パキポディウム交配種
 パキポディウム属のクリソポディウム亜属内では交配種ができやすい。自然界では、自生地が重なっていて、かつ開花時期も重なってるということでなければ、あまり交配種ができることはないのだが、栽培環境では雑多な種類が集められているために、人為的または虫媒によって交配種ができる。
 ショップで、例えば「エブレネウム」の原種名で売っていて買ってきたが、いざ花が咲くと黄色だったり、何か違う?というのはよくある話である。虫が出入りする栽培場で採種された種子は、だいたい種鞘がくっついている母株は明確だが、何の花粉が付いたのか(父株が)はっきり分からないということがままある。分からないまま採種して育苗したものを無知なショップが「母株」名で仕入れて売るのだから、何ともならない。ゴミくずみたいな雑種を作って売るのもいいが、原種は原種として、原種の遺伝子を保存することはとても大切なことである。私の栽培場では、無用な虫媒が起きないように環境管理には注意している。

 同じ原種同士の間に生まれれば、個性はあるもののほぼ親と同じモノになり、これは原種であると言ってよいだろう。異なる原種間に生まれた場合、その中間型が発現することが多く、それほど、バラつかない。ところが、どちらかが交配種であったりすると、その間に生まれたモノには、かなりのタイプのバラツキがみられ、それらは、親とはまったく違うモノになると言ってよい。
 通常、植物の交配種は、人為でも偶然でも、そうして生まれてきたものの中から美しいものが選抜され、それに品種名が与えられ、その株から栄養生殖で生まれたもののみが、その品種名を名乗れる。ところが、パキポディウムは栄養生殖がほとんどできない。このため、行き当たりばったりの交配によって生まれた種子から様々な形質をもったピンキリの苗が作られることになる。
 ゴミ雑種ばかりを作っても仕方がないが、そのバラつきのある中で、美しいタイプを見出し選抜し育成し、大切にするという楽しみも悪くはないと思う。交配種は一般に「雑種強勢」と言われ、原種と比較して丈夫で育てやすいものが多いのも利点ではある。私は原種崇拝者でもないから、美しい交配種があるのなら喜んで飛び付きたいし、いろいろな優れた交配種がもっとできればいいと思う。

 右写真のパキポディウムは、私のTwitterフォロワーが、エブレネウム(P.eburneum)として購入したものであるが、花が咲いたところエブレネウム(P.eburneum)とはかなり違う。私が見たところ、草姿や花色のベースはエブレネウム(P.eburneum)であるが、花の色合いはやや黄色がかり、花の形はデンシフロルム(P.densiflorum)の性質を持っている。また、葉質もデンシフロルム(P.densiflorum)である。従って、このパキポディウムは、エブレネウム(P.eburneum)ではなく、エブレネウム(P.eburneum)にデンシフロルム(P.densiflorum)の血統が入ったもの、エブレネウム(P.eburneum)×デンシフロルム(P.densiflorum)又はその逆の交配によって生まれたものだと結論付けた。
 エブレネウム(P.eburneum)と信じて購入した彼にとってはゴミ雑種であるが、花はデンシフロルム(P.densiflorum)と比べて大きく、花冠裂片に芸があり華やか、黄味が上品、エブレネウム(P.eburneum)よりもおそらく強健で花着きも良いだろう。これは非常に美しくすばらしい交配種であると私は思う。前述したように、同じ交配をしてもこれと同じものは生まれない。が、近いモノはできるだろうし、ひょっとしたらさらに美しく強健なモノが生まれるかもしれない(フリル、マルチカラーグラデーションは私の好物)。
 
「恵比寿大黒」と「大黒ハイブリッド」
 パキポディウムの交配種で最も有名なのは「恵比寿大黒」と呼ばれる交配種である。元々はブレビカウレ(P.brevicaule)とその他のクリソポディウム亜属の種(デンシフロルム(P.densiflorum)らしい。)との交配種と言われている。その後、「恵比寿大黒」同士や、その他のクリソポディウム亜属の種との交配が進んで、それらも「恵比寿大黒」と呼ばれている。つまり、現行では「恵比寿大黒」は、祖先に「ブレビカウレ(P.brevicaule)」の血統が多少入ったパキポディウムの交配種群の総称となっている。
 今となっては「元祖・恵比寿大黒」がどれかは分からないし、分かったとしても真偽不明である。栄養生殖もできないし、品種固定されているとは言い難いため、固定されていて何がしかの標準タイプがあるように想像させる「恵比寿大黒」の名称を避け、パキポディウム各種の血統が入ったものを含めて、私は「大黒ハイブリッド」と総称している。

