現在までに知られているバオバブは、「バオバブの種類」に記載の11種です。ところが、最近海外の種苗会社で「Adansonia samibarensis アダンソニア・サミバレンシス」なる植物の紹介がありました。
某所記事では、新種といったり、Adansonia somalensis(現在はAdansonia digitataに併合されて、そのシノニムとなっている。)の誤記ではないかと推測したり、いろいろです。
これはいったい何か?既記載種のシノニム、あるいは独立した亜種・変種なのだろうか、あるいは新記載の新種なのか?・・・を追及した記事です。
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サミバレンシスの種子
サミバレンシスの種子は、しつこい果肉に覆われていて、これを除くのがかなり大変です。結果的には、バオバブの標準的な勾玉形です。
よって、サイズや形状から、Adansonia suarezensis、Adansonia grandidieriとは違うことがはっきりしています。
×:まったく異なる、○:似ている
Adansonia digitata | ○ |
Adansonia suarezensis | × |
Adansonia grandidieri | × |
Adansonia za | ○ |
Adansonia rubrostipa | ○ |
Adansonia perrieri | ○ |
Adansonia madagascariensis | ○ |
Adansonia bozy | ○ |
Adansonia gibbosa | ○ |
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サミバレンシスの子葉
右写真は、サミバレンシスの発芽した姿です。子葉の形を見れば、どのバオバブに近いのかがだいたい分かります。(子葉の形が崩れないようにかなり慎重に播種しました。)
サミバレンシスの子葉は、先の尖ったハート形、軟らかい質感でした。となると、Adansonia digitata、Adansonia rubrostipa、Adansonia gibbosaとは異なります。
×:まったく異なる、○:似ている
Adansonia digitata | × | 形が異なる |
Adansonia za | ○ |
Adansonia rubrostipa | × | 質感、形が異なる |
Adansonia perrieri | ○ |
Adansonia madagascariensis | ○ | |
Adansonia bozy | ○ |
Adansonia gibbosa | × | 質感、形が異なる |
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サミバレンシスの本葉
右写真は、サミバレンシスの本葉が出てきた姿です。
本葉に関しては、その形と、もうひとつの重要な要素として、すぐに複葉化するのかどうかを見ます。
サミバレンシスの本葉は、2枚目で複葉化しました。となると、Adansonia madagascariensis、Adansonia zaとは異なります。
残るところは、Adansonia perrieri、Adansonia bozyであり、形状的には、両種に非常によく似ています。
サミバレンシスは、Adansonia perrieri、Adansonia bozyのどちらかに近縁であると結論づけられます。
×:まったく異なる、○:似ている
Adansonia za | × |
Adansonia perrieri | ○ |
Adansonia madagascariensis | × |
Adansonia bozy | ○ |
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サミバレンシスは、A. perrieri、A. bozyのどちらに近いか
さて、サミバレンシスは、Adansonia perrieri、Adansonia bozyのどちらにより近いのか?
Adansonia perrieri、Adansonia bozyは自生地も近く非常によく似ています。比較的明瞭な違いは、Adansonia bozyは、葉がより厚く、成葉の側脈が20〜40とより多いということです。
ということは、もう少し大きくなるまで育てないと分からないということになりますね。
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サミバレンシスの葉
連日の暑さでサミバレンシスも成長しています。しっかりした葉がでてきました。
Adansonia perrieriと比較してみましょう。
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Adansonia samibarensis
据歯はありませんが、葉縁は波打っています。
小葉の最も長いもので165mm、側脈数は44程度あります。
かなり側脈が目立ち、葉の表側、裏側ともに浮き上がります。
葉質はAdansonia perrieriより硬い感じです。
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Adansonia perrieri
据歯はありません。
小葉の最も長いもので150mm、側脈数は23程度あります。
側脈は、葉の裏側に浮き上がります。
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Adansonia perrieriとは、かなり違いますね。
それならば、Adansonia bozyと比較してみましょう。
しかし、残念ながら我が家にはAdansonia bozyの現物がないために比較しようがありません。
バオバブの権威である(財)進化生物学研究所の湯浅浩史先生の元には、Adansonia bozyのいくつかのタイプがあるお聞きしていますので、我が家での実生苗を1本お送りして見ていただくこととしました(先生のところには、大きい温室があるとお聞きしてますのですくすくと育ってくれると思います。)。また、先生からは、栽培中のAdansonia bozyの葉を送っていただきました。
我が家で実生したAdansonia samibarensisの葉と湯浅先生のAdansonia bozyの葉
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葉の感じは非常によく似ています。ただ、Adansonia samibarensisは葉縁に波打ちがあるので、この点は違って見えます。
Adansonia samibarensisの実生苗を見ていただいた湯浅先生からは、
○小苗のうちから5小葉が見られる、葉脈の状態などから、Adansonia bozyに近いと思われる。ただし、(先生の)手元の植物では、これほど葉の周辺が波打たない。
○海外種苗会社のカタログでは産地の説明がなく、米ミズーリ―植物園にもこの学名の報告がされていない。
○種小名のsamibarensisの「samibar」という人名はあるが、植物関係者ではない。マダガスカルの地名である、sambirano(サンビラノ)の地名の誤りの可能性も考えられる。(下記【ぱんさ注】参照)
【ぱんさ注】
-ensisは、「〜の」で発見地や産地等の地名を表す言葉に付きます。samibarが人名であれば、samibarensisではなくて、-i又は-aeを付けてsamibari(サミバリー)又はsamibarae(サミバレエ)に普通なりそうです。したがって、samibarは、いかにも人名なのですが、地名と推測しても、そういう地名はなさそうです。マダガスカルにおける近い地名を探すと、Adansonia bozyの自生地であるsambirano(サンビラノ)がありますが、それだとsambiranensis(サンビラネンシス)になってしまいますね。
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とりあえずの結論?
以下は、私のとりあえずの結論です。
Adansonia samibarensisと称する植物は、既知のバオバブの中では、Adansonia bozyに最も近いと考えられます。ただ、葉縁の波打ちの状態から、基本種とまったく同じものとは考えにくいので、Adansonia bozyのひとつのタイプ又は近縁種、の可能性があります。Adansonia bozyとは別な独立した種と考えるかについては、学名の記載を待たなければなりません。(他の植物などでも、基本種とは別に葉縁の波打が強いタイプ(フォーム)はよく見られます。葉縁の波打が強いだけでは別種にはなりません。)
また、学名の綴り方には疑問があり、以下のような推測もできるでしょう。
○本当は、Adansonia sambiranensisであり、どこかで綴りを誤ったAdansonia bozyの近縁種で未記載もの。
○本当は、Adansonia samibari(Samibarに献名された。Samibarがどのような人かは分からないが。)であり、どこかで綴りを誤ったAdansonia bozyの近縁種で未記載もの。
なんだかすっきりしませんが、今のところは以上です。何年先か分かりませんが、いずれ正式に記載される日が来れば、分かるかと思います。
この海外の種苗会社には、Adansonia samibarensisに限らず学名未記載のものがかなりあります。まあ、人間はそういうものに飛びつきやすいのですが、結局それがどうなるか(正式に記載されたりとか、何かに併合されたりとか)分からない上にアフターがあるわけでないので、訳分からないままそのまま残って、独り歩きして、いくんでしょうなぁ。
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