アロエ属の系統と分類

●旧アロエ属の上位からの系統と(新)アロエ属
●(新)アロエ属の系統
●マダガスカルのアロエ属

旧アロエ属の上位からの系統と(新)アロエ属
 アロエ属は、古くはユリ科に属し、アラビア、アフリカ大陸、マダガスカル島、インド洋のアフリカ大陸に近い島々に自生する数百種を含む大属でした。近年では分子系統学の発展により、ユリ科は再編され、アロエ属はススキノキ科ツルボラン亜科に所属しました。
 さらに、アロエ属に所属していた多数の種も分子系統学により整理されています。この結果、アロエ属にまとめられてきたものは、多系統の寄せ集めで、近縁属であるガステリア属、ハオルチア属等に入れられなかったものの「雑居ビル」であることが分かってきました。
 下図は、旧アロエ属の上位、近縁属を含む系統樹です。緑色背景のグループが旧アロエ属に属していました。
 例えば、アフリカ大陸原産のディコトマ(旧Aloe dichotoma)は、アロエの代表種である「医者いらず(Aloe arborescens)」、「ベラ(Aloe vera)」からすると、ガステリアよりも、ハオルチアよりも遠縁の種(分化した時期がさらに古い)であることがわかります。
 現在では、アロエ属は整理されて、下図のように(新)アロエ属といくつかの属に分離されました。
 
旧アロエ属の系統樹による分類

*ハオルチオプシス属(Haworthiopsis):旧ハオルチア属の「十二の巻(Haworthia fasciata→Haworthiopsis fasciata)」「鷹の爪(Haworthia reinwardtii→Haworthiopsis reinwardtii)」「五重の塔(Haworthia tortuosa→Haworthiopsis tortuosa)」等硬葉系と呼ばれる種を含む新属
*ツリスタ属(Tulista):旧ハオルチア属の「ミニマ(Haworthia minima→Tulista minor)」「瑞鶴(Haworthia marginata→Tulista marginata)」等硬葉系と呼ばれる種を含む新属
*アストロロバ属(Astroloba):古くからあるグループで、ハオルチアに似るが茎立ちをするものが多い。「青磁塔(Poellnitzia rubriflora→Astroloba rubriflora)」「白亜塔(Astroloba hallii→Astroloba pentagona)」等を含む属
*レプタロエ属(Leptaloe):「薄いアロエ」の意味で、現在はアロエ属に併合。ヴォッシイ(草アロエ)系
*ロマトフィラム属(Lomatophyllum):現在はアロエ属に併合。マダガスカル系
*ヘスペラロエ属(Hesperaloe):aloeが付いているが、アロエ属とは無関係。アメリカ大陸原産。アガベの系統、ユッカ属に近い
 
新属名 特徴・代表的な種
アロイデンドロン属
Aloidendron
南アフリカ、ナミブが原産。幹立ち分岐する大型種で、
ディコトマ(旧Aloe dichotoma)→ディコトムム(Aloidendron dichotomum)
バーベラエ(旧Aloe barberae)→(Aloidendron barberae)
ラモシッシマ(旧Aloe ramosissima)→ラモシッシムム(Aloidendron ramosissimum)
等が所属
なお、属名の性に合わせるため、種小名の語尾も変化している。
「dendron」は樹木を意味し「アロエの樹」といった意味。
クマラ(ケマラ)属
Kumara
南アフリカの西ケープ州が原産。叢生し葉縁に棘がなく袴状互生となる種で、
プリカティリス(旧Aloe plicatilis)→(Kumara plicatilis)
ハエマンティフォリア(旧Aloe haemanthifolia)→(Kumara haemanthifolia)
等が所属。
ハオルチア属に近縁。
アリスタロエ属
Aristaloe
アフリカ南部が原産。ロゼット形の種で、
綾錦/アリスタタ(旧Aloe aristata)→(Aristaloe aristata)
が所属。
「arista」は剛毛やノギを意味し、葉縁に「剛毛の生えたアロエ」といった意味。
ゴニアロエ属
Gonialoe
南アフリカ、ナミビア、アンゴラが原産。葉縁に棘がなくあるいは細かい棘の肉厚の三角の葉をもつ種で、
千代田錦/バリエガタ(旧Aloe variegata)→(Gonialoe variegata)
サラデニアナ(旧Aloe sladeniana)→(Gonialoe sladeniana)
等が所属。
「goni」は角ばったを意味し「角ばったアロエ」といった意味。
アロイアムペロス属
Aloiampelos
南アフリカが原産。根元から多数に分かれ叢生し、茎は這ったり登攀したりして、葉は薄く葉縁に細かい棘のある種で、
キリアリス(シリアリス)(旧Aloe ciliaris)→(Aloiampelos ciliaris)
グラキリス(旧Aloe gracilis)→(Aloiampelos gracilis)
等が所属。
「ampelos」はブドウつるを意味し「つるアロエ」「登攀アロエ」といった意味。
(新)アロエ属
Aloe
アフリカ大陸、マダガスカル島、インド洋の島々が原産。根元から多数に分かれ叢生することが多く、ロゼット状で肉厚の葉をもつ種で、
医者いらず(Aloe arborescens)
ベラ(Aloe vera)
その他多数が所属。

