ぱんさのマイナー植物園/バオバブ王国

標準的な播種(種まき)方法

 
はじめに

 バオバブは苗が流通していないわけではありませんが、播種(種まき)から始めるのがバオバブ栽培の醍醐味でしょう。
 バオバブは、いつ播種(種まき)してもよいというわけではありません。それがなぜなのかは、自生地の気候を見ると分かります。自生地の気候については、「バオバブの自生地の気候」を参照してください。
 この「標準的な播種(種まき)方法」は、「Adansonia digitata アダンソニア・ディギタータ」を基準にしています。バオバブの種類によって若干の違いがある場合があります。種類別の栽培特性については、「バオバブの種類別栽培特性」を参照してください。

種子の入手(購入)

 アフリカ等第三国支援サイト「DANKA DANKA」からの購入がいいでしょう。
 売上金は、アフリカ等第三国の支援に使われます。
 写真の1袋が500円(種子の状態、価格等は改定される可能性があります。DANKA DANKAサイトで確認ください。)です。乾いた果肉に覆われていますが6〜10粒程度は入っているでしょう。
 種類は、「Adansonia digitata アダンソニア・ディギタータ」です。

播種の適期

 播種は、気温が25℃〜35℃の季節に行ないます。昼間が暑くても夜間に温度が下がってしまう季節もふさわしくありません。最低気温20℃以上であることが必要です。これ以外の季節では、発芽にやたら時間がかかるか、発芽せず種子が腐るか、発芽しても芽が腐る可能性が高まります。
 当然、何らかの施設があって、最低気温を25℃〜30℃にキープできればいつでもかまいませんが、一般家庭では難しいでしょう。
 最高気温が30℃以上の日は真夏日、夜間の最低気温が25℃以上の日は熱帯夜と呼ばれます。バオバブの播種に最も良いのは、真夏日、熱帯夜が続く時期です。  本州では6月(梅雨前)、7月(梅雨明け)〜8月が適期です。9月中下旬以降では、発芽してから十分な大きさになる前に冬季になってしまい、一般家庭の環境では管理が難しくなります。
 梅雨時期は、最低温度が20℃を下回る場合もあり(明け方なので人間は気付かない。)発芽しにくく、発芽後も日照不足になりやすく(虚弱に育つ。)、避けたほうが無難です。
 芽が出ない、枯れたというのは、だいたいこの時期を誤るというのがほとんどです。

以下はyahooの天気予報です。あなたの地方の明日の最低気温をチェックしてみましょう。
 

 

発芽促進処理

 バオバブの種子は、とても堅い殻に覆われています。また、果肉や薄皮は発芽を抑制する機能があると思われます。自然界では、果肉ごと動物に食べられ、胃酸にさらされたり、砂嚢で磨られて、糞といっしょに撒かれます。または、動物に踏み潰されて撒かれます。その上で雨季にさらされてやっと芽を出すというものです。
 そのまま播種した場合は、1か月後なのか1年後なのか、いつ発芽するかわかりません。忘れたころに発芽しますので、そうした場合、そのまま気長に待つしかありません。
 「そんなことイヤだ」という場合は、発芽促進処理を行なう必要があります。その方法としては、

殻の一部を傷つける方法(種皮削剥)

「濃硫酸」に2時間浸漬する方法(濃硫酸浸漬)

熱湯に入れて48時間放置する方法(熱湯浸漬)

があります。
 当ページでは、この3つの方法を標準的な発芽促進処理と位置付け、紹介します。

『濃硫酸浸漬』による発芽促進処理

 発芽促進処理として、「濃硫酸浸漬」について記載します。
 「濃硫酸浸漬」は、文字どおり濃硫酸に種子を浸けることです。バオバブの場合は、2時間程度が適切です。
 この方法は、発芽率が高く、発芽を揃える事ができます。加えて、発芽の障害になりカビなどの発生原になる果肉を効率よく除去できますし、種子の表面を殺菌するという効果もあります。
 逆に考えると、バオバブの種子は、濃硫酸に2時間さらしても平気ということですから、動物に食べられ、糞と一緒に撒かれる、あるいは、とても雨季が長いとか等でないと簡単には発芽しないということで、なおかつ、自然では同時には発芽することはないということでもあります。どれも、種子を護ろうとする(つまり、その「種」を護ろうとする)植物の生態です。

