Selenicereus セレニケレウス属

 現在のセレニケレウス属は、
・旧セレニケレウス属(Selenicereus)
・旧クリプトケレウス属(Cryptocereus)
・旧ストロフォカクツス属(Strophocactus)
・旧デアミア属(Deamia)
・旧メディオカクツス属(Mediocactus)
・旧マルニエラ属(Marniera)
等が合併してできました。孔雀サボテンに似た薄い茎節を持つもの(Selenicereus chrysocardium ゴールデンハート、Selenicereus anthonyanus アンソニアヌス等)もあれば、いわゆる「紐サボテン」と呼ばれる細身の柱サボテン形態のものもあります。
 花は、ほとんど一夜限りの夜開性で白、大輪で「Moonlight cactus」と総称される美しいものです。
 細身の柱サボテン形態の代表は、「Selenicereus grandiflorus(大輪柱)」ですが、その近縁種には、よく似た多くの種類があります。「Selenicereus grandiflorus」の近縁種は整理されてきているものの、実際の植物と照合するにはすっきりしない部分が多く、任意に作出された交配種や、不可抗力で交雑してしまったものもあり、区別は非常に難しいと言えるでしょう。
 セレニケレウス属の有名種である「夜の女王」は、古くは「Selenicereus macdonaldiae = Selenicereus pteranthus f. macdonaldiae = Selenicereus grandiflorus ssp. macdonaldiae」に対照された植物でしたが、我が国で一般的に「夜の女王」として流通しているものは、「macdonaldiae」ではありません。例えば、ネットで「夜の女王」で検索して出てくるサイトの画像は、まったくといってよいほど「macdonaldiae」ではありません。おそらく、何かの交配種の可能性があります。したがって、何をもって和名の「夜の女王」なのか、定義でさえはっきりしないといってもいいでしょう。

 セレニケレウスの花のサイズを表現するのに、「花長(花の長さ)」を用います。「花径」と勘違いする人もいますのではっきりしておきますが、花の長さとは、花が茎に付いているところから花弁の先端までの長さです(右写真参照)。咲く寸前の蕾なら計りやすいと思います。
 以下は、grandiflorusの亜種及び近縁種の特徴をまとめたものです。花のサイズ(花の長さ)は、栽培管理環境によっても変化するので、そのサイズに達しなかったといっても違うとは言い切れません。

 セレニケレウス「Selenicereus grandiflorus(大輪柱)」系の栽培法については、「大輪柱」の項を参照。


【Selenicereus grandiflorusの亜種及び近縁種の特徴】
名称 原産地・特徴 対照和名
亜種
grandiflorus
グランディフロルス
ガテマラ~ニカラグア(カリブ諸島を含む)原産。稜は多い(5~8稜)。花長は15~20cm。花托には毛が密生する。 大輪柱
亜種
boeckmannii
ボエックマンニー
カリブ諸島原産、花長は24~39cm。pteranthusと同種と思われる 瓔珞柱
光柱
ベックマン柱
亜種
brevispinus
ブレビスピヌス
キューバ原産。茎は8~10稜、刺はないか1mm程度の長さ。花長は25cm。grandiflorusの短刺タイプ。 -
亜種
coniflorus
コニフロルス
メキシコ原産。茎は細く、通常5~6稜。薄黄色の刺で、中刺は1本で長さ1.5cm、側刺は4~6本。花長は22~25cm。pteranthusの長刺又はgrandiflorusの少稜タイプ。 -
亜種
donkelaari
ドンケラアリ
メキシコ原産。茎は1cm程度。稜は9~10で低く、刺は短く茎に密着する。花長は18cm。 月琴柱
ドンケル柱
亜種
hondurensis
ホンデュレンシス
グアテマラ、ホンジュラス、ニカラグア原産。7~10稜で多数の毛状の刺に覆われる。花長は18~23cm。 ホン国柱
新月柱
亜種
macdonaldiae
マクドナルディアエ
ホンジュラス原産。稜は目立たず刺座がイボ状に突起する。花長は30~34cm。 夜の女王
ただし一般に「夜の女王」として流通するものは本種ではない。
亜種
pteranthus
ペテランツス
メキシコ原産。茎は細く4~6稜、刺は1~4本で非常に短い。花長は25~30cm 夜美人柱
夜の王女
亜種
urbanianus
ウルバニアヌス
カリブ諸島原産。茎は4~5稜。花長は20~30cm 「バルバデンシス」と呼ばれることがある
交配種
cv. ?
茎は4~5稜。花は20~30cm径 夜の女王
一般に「夜の女王」として流通するもの。
hamatus
ハマツス
メキシコ原産。茎は3~4稜で特徴的な突起がある。刺はほとんどないか絹糸状。花長は20~25cm。外花被は薄い緑色。花托には黒い毛がある。 鍵(鉤)柱


