ウイルスの種類によって様々であるが、 ●葉の色が緑と薄緑~黄色のモザイク症状 ●葉の変形、委縮 ●葉の一部壊死(えそ) ●成長不振 等である。 もちろん、それらの症状は「日焼け」等の管理不十分や害虫、真菌類の感染によってももたらされることもあるが、それらに対処しても、新しい葉や仔株においてこうした症状が継続的に見られる場合は、ウイルス感染を疑う必要があるだろう。 ウイルスの判定は、既知のものであれば病徴による判定や判別植物による判定、血清反応などで可能であるが、未知のもの、あまり知られていないものについては、ウイルス分離や電子顕微鏡による観察等長期にわたる研究が必要になろう。 これらは、到底無理なので、以下では、我が家で発生した、発生経過や症状からウイルス感染が疑われるものを記録し、諸兄の判断にお任せしようと思う。 ウイルス感染によるものと疑われる症状 |
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経過・感染経路 |
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数年前にチランジア専門店からいくつかの株を購入したが、その中で1本だけ僅かに同様の症状が出ていたものがあった。その株については、「日焼け」を疑ったのであるが、環境改善しても症状が進み最終的には枯死してしまった。 今回感染が疑われる株は、かなり古くから栽培していたものであるが、このような症状がでることがなかった。これがウイルスであれば、おそらく先の株から感染したものと思われる。 一般的に植物ウイルスの感染は、汁液伝染・接触伝染(植物同士の接触・擦れ合い、人間の手による、ハサミ等道具による)、生物媒介伝染(アブラムシ等)、土壌伝染等が知られているが、汁液伝染・接触伝染のように思われる。 |
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治療方法・予防 |
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治療方法はない。治癒しないので感染株は焼却処分が一般的。 予防としては、 チランジアの新規導入時には、株を十分観察し、疑わしい場合は導入しない。隔離栽培を行う。 チランジア同士を触れ合わさない。チランジアに触れない。道具類の使いまわしに注意。 パイナップルではコナカイガラムシ媒介の植物ウイルスが知られているので、害虫は早めに駆除する。 などがある。 |
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Tomato spotted wilt virus(TSWV、トマト黄化えそウイルス)について |
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パイナップルにも感染するトマト黄化えそウイルスによるトマト黄化えそ病は、日本をはじめとして世界各地の各種植物で広く発生している。 我が国では、ナス科、キク科、マメ科、アカザ科、ヒユ科等での感染が報告されている。伝染源は、キク科のダリア、同科の野草のノゲシ、オニタビラコで、アザミウマが媒介する。 汁液で感染しやすいので、それらの雑草を生やさない。アザミウマ等の害虫を発生させない等が必要。雑草を抜いて汁液に汚染された手で、チランジアを触るとかはもってのほか。 感染する植物が非常に多いので、種類が違うといえど、近くにある植物の状態をよく観察する必要がある。 |