温室・ハウスと紫外線について
 このコンテンツは、植物の栽培に紫外線は必要なのか?温室・ハウスの被覆材は紫外線を透過しなければならないのか?等についてまとめたものです。
 2014年に途中まで記載したものに、2019年に追補しました。

紫外線とは
 一口に紫外線といっても、生物や環境への影響度の観点から、波長の違いによって、UV-A(315~400nm)、UV-B(280~315nm)、UV-C(波長280nm未満)に分けられます。
 実は波長が短くなれば短くなるほど、生物にとって有害とされ、UV-CになるとDNAを傷つけ、細胞を痛めたり遺伝子異常が起きるとされています。紫外線に長く当たることによって、皮膚癌の発生率が高まるといわれるのはこのためです。このような効果を逆に利用したものが紫外線殺菌灯で、紫外線殺菌灯から照射されるUV-Cの253nmのあたりは、細菌程度であれば死滅させる威力があります。
 温室の被覆材として最も古くから利用され、その効果が評価されているガラスは、UV-C、UV-Bはほとんど透過しないので、温室の被覆材の紫外線透過を課題とするこのページでは、UV-Aが対象になります。

植物の3大色素と紫外線
 植物の3大色素は、クロロフィル、カロチノイド、フラボノイド類:アントシアニン(Anthocyanin)です。クロロフィルは光合成に密接にかかわる色素で緑色、カロチノイドは黄色からオレンジ色、アントシアニンは主に赤色から青色、紫色(pHやその他要素によって異なる。)となります。
 このうち紫外線に大きく関係してくるのはアントシアニンといわれています。UV-Aを植物の青色光受容体の一種が受け取ると、それによりアントシアニンの合成が促進されます。これは、クロロフィルを紫外線や強光線の害から護るためのいわゆる遮光物質と考えられています。植物を強い光で栽培すると色濃くなるのはそのためです。
 このアントシアニンの生合成には、直接的に紫外線等の光は必要ありませんが、アントシアニンの合成量を調整するトリガーとしてUV-Aが関係していると考えられています。
 アントシアニンを多く含む植物(部分)は、ナスの果実、ブドウの果実、ブルーベリーの果実、アサガオの花スイートピーの花、ムラサキシソの葉などの濃い紫色の部分がよく知られています。その他、赤い色の植物、アカメモチ等の新芽等もアントシアニンを含んで色付いているとされていますし、秋に色付く紅葉もアントシアニンによるものです。
 秋に、茎からの水分や養分の供給が止まった葉のクロロフィルの色が抜け、残存した糖からアントシアニンが合成されて赤く色付く、これが紅葉です。一方、イチョウ等の黄色く紅葉(黄葉)するのは、アントシアニンを持たない(作れない)植物とされています。
 特定の植物の栽培において、UV-Aがどうしても必要な理由は、このアントシアニンによる色付きを促進し鮮やかな色合いにするという意味があるということです。このため、ナス等UV-Aによりアントシアニン合成が促進される作物を作るためにはUV-Aを透過しやすい被覆材が使われます。ナスを使った実験では、UV-Aを通さない被覆材下では、果実はほとんど色付かず、サイズも短小との報告があります。

光合成と徒長防止
 植物の光合成に必要な波長はかなり研究されていて、赤色波長(640~690nm)、青色波長(420~470nm)が特に重要とされています。それならば、400nm以下の紫外線が光合成に直接必要かどうかというと、ほとんど関係がないようです。
 光合成にはあまり関係がないものの、UV-Aは、前述のアントシアニンと同様に植物の青色光受容体の一種が受け取り、茎の徒長を抑える働きをすることが知られていますし、植物によっては花芽の形成を促進するトリガーとなったりすることがあるそうです。
 トマトを使った実験では、UV-Aの照射により、クロロフィルの含量、光合成、呼吸活性は高い傾向を示したそうです。植物は広い範囲の光を総合的に捉えて成長をコントロールしていることには間違いなさそうです。
 それならば、UV-Aをカットしてしまったら植物がびろんびろんに徒長、あるいはおかしくなってしまうかというと、それほどでもなく、青色光受容体が受付ける青色波長光の総量が十分あれば問題ないといわれます。

紫外線と虫、病原菌の関係
【ミツバチ】
 ミツバチは、UV-Aを用いてものの位置を把握しています。このため、UV-Aをカットした被覆材にすると、いわゆる盲目状態になると言われています。したがって、ミツバチを呼び込みたいとか交配に用いるような場合は、UV-Aをカットした被覆材にすることはできません。