 この「恵比寿大黒(大黒ハイブリッド)」は、栄養生殖により生まれたクローンではないし、色々な原種の血統が混じっているので、親から受け継いだ持って生まれた遺伝子により、下図のように様々なタイプが発現する。このため、あなたがどこかのショップで「恵比寿大黒」として購入しても、ひとつとして同じものはないし、「恵比寿大黒」同士を交配しても、親の「恵比寿大黒」と同じものにならない。

 「恵比寿大黒(大黒ハイブリッド)」は、基本的に「ずんぐり・むっくり」さをニーズとして求められるので、「良形」と呼ばれるタイプとしてはずんぐりと幹立ちし枝吹きするタイプ(「幹立ちタイプ」「A型」)と、平たく地際から叢生するタイプ(「叢生タイプ」「B型」)がある。
 幹立ちし枝吹きするものでも、「恵比寿大黒」「大黒ハイブリッド」としては価値がないひょろりとしたタイプ(「枠外/非良形」)も「恵比寿大黒」の名でショップで良く見られる。
 また、以下に紹介するが、ほとんど目にすることがない非常に珍しいタイプとしてブレビカウレ(P.brevicaule)のように枝が立たずショウガ根様のタイプ(「C型」)もある(先祖返りと言っても良いのかもしれない。)。
 以上は便宜上の分け方で、このようにタイプに綺麗に分かれるわけではなく、それぞれのタイプの中間型が数多くある。

恵比寿大黒(大黒ハイブリット)の色々な個性(姿)
枠外/非良形
ひょろりとしたタイプ
「恵比寿大黒(大黒ハイブリッ
ド)」としては価値が
ない
幹立ちタイプ(A型)
ずんぐりと幹立ちし枝吹きする
タイプ
叢生タイプ(B型)
平たく地際から叢生するタイプ
ショウガ根タイプ(C型)
「恵比寿笑い」のように枝が
立たずショウガ根様のもの

 以上のように色々な個性が発現するため「大黒ハイブリッド」は自分の好みに合うタイプのモノを選ぶことができる。若木とその血統から「どういう姿になるか」を想像して選ぶという、自分だけの宝物を探す楽しみがあると言って良いだろう。
 なお、ここでの「幹立ちタイプ」「A型」「叢生タイプ」「B型」等は、私の呼び名であって、一般的な呼び名ではないことをお断りしておく。ショップで「B型の恵比寿大黒をくれ」といっても通じない。

 「恵比寿大黒(大黒ハイブリッド)」を「デンシカウレ ×densicaule」呼ぶことがあるが、これは日本お得意の無意味な合成略語。日本の多肉界の影響を受けたアジア等海外でも使われる場合がある。

 「恵比寿大黒(大黒ハイブリッド)」は人工的な交配種であるが、デンシフロルム(P.densiflorum)とブレビカウレ(P.brevicaule)の自然交配種(×rauhii)もあると聞く。おそらくデンシフロルムと分布が重なる中央高地と思われる。

幹立ちタイプ(A型) 叢生タイプ(B型)

 「恵比寿大黒(大黒ハイブリッド)」の魅力は姿だけではなく、花も楽しめるというところにもある。小さいサイズでも花付きがよく、成長に伴い花数は増える。花は黄色で、花筒は短く太いのが普通。花のサイズ(花径)も色々、花冠裂片の形も色々ある。花茎は長いタイプも短いタイプもある。

幹立ちタイプ(A型) 叢生タイプ(B型)

 
恵比寿大黒(えびすだいこく)、大黒ハイブリッド基本形
Base Types

根元の拡大写真
休眠に入り落葉すると枝の付き方が良くわかる

恵比寿大黒(えびすだいこく)
大黒ハイブリッド
良形の幹立ちタイプ(A型)
Pachypodium "DAIKOKU Hybrid A"
 
 良形の幹立ちタイプ(A型)。幹立ちタイプ(A型)は、ショップなどで見られることのある、タイプ。基本は一般的なクリソポディウム体型で、ずんぐりとした幹が立ち、地上数~10cm程度の位置で枝分かれしていく。


休眠に入り落葉すると枝の付き方が良くわかる

恵比寿大黒(えびすだいこく)
大黒ハイブリッド
良形の叢生タイプ(B型)
Pachypodium "DAIKOKU Hybrid B"
 
 良形の叢生タイプ。叢生タイプ(B型)は、地際から枝を吹いて横に広がっていくタイプ。B型は「ブレビカウレ(P.brevicaule)」の性質が強いと考えてもいいと思う。
 B型はなかなか見つからない。このタイプを見かけたら、(倍の値段でも)入手しておくとよい。