【このホームページを見て濃硫酸利用を試そうと思った方へ】

濃硫酸は、とても危険な物質です
皮膚や衣料、建築物や建具などに付着しないようにしましょう。
また、小さい子どもがいるときは、目を離さないようにしましょう。
誤飲することがあれば、口内は焼けただれ、死亡しなくても重い障害が残る可能性があります。
いかなる結果になっても、それは、あなたの責任です。

 
 種の状態です。乾燥した果肉に覆われています。

 
 少し水に漬け、果肉がやわらかくなったところで、水洗いして種だけにします
 選別してあるわけでないので、大きい種も小さい種もあります。(写真は、2袋分です。)
 浮いている種子は、「シイナ(未熟種子)」で発芽はしないでしょう。
 水洗い後は、自然乾燥させます。

 
 97%の濃硫酸です。

【試す方へ】
 とても危険ですので、取扱には十分注意してください。
 購入には、身分証明、印鑑、使用目的説明書が必要です。普通の薬局では、「扱っていない」と言われる場合がほとんどです。実験機材、薬品を扱う小売店で注文しましょう。あなたが怪しい顔や格好をしていると断られるかもしれません。


 
 ガラス容器に濃硫酸を注ぎ、種子を入れます。ガラス棒で1回攪拌します。2時間浸漬します。
 濃硫酸に種子のような有機物を加えると、濃硫酸の温度が上がります。
 濃硫酸浸漬の2時間後、流水で水洗い(種についている濃硫酸と水が反応してジュッという音がして煙がでます。)し、(種子は、表面の薄皮が黒くぶよぶよの状態になります。)そのまま水に一晩〜12時間程度漬けておきます

【試す方へ】
 ガラス以外の容器には、入れることができません。攪拌もガラス棒以外ではできません。とても危険ですので、取扱には十分注意してください
 廃液は、そのまま「流し」に流すことはできません。土砂に吸着させるか、水で少しずつ薄めるなど、ビンに記載の処理方法を見てください。一度にたくさんの水を加えると、ジュッという音ともうもうと煙が上がります。
 石灰分のあるコンクリートには、絶対にこぼさないようにしましょう。

 

『種皮削剥』による発芽促進処理

 発芽促進処理として、「種皮削剥(剥皮)」について記載します。
 「種皮削剥(剥皮)」は、種子の殻の一部を傷つける方法です。この方法は、一般家庭でもできますし、正しく行なえば、確実に種子に吸水させることができます。
 「濃硫酸浸漬処理」を行なっても、(あまりにも殻が固いため)吸水がされないような場合があります。この場合も、最終手段として、『種皮削剥』を行ないます。

 
 種子は果肉等を完全に取り去り、種だけにします。果肉等は、発芽を抑制する機能がありますので、完全に取り去ることが必要です。取りにくい場合は、1日かそれ以上水に漬けてどろどろにして除きます。
 「濃硫酸浸漬処理」を先行して行っている場合は、果肉等は、残っていないはずですので、そのまま処理します。

 鉄ヤスリを用いて、種子の背側(ヘソと反対側)を削っていきます。
 堅い殻の中に、白い部分がうっすらと見えるまで削ります(写真参照)。削りすぎて、白い部分を露出させてはいけません。細菌やカビなどが進入し、種子を腐らせる可能性が高まります。
 そのまま水に一晩〜24時間程度漬けておきます


 写真は、「種皮削剥処理」後、3日目に発根をし始めた様子です(Adansonia gibbosa)。
 「種皮削剥処理」の場合注意しないと、細菌やカビなどが進入する可能性があるので、貴重な種子の場合は、清潔な濡らしたティッシュの上で発根を確認してから、植えつけます。
(写真は、濡らしたティッシュの上で発根させたものです。)

 

