テクトルム考
 チランジア・テクトルム(Tillandsia tectorum )は、寒さや乾燥にも強く、強健なチランジアで栽培も難しくありません。
 ただ、本来の姿に作ろうと思えばかなり難しく、ただ生かすだけと、調子よく有るべき姿に作る、という事がまったく違うことを思い知らされます。植物園の専用の環境と違い、一般家庭で、テクトルムを美しく作ることは至難の業です。
 テクトルムには、小型種から大型種までいろいろなタイプがありますが、ここでのテクトルムとは、大型種についてのことだと思ってください。
三大問題
 テクトルムを栽培すると、以下のようなことが起きてしまい、美しい姿が変わってきてしまいます。

■トリコームの退化
 テクトルムの魅力は、ほわほわの毛状突起にあります。栽培をしていくと、この毛状突起が寝てしまうのは仕方がありませんが、新葉では、だんだん短くなり、場合によってはなくなってしまう場合もあります。(これを、ハゲトルムという。)
■葉先の枯れ・よれ
 大型種では、葉先の枯れやよれが発生します。
 1枚の葉が永遠に存在するわけでもありませんので、古い葉が枯れてくるのは仕方がないことです。それよりも早く、葉先が傷み始め、枯れてくるのは情けない状態です。
■矮小化
 大型種でありえます。栽培下ではそれまでの葉の長さまで新葉が伸長せず、前まで成長した部分と新しく成長した部分に明らかな段差が付いてしまいます。
テクトルムの自生地
 テクトルムの自生地は、南米エクアドルのアンデス山脈の中麓、標高1500~2000mです。
 自生地そのものの気象データはありませんが、近隣地域の気象データから推測するに、非常に乾燥した地域で、1~4月が雨季、その他は乾季で、乾季にはほとんど降水はないようです。年間の降水量は、200~300mm程度で、日本の平均的な降水量1,500~2,000mmの1/6程度です。当然、昼間の照りつける日照は激しいですが、夜間は気温が下がります。
 そのような乾いた環境ですが、海からの湿った空気が、アンデスから降りる冷たい空気とぶつかり、夜は霧が発生します。
 テクトルムのトリコームは、こういった過酷な環境で生き抜くために発達してきたものです。1番目には、照りつける日差しを反射、和らげ、光ストレスや高温ストレスから身を護るためのものであり、2番目には霧から水を得るためのものだと推測できます。
 同じ環境には、サボテンのEspostoaが自生しており、このサボテンも長い毛におおわれています。
トリコームの退化
 トリコームの退化は、前述のような環境から、その真逆の日本のような環境にある時に起こり得ます。
 自生地のような環境で生き抜くためのものであるのなら、そういう環境でなくなったとき退化が起きるのは自然の道理です。


栽培開始時点(ほぼ自生地の状態)

栽培開始1年後時点、やや退化が見られる。