ソコトラの植物
 アラビア半島の南の沖300km、ソマリアのアシル岬の沖240kmにあるソコトラ島は、面積は3,796km2(埼玉県とほぼ同じ面積)、中生代(1億5千万年前)にはパンゲア大陸の一部で現在のアフリカ大陸・アラビア半島と地続きででしたが、200万年前頃に大陸から完全に分離したといわれています。

 


 その後、孤島の厳しい気候の中で植物は独自の進化を遂げ、その奇容な姿は世界に知られています。
 マダガスカル島が大陸から分離し数千万年、ガラパゴス諸島が生まれて500万年(ガラパゴス諸島に大陸から植物が移ってきたのはもっと後)に比較して大陸から隔離された孤島としての歴史はやや浅いものの、東アフリカ、アラビア半島の植物の共通祖先から始まり、孤島の中で独特な形質を得た植物群は、マニアを魅了して止まないことだと思います(私はマニアではありませんが)。

【ソコトラの気候】

 まずはソコトラがどんなところか、気候について見てみましょう。以下がソコトラと日本(東京)の気候をグラフにしたものです。

 気温は年間を通して高温、4月~10月は、月平均最低気温が20℃以上、月平均最高気温は35℃近くなり、気温の点だけ考えると日本における夏の7、8月が半年以上続くようなものです。11月~3月は、やや気温が下がるものの日本の5、6月に相当し、最低気温が15℃を切ることはほとんどありません。
 降水量は少なく、年間を合計しても250mm程度で、日本の梅雨時である7月の1か月分しかありません。雨らしい雨はなく、湿った空気が山地にぶつかって発生する霧が水分を補給しています。また、5月、10月は僅かに降水量が多いものの明確に乾季・雨季があるわけでもありません。降雨日もあっても月に一桁回で、ソコトラの大地は、いつも激しく太陽が照りつける場所といえるでしょう。
 さらに、ソコトラの5月~8月は強風が吹き荒れ、ソコトラの植物の詰まった独特な樹形は、この風が作っていると考えていいでしょう。

【ソコトラの植物の栽培】

 このような非常に厳しい自然環境にあるソコトラの植物を栽培するためのポイントは、高温、強い日照、土壌の適度な乾燥、強風にあると言えそうです。
 ソコトラの植物をただ生かすということであれば、我が国の高温期の夏季に成長させ、冬季は休眠させ、ソコトラの最低気温を見るに8℃~15℃ぐらいに加温すれば、安全なところでしょう(ただ日本において、冬季にこの温度を保つためには、それなりの設備が必要なのは間違いありません。)。
 日本(本州)では、ソコトラの高温期に相当する気候は、真夏の数か月にすぎないので、葉がちょろっと出て僅かに成長する程度で時間切れとなるため、生かすことはできても、ぐんぐん成長するまでいかなそうです。
 以下は、ソコトラにおけるボスウェリアの育苗園の様子です。自生地での本当の若木の成長状況を見ることができ、とても示唆に富みます。



Adenium キョウチクトウ科アデニウム属
アデニウムは、アフリカ大陸とアラビア半島の紅海、インド洋沿岸部に広く分布する植物で、ソコトラには1種があります。
余談ではありますが、マダガスカルにはアデニウムは原産しておらず、アデニウムの分化時にはマダガスカルは大陸と離れた洋上にあったと考えられます。
アデニウム・ソコトラヌム

アデニウム・ソコトラヌム
真正ソコトラヌム
Adenium socotranum

 ソコトラのアデニウム・ソコトラヌムは、ソコトラの奇天烈な植物としてよく紹介され知られています。
 ソコトラヌムの自生地における花の色は、ピンクがベースですが、白に近いものから、色の濃いものまで幅広いタイプがあるそうです。

【本物のソコトラヌムとタイ・ソコトラヌム】

 写真のものが本物のソコトラヌムです。なぜ、「本物」と改めて言うかというと、よく「ソコトラヌム」という名前で国内の通販や店舗で販売されているものは、本種ではなく、東南アジアのタイで作出されたアデニウムの交配種群である商品名(流通名)「Thai Socotranum タイ・ソコトラヌム」(略して「タイソコ」)だからです。
 本来、そのアデニウム雑種は、商品名(流通名)であるところの「タイ・ソコトラヌム」と表示すべきものでありますが、市場で略されて「ソコトラヌム」と表記された結果、無知なショップによって、ソコトラに自生している訳でもないアデニウム交配種がアデニウム・ソコトラヌムになってしまいました。
 ちなみに、タイ・ソコトラヌムは、アデニウム・オベスム、同アラビクムが入った交配種と考えられます。本物のソコトラヌムの血統が少しでも入っているかどうかは分かりません。「タイ・ソコトラヌム」は、交配種らしくかなり強健な植物なので、栽培は普通のアデニウムと同様に扱えばいいでしょう。

【本物のソコトラヌムの特徴】

○葉長は4cmから成木では15cmに達する。
○葉は倒披針形、倒卵形~へら形(重要!!)で先端はほんの少し突起する。(オベスム、アラビクムは披針形、ソマレンセは線形)
○葉色は濃緑。葉脈は主脈、側脈とも白くクッキリとして目立ち、日射量によりややピンクがかる
○根本はよく膨らむものの、若木では枝はほとんど分岐せず何もしなければ単幹。自生地に見られる数十年の大樹になってやっと枝分かれする。

【参考:植物の葉の形の呼び方】

【ソコトラヌムの性質と栽培】

 ソコトラヌムの栽培は、他のアデニウムと大差はないため、栽培については準じていいと思われます。
 ただ、オベスムやアラビクム等のアデニウムと比べて、ソコトラヌムは、成長期の初め(初夏)に、数枚の葉を展開するのみで、そのまま伸長するでもなく成長期を過ごして、落葉休眠期を迎えます。この毎年の繰り返しなので、他のアデニウムと比べて成長はかなり遅い植物といっていいでしょう。

 初夏に新葉を展開して、不思議なことに秋にも新葉が出ることがあるようで、これはなぜかとつらつら考えるに、自生地では春秋の2回(やや降水量の多い時期に)成長期があるのではないかと推測しています。


Boswellia カンラン科ボスウェリア属
ボスウェリア属は、東アフリカとインドに分布し、古代から香料として有名な「乳香」を採取する植物を含む属で、35種程度があります。そのうち、ソコトラには7種があります。
*乳香採取に主に用いられるのは、アフリカ大陸、アラビア半島、インド原産のBoswellia sacra(アラビア半島)、Boswellia frereana(ソマリア)、Boswellia papyrifera(エチオピア~スーダン)、Boswellia serrata(インド、パキスタン)。
ボスウェリア・ナナ Boswellia nana2021.08.01
ボスウェリア・ナナ Boswellia nana2021.04.18 花
ボスウェリア・ナナ Boswellia nana
2014.11.29 幼苗
ボスウェリア・ナナ
Boswellia nana


 ボスウェリアの中では、小型の灌木で、美しく人気のある植物。
 一般的にボスウェリア・ナナは成長が遅いと言われるが、それは栽培方法が分かっていないだけで、比較的強健で、新梢は年に10cm以上普通に伸びる。
 花は小さく、枝に群がって咲く。

ボスウェリア・ディオスコリディス Boswellia dioscoridis
ボスウェリア・ディオスコリディス Boswellia dioscoridis2014.11.25 幼苗
ボスウェリア・ディオスコリディス
Boswellia dioscoridis


 かなり栽培しやすく、普通の多肉植物栽培場で7~9月に成長する。ごく普通の樹。
 剪定により枯れこみやすい性質があり注意。