『熱湯浸漬』による発芽促進処理

 発芽促進処理として、「熱湯浸漬」について記載します。
 「熱湯浸漬」は、文字どおり熱湯に種子を浸けることです。熱湯に浸けてそのまま48時間放置します。決して、種子を煮込むということではありません。
 この方法は、一般家庭でもできますし、種子の表面を殺菌するという効果もありますが、殻(種皮)の堅い一部のバオバブの種類での適用に限られてきます。このため、お薦めできる方法ではありません。

 
 種子は果肉等を完全に取り去り、種だけにします。果肉等は、発芽を抑制する機能がありますので、完全に取り去ることが必要です。取りにくい場合は、1日かそれ以上水に漬けてどろどろにして除きます。

 ナベ、ヤカン等で70℃〜80℃程度のお湯を沸かします。
 70℃〜80℃は、湯に泡が現れポツポツと水面に上がるぐらいです。

 耐熱容器に種子を入れて、お湯を注ぎます。
 このまま、48時間程度放置します。お湯は、1〜2時間程度で冷めて室温程度になります。
 

播種〜発芽まで

 発芽促進処理後、種子は吸水し膨らんでいるはず(体積は、1.5倍〜2倍に)です。その後、播種します。
 播種用土は、清潔で無肥料のものを用います。播種用土としては、酸性の用土(鹿沼土、PH非調整のピートモス、日向土等)はふさわしくありません。

【播種用のPH調整済みピートモスを利用する場合】
 ポリポットやジフィーポットに、播種用のPH調整済みピートモス(吸水済みのジフィーピートバン、ジフィーセブン等)を詰めて播種床にします。(写真は、ジフィーポットに、吸水済みのジフィーピートバンを詰めたもの。)
 発芽温度は、25℃〜30℃なので、7月〜9月なら屋外で播種後の管理ができます。
 最左2つに蒔いたのは、水に浮く種子(「シイナ(未熟種子)」)で、発芽は期待できません。捨ててしまってもいいのですが、実験ですので蒔いてみました。

【ジフィーポットが何か分からない方へ】
 ジフィーポットは、天然素材でできた鉢で、苗が生長するとそのまま定植できるので、根を傷めることがありません。

 具体的な種子の蒔き方は、下図のとおりです。



 播種後5日目に発芽し始めました。
 ○印は、発芽が確認できるところ(用土の割れ目から芽がのぞいている。)

 播種後10日目に発芽そろいました。
 左端2つは、シイナなのでやはり発芽はしません。
 その他は、ほとんど発芽し、発芽率は、シイナを除き播種後10日で90%となりました。
 

発芽した植物の各部の名称

その他

  • バオバブの種子の殻は固いので、空気が乾燥している場合、発芽時になかなか殻が脱げない場合があります。1週間を経ても脱げないような場合で子葉の展開に支障がある場合(片方の子葉の先にぶら下がっている程度なら、放置すればよい。)、植物に力がかからないようにペンチ、ニッパなどを用いて慎重に殻だけを破壊し取る(殻内に子葉の一部が残っているので、引っ張り取ってはいけない。)必要があります。無理に取ろうとすると、子葉や芽が折れてしまう可能性や、子葉が欠損する可能性があります。

  • この程度の欠損であればまったく問題はない。
  • 子葉には、発芽後の成長に必要な養分がたっぷり含まれています。多少の子葉の欠損であれば問題ありませんが、何らかの理由で子葉をかなり欠損するとその後の成長が思わしくありません。その年の成長への影響に及ぶ場合もあります。
  • 色の薄い黄色い芽(発芽したては、どれでも黄色い。そうでなく、いつまでも緑色にならない芽のこと。)が発芽する場合があります。これは、黄白化個体(生まれつき葉緑素の足りない先天的な異常)なので、種子の養分によって発芽はできても、以降育つことはありません。
  • 屋外や温室では、発芽した子葉や胚軸、本葉をナメクジに食害される場合があります。「標準的栽培方法」の「【病害虫】」を参照ください。
  • 本葉が出たと喜んでいると、いきなりアブラムシがつく場合があります。「標準的栽培方法」の「【病害虫】」を参照ください。

 

 
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