生ける支柱キジムナー計画
セレニケレウスを普通に作っているだけでは何の面白みもない。自然界の様に、樹木に這い上がる姿が見たいと思いません?
「生ける支柱キジムナー計画」については、こちらを参照。
原種

大輪柱(たいりんちゅう)
Selenicereus grandiflorus
ガテマラ~ニカラグア(カリブ諸島を含む)原産


菊鉢を用いると支柱止め穴があるので
行灯支柱を固定するのに便利
 茎は5~8稜で稜は明確。フェルトと毛をもつ刺座に7本程度の刺がある。

 セレニケレウスは、スペース的に行灯(あんどん)仕立てとするのが普通。開花させるには、茎の総長を5~7mにしなければならないので、自由に伸ばせるスペースがない場合必然的に行灯仕立てになる。
 行灯支柱には100円ショップに売っているような劣化してすぐ壊れてしまうものはダメで、多少高くても丈夫なものを使用し、下のほうからギチギチに誘引していく。後から支柱を交換するのはほぼ不可能。
 鉢は、プラ菊鉢を利用すると、排水もよく、鉢縁に菊用の支柱を固定する穴があるため行灯支柱を止めることができて便利。
 花は、初夏(6~7月)咲き、花付きよく非常に美しい。
 苗を入手したのなら、鉢は7~8号を利用、行灯支柱はそれに応じたものとし、成長期に十分に成長させると、翌年又は翌々年には、開花する。
 ちっぽけな鉢、サボテン・多肉植物の土のような痩せた土では、成長も望めないし、ましてや開花はいつのことになることやら分からない。



ホンジュレンシス
Selenicereus grandiflorus ssp. hondurensis

 茎は7稜以上、刺は多い。
 花は、初夏(6~7月)咲き、大輪ではないが、花付きよく美しい。

ペテランツス
Selenicereus grandiflorus ssp. pteranthus

 茎は4稜程度、刺は短い。  花は、初夏(6~7月)咲き、大輪。
 本種は、よく「夜の女王」の名で流通することがあるが、pteranthus(夜の王女)あるいは、その交配種である。

セレニケレウス・アンソニアヌス
クリプトセレウス
(園芸的総称)ジグザグサボテン
(園芸的総称)フィッシュボーンカクタス
Selenicereus anthonyanus
=Cryptocereus anthonyanus
メキシコ・チアバス原産

 こうした茎節に切れ込みのある薄い茎節をもつ森林性サボテンには、
○クジャクサボテンの「白眉孔雀/有角孔雀(Epiphyllum anguliger)」
○セレニケレウスの「クリソカルディウム/ゴールデンハート(Selenicereus chrysocardium)」
○セレニケレウスの「アンソニアヌス/クリプトケレウス(Selenicereus anthonyanus=Cryptocereus anthonyanus)」
 があるが、ショップの無知ゆえに「ジグザグサボテン」あるいは「フィッシュボーンカクタス」という呼び名でひとくくりで流通している
 これは「セレニケレウス・アンソニアヌス Selenicereus anthonyanus」。
 旧クリプトセレウス属(Cryptocereus)で、流通名「クリプトセレウス」はこの属名から。
 茎は平たく艶と厚みがある。根元からシュートが出ることもあるが、枝はある程度の長さになると成長が止まりそこから枝を出しどんどん長くなる。叢生というよりはツル性となるのが本来の姿。

早朝の花の全開の状態
咲き始め。10:00PM頃

蕾の状態
セレニケレウス・クリソカルディウム
ゴールデンハート
昆布孔雀(こんぶくじゃく)
(園芸的総称)ジグザグサボテン
(園芸的総称)フィッシュボーンカクタス
Selenicereus chrysocardium
=Marniera chrysocardium
メキシコ・チアバス原産

