2014年12月記載、2019年11月ページのレイアウトを変更
LED vs. 蛍光灯
 近年ではLED灯も植物育成灯としての選択肢の一つになっています。LED灯は、省エネ(省電力)、長寿命(つまり最初は高くても最終的に割安)がセールスポイントです。ここで、LED灯と蛍光灯について考えてみましょう。植物育成灯で、というと、データも適切なものがなく周波数等いろいろパラメータが増えますので、一般照明用のもので考えることとします。

【LED灯の方が省エネ(省電力)なのか?】

市販されているLED灯のスペックを見ると、確実に消費電力が少ないことが分かります。たとえば、20W形蛍光灯の消費電力は、当たり前ですが20Wです。一方、20W形蛍光灯形のLEDの消費電力は、10Wから12Wぐらいです。
 んー確かに消費電力が少ない・・・しかし、本当に消費電力が少ないといえるのかどうか?
 ここで「lm/W」で考えてみます。「lm/W」は、本当に、省エネ(省電力)なのかを見ます。光量(全光束)を消費電力で割ったもので、1W当りどれだけの光量を出せるのかになります。数値が高い方が省エネ(省電力)になります。光量が少ないのに消費電力が少ないのは当たり前です。
 右の図が、いろいろな照明器具の「lm/W」をまとめたものです。

 図中、もっとも発光効率の悪いものが白熱灯(いわゆる電球)で、15lm/W、電気は食うけどさほど明るくないということですね。現在では白熱灯はほとんど照明には使われなくなりました。
 最も発光効率が良いものは高圧ナトリウムランプで130lm/Wです。ただ、高圧ナトリウムランプは、構造上オレンジ色の光になるので、一般照明としては利用されず、高速道路のトンネルの照明とかに利用範囲が限定されてしまいます。
 それでは、蛍光灯と白色LEDを比較してみましょう。HF(インバータ方式等)直管形蛍光灯は100lm/W、白色LEDの最新の最も良いものでは100lm/W、廉価なものでは85lm/Wくらいです。
 実は、直管形蛍光灯の最新のものと現在の白色LEDとは発光効率はほとんど変わらないのです。同じ電力であれば同じ光量ぐらいです。つまり20W直管形蛍光灯は20Wなりの光量、10Wの白色LEDなら10Wなりの光量なのです。消費電力が少ないのは光量が少ないからだと言ってよいでしょう。
 「なんだ?LEDが省エネだなんて嘘じゃないか!」ってぷりぷりするのはまだ早いです。
 HF以外の直管形蛍光灯は60lm/Wですから、白色LEDには負けています。我らのビオルックスもHFではありません。つまり、HF以外の直管形蛍光灯と比べれば、今の白色LEDの方が発光効率が高いということです。
 発光効率という面で見ると以上ですが、同じサイズの照明(20W直管形蛍光灯)として見ると、LED灯はもともと消費電力が少ないので光量も直管形蛍光灯には負けます。LEDの発光素子をさらに高出力のものにするとかもっと増やせば光量は増えるのですが、発光素子自身のコスト、集積度や電源回路が複雑になり、価格が嵩増して、蛍光灯に太刀打ちできなくなります。値段的に消費者が我慢して買ってくれる程度が今の状況だと言えるでしょう。

 さて、一般照明用の場合は、以上のような感じですが、植物育成用を考えたらどうなるでしょう。前章で、植物育成用にはlm(ルーメン)は関係ないというお話をしています。つまり、「lm/W」では分からないということです。けれど、だいたい同じような傾向になるのではないかと推測できます。つまり、消費電力相応の光量になるのではないかと推測されるということです。
 ここまでくると、あまり差がないなということになるのですが、実はLEDには、非常に優れた特色があるのです。それは、特定の波長に限定した光を出力するものを作れるということなのです。たとえば、光合成に有意義な660nmと440nm付近だけを出すランプを作りたいとしたとき、LEDなら可能になります。つまり、光合成や植物の成長に有意義な波長だけが作り出せるのであれば、植物育成という面で最高の発光効率が得られる可能性があるということなのです。
 反対に欠点もあるので言っておきましょう。先の図にありますが、白色LEDの発光素子だけを見ると発光効率は150lm/Wに達します。これがLED灯になると100lm/Wに落ちるのは、電源回路によるロスの外、周囲の温度の影響を受けるためです。高温の環境で利用したり回路の発熱がうまく抜けないと発光効率が落ちてきます。LEDの最も発光効率が良いのは20℃以下の低温環境なのです。一般照明として室内で利用する、あるいは水槽の上において水槽の照明に利用するのであれば、ほとんど問題は少ないのですが、高温多湿の植物の栽培環境で利用するとなると・・・発光効率が低下する可能性があります。