【コナジラミ、アザミウマ、アブラムシ】*1、*2、*3、*4
 UV-Aの植物への直接的効果を見てきましたが、それ以外にも忘れてならないことがあります。それは、UV-Aと駆除の非常に難しいコナジラミ、アザミウマ、アブラムシの栽培家を悩ませる害虫との関係です。
 UV-Aがサンサンと入る温室・ハウスには、コナジラミ、アザミウマ、アブラムシが飛来しやすく、UV-Aをカットした被覆材を使用すると飛来侵入が抑制されることが知られています。習性はそうなのですが、それがなぜなのかは分かっていません。勝手に想像するに太陽光サンサンの環境の健康的な植物を求める本能があるのかもしれません。
 ただ、既に侵入している場合は、UV-Aをカットした被覆材に換えても逃げ出すわけでもなく繁殖が抑制されるわけでもありません。UV-Aをカットした被覆材にすると飛来侵入が抑制され初期密度を抑制することができるということだけです。それでも、これらの害虫に悩まされる人にとっては、UV-Aをカットした被覆材は有益かもしれません。

【ハダニ】*5
 ハダニについても、前述のコナジラミ、アザミウマ、アブラムシ同様、UV-Aが関係あるという研究成果があるにはありますが、どの程度なのかはっきりしません。

【灰色カビ病、菌核病】*6、*7
 灰色カビ病、菌核病等ある種の糸状菌を病原とする病気において、UV-Aをカットした被覆材を使用すると菌の胞子形成等が抑制されるという研究成果もあります。

 一方で315nm以下のUV-Bの照射の研究が最近では進められていて、小さな虫や病原菌の繁殖に抑制効果があるとの研究結果もあります。ただUV-Bは本ページには関係がないので省略します。

*1 静岡県病害虫防除所/令和元年度静岡県農薬安全使用指針・農作物病害虫防除基準 総合的病害虫・雑草管理(IPM)の推進 Ⅱ物理的防除法
*2 農業生物資源研究所・霜田政美/昆虫の光に対する反応と害虫防除への利用
*3 福岡農総試/紫外線除去フィルムの害虫抑制効果と紫外線除去効果の持続性
*4 埼玉県園試・嶋田知英/近紫外線除去フィルムによるタバココナジラミの防除効果と作用機作
*5 農研機構/UVカットフィルムでハウスミカンのハダニをカット
*6 農研機構/紫外線除去フィルムのトンネル被覆によるレタス菌核病の発生抑制
*7 和歌山県農試園試・増田吉彦他/紫外線除去フィルム等によるエンドウ灰色かび病の複合防除

温室・ハウスの被覆材と紫外線
 ここで、温室・ハウスの被覆材と紫外線の関係を見てみましょう。

被覆材と分光透過率

*一般的に利用される厚さの新品でのだいたいの傾向を示したものであって、商品差、経年変化等は考慮していません。

【ガラス】
 温室の歴史は古く、ポンペイの遺跡からは、石英の薄板を使った温床のようなものが見つかっています。現代のようなガラス張りの温室は、18世紀の大航海時代に植物を運んだワーディアンケースが元となったと言われています。ガラスは、被覆材としてはデファクトスタンダード、UV-Aを透過し、UV-B、UV-Cを通しません。

【農業用フィルム】
 農業用塩化ビニル(農ビ)、農業用ポリオレフィン系特殊フィルム(農PO)は、ほぼガラスと同様で、UV-Aを透過し、UV-B、UV-Cを通しません。

【UVカット農業用フィルム】
 前述の害虫抑制の目的のため、UVカットされた農業用フィルムがあります。UV-A、UV-B、UV-Cを通しません。ナスやアントシアニンで着色する作物、ミツバチ交配利用では使用しないという注意書きがついています。

【ポリカーボネート(ポリカ)】
 ポリカーボネートは、400nm以下の波長を透過せず、UV-A、UV-B、UV-Cをカットします。つまり、紫外線をほとんど通さない性質があります。

我々が愛培する植物とUV-A
 前述のとおり、植物の色素であるアントシアニンの合成のためには、UV-Aが必要となる事は分かっています。ナスならわかるのですが、それなら、我々が愛培する植物にアントシアニンは関係あるかが問題になるでしょう。
 現在の研究では、特定の植物においては、色づきの色素としてアントシアニンではないものがあるといわれています。
 「ナデシコ目(ナデシコ科、イソマツ科、ザクロソウ科を除く)の植物」では、紫、赤、ピンク、褐色、あるいは黄色の色づきにはアントシアニンではなく、ベタレイン(Betalain、ベタシアニン、ベタキサンチン)によるものとされます(同種の植物に、両方の色素は共存しない。)。どうやら、強い光から身を守るための遮光の役目をする色素としては、アントシアニンよりも低コストで生体内で生産できるので、乾燥地などの過酷な環境に適応するために獲得した能力らしいのです。
 このベタレインの合成には、UV-Aはあまり関係無さそうです。ただし、生体を強い光から守る遮光色素なので強い光が色素の合成を促進させるのは間違いありません。
 この「ナデシコ目の植物」には何があるかをまとめたものが下表です。