(新)アロエ属の系統

 (新)アロエ属の祖先は南アフリカで誕生したと考えられており、南アフリカで繫栄し多種多様に分化する一方で、一部の種はアフリカ大陸東部を徐々に北上、その地域に適応進化しつつ種が分化し、東はソマリア、アラビア半島、西はマリ、ナイジェリアまで分布を広げました。
 下図が、(新)アロエ属の系統樹です。
 原生人類の祖先となる化石人類の誕生の地は南アフリカと考えられています。そして、現生人類(Homo sapiens)は、十数万年前に誕生の地アフリカ大陸を北上しユーラシア大陸に渡り、以降世界各地に拡散しました。
 アロエの北上と拡散は、現生人類の北上と拡散よりも桁違いに古いので、現生人類や数十万年前に現生人類に先行して世界に拡散したネアンデルタール人が通った道筋には、先に北上したアロエが既にあり、人類はアロエに導かれるようにして出アフリカを果たしたのかも知れません。全世界の人々がアロエを愛するのは、アロエに関する人類の遺伝子の記憶によるものです。(*フィクションです。)

(新)アロエ属の系統 
緑背景のボックスをクリックすると、その系統のアロエの代表種の一覧が表示されます。
収録代表種を検索 →候補



マダガスカルのアロエ属
 マダガスカル原産のアロエはすべて(新)アロエ属です。マダガスカルは(新)アロエ属の宝庫と言ってよいでしょう。
 古くは果実の形の違いから、ロマトフィルム属(Lomatophyllum)として一部のアロエが分離されていましたが、現在はすべてアロエ属に編入されており、そのまま(新)アロエ属に移行しています。
 下図がマダガスカルのアロエの系統樹です。
 マダガスカルのアロエは3系統からなりますが、原生種のほとんどがアフリカ大陸東部タンザニアに生きていたアロエが祖先となる単系統(マダガスカル系)と考えられています。
 この祖先から、ロマトフィルム系が先ず分化し、ロマトフィルム系はマダガスカルとマダガスカル周辺の諸島に生き残り、そして、非ロマトフィルム系の祖先がマダガスカルの大型から小型までの千差万別のアロエに分化したと考えられます。
 少数ですが、前述の系統とは異なる、最終的にはサウジアラビアまで北上したヴェラ系(アラビア系)のアロエがマダガスカルに存在します。ヴェラ系(アラビア系)の代表種であるヴェラ(Aloe vera)は、栽培の歴史が古く(人為的に)世界中に分布しているため原産地がはっきり分かっておらず、おそらくアラビア半島ではないかと推定されています。ヴェラ(Aloe vera)の系統を少し遡り、その「ごく近い親戚」を見ると、マダガスカルやマダガスカルに近いインド洋のモーリシャス諸島に分布するアロエが存在します。ということは、共通祖先がアラビアに到着してからマダガスカルにワープしたとは考えられないので、アラビアへの旅の途中の共通祖先がタンザニアに生きていたと考えるしかないでしょう。
 その他、マダガスカルには、ヴォッシイ系(草アロエ系)を祖先とするアロエがあります。

マダガスカルのアロエ属の系統




 アフリカ大陸とマダガスカル島の間の400kmの海を、マダガスカルアロエのご先祖様がどうやって渡ったのか疑問に思われるかと思いますが、これについては分かっていません。
 1億4500万年前、ジュラ紀末期には、ゴントワナ大陸として、アフリカ大陸とマダガスカルは地続き(内海が隔てていたかも)で、その後の白亜紀には接近したり離れたりを繰り返しながら、少しづつ離れ現在の位置に近づいていることが分かっています。
 このため、ジュラ紀以前であれば陸路でマダガスカルへ渡ることもできましたが、ジュラ紀は裸子植物が繁栄した時代で、被子植物はある程度分化し存在していたものの、目立たない存在だったと考えられます。マダガスカルアロエのご先祖様が既に生まれていたとは考えてにくいでしょう。
 したがって、アフリカ大陸とマダガスカル島を海が隔てるようになってから、何かの方法で渡ったと考えるしかありません。

中生代ジュラ紀(1億5千万年前)頃の大陸