【LED灯の方が長寿命なのか?】

 LED灯のパッケージを見ると寿命は判で押したように40,000時間と表示があります。一方、一般照明用の蛍光灯の寿命は10,000時間、ビオルクスは7,500時間、これは確実にLEDに軍配は上がりますね!長寿命だと何がいいのか、交換しなくてもいいからお金がかからない、交換の手間がいらない、ですね。
 ちょっと計算してみましょう。LED灯は一般蛍光灯の4倍も長い寿命があります。一般蛍光灯の価格を1,000円として4倍したら、4,000円・・・直管型LED灯の価格は4,000円くらいでしょうか・・あれれ?LED灯とそんなにかわらない・・・んー交換の手間を考えなければ、同じようなものですね・・
 ビオルックスで考えると、ビオルックスは1,000円くらいでしょう。その5.3倍も長い。ビオルックスの価格を5.3倍したら、5,300円。・・・植物育成用の直管型LED灯とこれもそんなに変わらない。
   LED灯は、発光素子部分はかなりの寿命があるそうです。60,000時間あるいはそれ以上と言われます。それがなぜ40,000時間なのかというと、実は足を引っ張っているところがあるのです。
 右図が、LED灯の簡単な回路図です。当然ながら、家庭用電源に直接繋いでも発光素子は動作しません。発光素子を駆動するためには、家庭用電源ACをDCに整流し、なおかつDCを定電流制御して、発光素子に供給しなければいけません。LED灯には、この電源回路が組み込まれています。この回路の寿命と発光素子を取り付けている基板の寿命が、発光素子自体の寿命の足を引っ張って40,000時間になっています。
 廉価な某国製ノーブランドのLED灯は、発光素子は良いものを使っても、ここの回路のパーツにかなり品質の悪いものを使ってコストダウンをしていると言われます。この一部分が故障すると、LED灯自体の交換になってしまい、そういったものは、パッケージに40,000時間と印刷されていても。実際に40,000時間までいけるかどうかかなり怪しそうです。
 もっと重要なことがあります。実は、LED灯の寿命にかかわる重要な要素は温度と言われます。前述の電源回路や基板自身も発熱しているためそれを上手く放熱できないとLED灯の寿命をかなり縮めます。また、多湿であると回路を劣化させ寿命を短くします。それは、一般家屋での利用であればさほど重要な問題ではありません。しかし、高温多湿の植物育成の環境の中で利用するのであれば無視できないどころか最も大きな課題なのです。
 光量を増やすためには、発光素子の数を増やすか高出力の発光素子にするかですが、そうすればさらに発熱が増えていき、課題がさらに重い課題になります。
 どうしたらいいのでしょう。植物育成環境とLED灯(あるいはその電源回路部分)を切り離せればいいでしょうね。あるいは、上手い具合に放熱するとか。実際できるかどうかは分かりませんが。

*実は蛍光灯であっても、高温多湿の環境を嫌います。蛍光灯管自体よりも灯具の蛍光灯を稼働させる安定器やインバーター回路が早くダメになる可能性があります。

【赤か青か】

 前述のように、植物育成のためには、660nm前後の赤色光と450nm前後の青色光を利用するのが効率的です。それならば、どちらの光を当てた方がいいのかを考えてみます。
 光の波長により含まれるエネルギーには違いがあります。光を光子としてとらえた時に、ひとつの光子のエネルギーは、短い波長の方が多く、波長が長くなるにつれて少なくなります。
 右図は、1モルの光子のエネルギー量を示します。400nmの波長と700nmの波長では、2倍近くエネルギー量が違います。エネルギー量が違うということは、違う波長の同じ光子の量を作るためには消費電力が違うということになります。ところが、光合成の量は光子の量によりますので、エネルギーが多いからといって光合成の量が違うかというと変わらないのです。
 つまり、450nmの波長の青い光を当てるより、660nm前後の赤い光をたくさん当てた方が光合成的にはより効率がいいということになります。
 それならば、660nm前後の赤い光だけを当てておけばいいのかというと、そうではないらしく、450nmの波長の青い光には、先に少し触れましたが光合成に加え重要な働きがあるようなのです。
 それでは、どのくらいの比率で、660nm前後の赤い光と450nmの波長の青い光が混在していればいいのかということになります。これは、野菜(レタス)での実験がされていて、だいたい5:1~10:1くらいの光子の割合がいいと考えられています。
 植物育成用のLED灯のほとんどは、660nm前後の赤い発光素子と450nm前後の青い発光素子が使われており、これを混在させている場合がほとんどです。660nm前後の赤い発光素子の数がかなり多く、450nm前後の青い発光素子が多少混じっているような感じです。それは以上の理由からなのです。
 ただ、これは特定の植物による実験結果なので、あなたが育てている見た目を大切にする観賞用の植物を「美しく」育てるためにいいのかは、本当のところは分からないのです。光合成には直接かかわらなくても、その種類の植物の成長にとって重要な働きをする波長が別にあるかも知れません。先に、LEDの利点は、特定の波長を作り出せることと書きましたが、これは逆に特定の波長しか出せないということと表裏一体なのです。

【まとめ】

 LED灯の光量は消費電力に比例します。同じ消費電力で見た場合、LEDが桁違いに光を出すという魔法があるわけではありません。消費電力の多いものはそれなりの光量があり、消費電力の少ないものはそれなりです。
 蛍光灯より消費電力の少ないものを使う場合は、あまり光量を必要としない植物を育てる場合や、あるいは季節的な一時的なものと割り切って考えるといいでしょう。その場合、いいブランドのものを使って、初期経費が高くやや割高を我慢すれば、(光量のない分)省エネにはなるし、交換の手間が少ないよということになります。ただし、高温多湿の栽培環境で利用するような場合は、早く寿命が来る可能性もあるのでその場合はあきらめが必要です。
 人によって育てたいと思う植物はそれぞれ違います。この世のすべての栽培植物が実験されて、必要な波長が分かってる訳ではありません。ビオルックスに比較して、光の波長は絞られていますので、植物によっては、何か成長がおかしい、色付きがおかしいということがあるかもしれません。これも実験してみるしかないでしょうね。
 現在、一般照明に用いる白色発光素子は量産あるいはさらに良いものの開発が進んでいますが、660nm前後の赤い発光素子は人間の生活で利用するには範囲がかなり限定されているため(信号、警告灯、電飾等)、量産あるいは開発が進むどころか、生産も少なくなっている傾向があります。このため、植物育成用LED灯の価格はなかなか下がらない(かえって高くなる?あるいは見えないところで低品質の部品でコストダウン?)とも言われています。