ナデシコ目のアントシアニンを色素としてもつ科と(我々に関係ありそうな)植物
ナデシコ科
イソマツ科
ザクロソウ科
ナデシコ目のベタレインを色素としてもつ科と(我々に関係ありそうな)植物
ハマミズナ科
ツルナ科
コノフィツム属
リトープス属
その他メセン類
ヒユ科
(含む旧アカザ科)
ツルムラサキ科
サボテン科 サボテン
ディディエレア科 ディディエレア属
アルアウディア属

オシロイバナ科
ヤマゴボウ科
スベリヒユ科
(含むアナカンプセロス科)
レウイシア属
ポーチュラカ属
ポーチュラカリア属
ケラリヤ属
アナカンプセロス属
近年の分類でナデシコ目に組み込まれたが、ベタレインを色素としてもつかどうかはハッキリしない植物
ある研究では、ウツボカズラ科を除いてアントシアニンを色素としてもつらしい。*1 *2
モウセンゴケ科 ドロセラ属
ディオネア属

ウツボカズラ科 ネペンテス属
ドロソフィルム科 ドロソフィルム属
タデ科

 つまり、多肉植物のグループであるサボテン、メセン、ディディエレア科、スベリヒユ科は、色付きにUV-Aは関係ないのだと言えるかもしれません。前述のとおり害虫を防止するのであればUV-Aをカットする被覆材を使用するのも有効かもしれません。

 しかし、趣味家であれば雑多な植物に手を出したいので、一大グループである、双子葉植物のベンケイソウ科、トウダイグサ科、単子葉植物のアロエ、ハオルチアを含むツルボラン科、アガベ科、チランジア等ブロメリアを含むパイナップル科、南アの球根植物を多く含むキジカクシ科等の色付きにはアントシアニンが関係しており、程度の差はあっても色付きを要求するのであれば、UV-Aが多少なりとも必要と考えられ、UV-Aを透過しない被覆材を使用した場合に色合いが冴えない可能性があります。

*1 食虫植物関係は当サイトでは扱わないので、ドロセラやディオネアの色付きにUV-Aが必要とか、必要でないとかは分かりません。また、ウツボカズラの色付きにUV-Aが必要でないとか、必要とかは分かりません。
*2 Tsukasa Iwashina/Flavonoid Properties of five Families newly Incorporated into the Order Caryophyllales.

植物育成灯とUV-A
 赤と青の波長を強化してある一般的な植物育成灯(蛍光管でもLEDでも)は、400nm以下のUV-Aはほとんどでていません(*1)。外からの光(太陽光)が遮断された、まったく入らない環境において植物育成灯のみを利用すると、UV-Aはほとんどないので、理屈上はアントシアニンによる色付きがかなり少ないはずです。一方、ベタレインに関係する色付きはあるはずとなります。私の環境でも、(紫外線がほとんど無いはずの)強いLED植物育成灯下のサボテンは赤みを帯びることは分かっています。
 理屈上は以上のとおりなのですが、不思議なことにベタレインを色素にもつ植物以外の植物(アロエ等)でも、(紫外線がほとんど無いはずの)赤波長の強いLEDで栽培すると、赤味(褐色)がやや強くなる傾向がみられました。おそらく過剰な赤い波長を遮るために、対応する植物色素が多く生合成されているものと考えられますが、この赤味が何の色素に由来するのかは不明です。アントシアニンだとしたら、トリガーとしては絶対的に紫外線は必要ないのかもしれません。

 最近では、住宅事情によって、植物育成灯が利用されることが非常に多くなっています。今後は、本当にそうなのかという実証を得ることができるかもしれません(他力本願)。

 植物育成用LED灯では、波長の分布をLEDの組み合わせで作り出すことができることもあり、青色LED、赤色LEDに加え、UV-Aを照射できるUV-A LEDを組み合わせたLED植物育成灯も最近では登場しているようです。微妙な色付きを気にする場合は、利用を考えるのもいいかもしれません。

*1 白色蛍光灯はわずかに出ています。白色LEDは方式によりますが、ほとんど出ていないものが多い。

関連記事
温室・ハウスの冬季の温度管理、暖房機について
植物育成灯・人工照明による植物育成について