 こうした茎節に切れ込みのある薄い茎節をもつ森林性サボテンには、
○クジャクサボテンの「白眉孔雀/有角孔雀(Epiphyllum anguliger)」
○セレニケレウスの「クリソカルディウム/ゴールデンハート(Selenicereus chrysocardium)」
○セレニケレウスの「アンソニアヌス/クリプトケレウス(Selenicereus anthonyanus=Cryptocereus anthonyanus)」
 があるが、ショップの無知ゆえに「ジグザグサボテン」あるいは「フィッシュボーンカクタス」という呼び名でひとくくりで流通している
 これは「セレニケレウス・クリソカルディウム(Selenicereus chrysocardium)」。
 花は冬咲き(1月頃)、花長は30cmを超え、花径は25cm超の大輪。花筒・外弁は赤味がかかり、内弁は黄味のある白で幅広い。冬季に最低温度10℃くらいに管理しないと咲かない(蕾が着いても落蕾する。)。したがって、一般家庭で花を見るのは難しいかもしれない。


最近流通している成長旺盛な交雑種

羽稜柱(うりょうちゅう)
Selenicereus testudo
=Deamia testudo
=Strophocactus testudo
南部メキシコ~コロンビア原産

 茎は3稜で硬質、トゲは硬質で鋭い。他種とはやや異質なイメージの着生種。自生地の着生する姿は独特で不気味な雰囲気がある。自生地ではチランジアと仲良く着生している姿が見られる。
 写真のものが、本物のSelenicereus testudoで希少なもの。
 最近では、細身でトゲの白く柔らかい(他Selenicereusと雑交したものなのか、他種なのかは不明)がSelenicereus testudoとして流通している(写真3枚目)。
 自生地の写真については、こちらを参照。
 本物のSelenicereus testudoは、環境が合わないと遅々として成長しない気難しさがある。前述の細身でトゲの白く柔らかいSelenicereus testudo名で流通しているものは、強勢なので通常のセレニケレウスと同じ扱いでよく育つ。
 旧デアミア属(Deamia)、ストロフォカクツス属(Strophocactus)。
 種小名testudoは、ラテン語で亀を意味する。




交配種
ヒロケレウス属、エキノプシス属等の血統が入ったものもある。

タイタン
Selenicereus 'Titan'
属間交配種(Selenicereus sp.(「夜の女王」とされるが怪しい)×Echinopsis sp.(短毛丸とされる))

 エキノプシス属との交配種。茎は5~6稜。目立つ刺は白く12本程度。
 同じサボテン科の植物でも、かなり系統が遠いもの同士の交配は難しい。セレニケレウス属とエキノプシス属はかなり縁遠い(以外に近いとの考え方もある。)のでかなり運良く生まれた交配種かもしれない。
 良好な栽培状態のとき、母種よりもかなり太くなるので、余裕のあるポットや支柱を使用のこと。
 花は、春咲き(4、5月)、大輪ではないが、花着きよくとても楽しめる。外弁はセレニケレウスの特徴を受けて、針状。







アイーダ
Selenicereus 'Aida'
属間交配種(Selenicereus sp.(「夜の女王」とされるが怪しい)×Hylocereusドラゴンフルーツ)

 ヒロケレウス属との交配種。茎は3~4稜。刺座の突起はほとんどなく、刺は非常に短い。
 ヒロケレウス属の血統を受けているため、かなり茎が太く硬いので行灯支柱にぐるぐる巻きにするのは難しい。このため、オベリスク支柱等を用いて緩やかに巻くといいだろう(ただし、高さはかなりのものになる。)。
 花は、春咲き(4、5月)、外弁はヒロケレウス属の特徴を受けて、幅広く、褐色を帯びて美しい。蕾に毛はなく(ヒロケレウス属の特徴)、蜜が滲み出る。この蜜の機能はよく分からないが、舐めると甘い。





チバ・ジェニー
Selenicereus 'Chiba-jenny'
属間交配種(Hylocereusドラゴンフルーツ×Selenicereus sp.(「夜の女王」とされるが怪しい))

 ヒロケレウス属との交配種。茎は3稜。アイーダに比較して稜は鋭角。刺座の突起はほとんどなく、刺は非常に短い。
 花は、初夏咲き(6月)、それほど大輪ではないが、外弁が赤~ピンク、内弁は純白の丸弁で、非常に美しい。蕾には、若干の毛がある(セレニケレウス属の特徴)。


不明・流通系




夜の女王(よるのじょおう)一般流通系
Selenicereus cv.

 茎は4~5稜。刺座はやや突起し少しの羊毛を生じ、短い刺は4本程度。
 花は、初夏咲き(5~6月)、花長30cmを超える大輪である。ただ、花着きは悪く、他種と異なり少し異臭がある。

 比較的よく「夜の女王」として流通するものと思われるが、刺座の突起が多少あり、最も「macdonaldiae」に近いものである。