休眠に入り落葉すると枝の付き方が良くわかる

恵比寿大黒(えびすだいこく、大黒ハイブリッド)
ショウガ根タイプ(C型)
Pachypodium "DAIKOKU Hybrid C"
 
 パッと見た感じは「ブレビカウレ(P.brevicaule)」そのものだが、これも「大黒ハイブリッド」。


休眠に入り落葉すると枝の付き方が良くわかる 花は典型的なデンシフロルム形

恵比寿大黒(えびすだいこく)
大黒ハイブリッド
枠外/非良形
Pachypodium "DAIKOKU Hybrid 0"
 
 これが恵比寿大黒(大黒ハイブリッド)なの?というくらいのひょろりとしたタイプ。デンシフロルム(P.densiflorum)等の一般的なクリソポディウム体型。
 花は、典型的なP.densiflorum形。ただし、原種P.densiflorumと比較するとかなり大きい。
 ここまでくると、「恵比寿大黒(大黒ハイブリッド)」というより、「パキポディウム雑種」。


 
ぱんさ大黒
"PanthaDaikoku"
 一般的に流通している「恵比寿大黒(大黒ハイブリッド)」は、様々な栽培場で採取された種子からの実生で、親の形質も血統もよく分からないものが多い。
 「ぱんさ大黒」は、私の圃場で、より良形の「幹立ちタイプ(A型)」「叢生タイプ(B型)」を目指して、育種、又は育苗した、母樹、花粉親が明確な「大黒ハイブリッド」に付けた呼び名で、交配の組み合わせ等によりナンバーを付加することにしている。同じナンバーを持つものは、同時期に交配した同じ親からの兄弟株となる(それでも、かなりの個性のばらつきはある。

初開花の状況

「ぱんさ大黒161」の叢生型(B型)の選抜良形、葉の性質が非常に面白い。

「ぱんさ大黒161」の叢生型(B型)の選抜良形。休眠に入り落葉すると枝の付き方が良くわかる。

上記の花


【親株】

ぱんさ大黒161
Pachypodium "PanthaDaikoku 161"

 B型に近い良形のA型を両親にもつ、典型的な大黒ハイブリッドらしい大黒ハイブリッド。
 花は小振りで典型的な大黒ハイブリッドらしい形。


初開花の状況

「ぱんさ大黒162」の叢生型(B型)の選抜良形。

「ぱんさ大黒162」の叢生型(B型)の選抜良形。休眠に入り落葉すると枝の付き方が良くわかる。


【親株】

推定:P.eburneum×P.densiflorum

ぱんさ大黒162
Pachypodium "PanthaDaikoku 162"

 B型に近い良形のA型と、エブレネウムの血統が入った両親からの子。25%程度エブレネウムの血統が入っている。
 花は大きめ、ややクリーム色がかる。


初開花の状況


【親株】
大黒ハイブリッド 叢生タイプ(B型)

Pachypodium bicolor

ぱんさ大黒171
Pachypodium "PanthaDaikoku 171"

 良型の「叢生タイプ(B型)」を母株、「ビコロル(P.bicolor)」を父株とした大黒ハイブリッド。
 小さいうちから、花を付ける魅力的なタイプ。



【親株】
Pachypodium eburneum

大黒ハイブリッド 叢生タイプ(B型)

ぱんさ大黒172
Pachypodium "PanthaDaikoku 172"

 姿の良さと花色の変化を狙って、純粋な「エブレネウム(P.eburneum)」を母株、「叢生タイプ(B型)」を父株とした大黒ハイブリッド。
 小輪クリーム色の花。



【親株】
叢生タイプ(B型)

叢生タイプ(A型)

ぱんさ大黒191
Pachypodium "PanthaDaikoku 191"

 更なる良形の作出を狙い、良形の「叢生タイプ(B型)」を母株、良形の「幹立ちタイプ(A型)」を父株とした大黒ハイブリッド。
 小輪黄色の花。


 
その他交配種
Other Hybrid
Pachypodium horombense

Pachypodium horombense
パキポディウム・ホロンベンセ×デンシフロルム(推定)
(ホロンフロルム)
Pachypodium horombense × densiflorum

 これはホロンベンセの特徴をもつが、花色や花形にデンシフロルムの特徴が見えることから、おそらくホロンベンセとデンシフロルムの中間型(つまり雑種)と考えられる。
 花は濃い黄色、花筒がやや釣鐘状、正面から覗くと5つの襞が見える。
 この株は、そもそもデンシフロルムで入ってきたが、花が咲くとホロンベンセの特徴が見える。ここらあたりのパキポディウムは、花を確認しないと実際に何なのか分からない。