Harrisia ハリシア属
Eriocereus エリオケレウス属
三稜袖

三稜袖

三稜袖

三稜袖
果実
三稜袖
幼苗の頃は5稜で後に3稜前後となる。
三稜袖(さんりょうそで)
三角袖(さんかくそで)
(誤称)三稜柱(さんりょうちゅう)
Harrisia sp.
Eriocereus sp.

 あるニーズのために普及し、そもそもこれが何だかわからなくなってしまった柱サボテン。
 このサボテン、近年になって台木としてのニーズが非常に多くなり普及した。おそらく「袖ケ浦」より生産性(成長、繁殖力)が高く、「三角柱」ほども寒さに弱くないからであろう。
 消費者の好感度?をアップさせるため、よく知られたポピュラーな名称を商品名に持ち込むということは、世間ではままあることであるが、この植物も、台木として有名な「袖ケ浦」の1文字を取り込み、「三稜袖」「三角袖」として普及してしまった。
 その後、「袖」が付くと誤解をまねくということで、これを「三稜柱」と呼ぶようになってきたのだが・・・

 一方「三稜柱」というものがどういうものかというと、「三稜柱」は学名「Weberocereus tonduzii(古くは、Werckleocereus tonduzii)」に対照される植物である。本当の「三稜柱」は、森林性サボテンであって、本種とは何の関係もない(本当の「三稜柱」を見たい場合は、上のタブの「森林性紐」の「Weberocereus ウェベロケレウス属」を参照されたい。)。どうしても「三稜柱」とよぶのであれば「新三稜柱」というべきだろう。

 このサボテンの正体が何かと考えると、幼苗の形、果実の形(鱗片葉を有する)から推測するに、ハリシア属かそれに近縁の植物が元になっているのでないかと、私は思う。
 海外の報告では「臥龍(Harrisia pomanensis)」の実生苗として、このサボテンに非常に近い短刺のものがあるそうなので、ひょっとしたら、「袖ケ浦」と同様に、「臥龍(Harrisia pomanensis)」の血統が入った植物なのではないかと思う。ただ、開花した花の形を見ると「臥龍」のそれとはやや違う。結果的に、「袖ヶ浦(Harrisia 'Jusbertii')」が片親となったもののように思われるので「三稜袖」の名前の方が実態を表しているような気がする。
 3稜であるということがなかなかの曲者で、原種で3稜のサボテンはあまりない。あえて言うなら、Hylocereus属(三角柱、ドラゴンフルーツ等)、Weberocereus属(本当の三稜柱等)、Acanthocereus属(五稜閣等)等になる。なにかしら、ここらあたり、特にHylocereus属との属を越えた禁断の関係が想像される。
 以上のことから、とりあえず、この柱サボテンについては、「三稜袖」「三角袖」「(誤称)三稜柱」を連記し、学名「Harrisia sp.」とした。

 また、一部でこれとは異なった柱サボテンが「三稜袖」「三角袖」といった名称で出回る場合があり、そちらも同じように3稜(~5稜)になるもので(ただし、薄稜で刺は鋭い。)、実際は、「五稜閣(Acanthocereus tetragonus)」あるいはその近縁種らしく、混乱の上に混乱を塗り重ねることになっている。

 このサボテン、さすが台木に使われるだけあって栽培は極めて容易、雨が降れば田んぼのようになってしまうところに植えても平気でモリモリ大きくなる。逆に痩せたガラガラの用土(サボテン多肉の土のような)ものだと、みすぼらしくしか育たない。また、自家受粉するので種子は容易に採取できる。
 ただ、袖ヶ浦ほども寒さに強くない(三角柱よりはよっぽど強いが)から、あまり酷く寒い場所では傷む可能性がある。
 果実は、ミニドラゴンフルーツといってもいい姿をしているが、食べてみると甘味はほとんどなく美味しくない。これで美味しかったら、花付きよく花がキレイで、実成りもよく、ドラゴンフルーツよりは寒さに強いので家庭果樹の花形になるかもしれない。

以上で登場した「Weberocereus tonduzii」、「Harrisia pomanensis」、「Acanthocereus tetragonus」の特徴を以下に載せておく。

Weberocereus tonduzii 三稜柱】
 着生するサボテン。登攀したり垂れ下る。灰色がかった緑の茎は4mに達し、直径は1.5~5cmで気根を生じる。2~3稜、ときおり歯や切れ込みをもつ。
 小さな羊毛の刺座には、刺を欠くか1本~2本の小さな刺をもち、刺の長さは2mm
 花は、夜咲きで黄色、外花弁は茶色がかったピンク。

Harrisia pomanensis 臥龍】
 ほとんど直立、茎は3mに立ち上がり、直径6cm、3~6稜。中刺は無いか、1本、まれに2本。3~8本の側刺。
 白い花、緑がかった外花弁、長さ15cm。

Acanthocereus tetragonus 五稜閣】
 地を這うあるいは何かにもたれかかるサボテン。ときおり柱状、低木。古い茎の断面は丸く、長さ6mに達し3~5稜。
 刺座は2.5cm程度離れて付き、暗い灰色の刺で1本以上の中刺と6~8本の側刺がある。
 羊毛をもった花の外側は明るい緑色。内側は、紫がかったクリーム色。夏の終わりの夜に咲く。花後、直系2.5cm程度の赤色の果実が着く。



袖ケ浦(そでがうら)
Harrisia 'Jusbertii'
Eriocereus 'Jusbertii'
交配種

 柱サボテンというよりも、接木に用いる優れた台木として知られている。袖ケ浦に接ぐと、穂木は花付きよく刺の発生もよく、かつ永久台木になるというので、台木といえば袖ケ浦が最上とされる。ただ、接ぎ面が黒変しやすいのが欠点で、台木をあらかじめ乾かしておく、あるいは揚げ接ぎをするなどが必要となる。40、50年前に伊藤芳夫氏が盛んに使用し、その推奨もあって、広く利用されるようになった。
 この種の起源は、ハリシア属の「臥龍(Harrisia pomanensis)」とエキノプシス属の何かの人工交配種、あるいは自然交配種と言われるが、よく分かっていない。つまり、原産地も不明である。伊藤芳夫氏の著書によると、フランスの一僧院で作出されたとの記述(伊藤芳夫著「サボテンの栽培と鑑賞」昭和47年p.467)が見られるが、本当かどうかわからない。
 袖ヶ浦は、多くのサボテンと同様、自家受粉はしないし、流通するほとんどはクローンなので受粉は成功しない。袖ヶ浦の種子を採りたい場合は、エキノプシス属の花盛丸の花粉を受粉させる。その種子から生まれるものは、袖ヶ浦のクローンとなると言われている(アポミクシス?)。
 なお、「袖ヶ浦実生苗」として流通するものには偽物もあり、育ててみると「三稜袖」だったりすることもある。
 鑑賞用の柱サボテンとして見たときは、強健でにょろにょろよく育ち、夜開性の花も美しい。ただし、ある程度の高さになると自立しないので、支柱か何かに登攀させる。
 なお、「袖ケ橋」と呼ばれる交配種があると聞くが見た感じでは同じようなもので、台木としてのニーズからすると大差ない。


富袖(とみそで)
Harrisia '富袖'
交配種

 「袖ケ浦」をベースとした交配種は、主に台木目的で作られていて、その中で色花のものは観賞用として流通している。わが国でもいくつか作られていて、「花袖」「夢袖」等「〇袖」といった名前が付けられている。これはその交配種の一つ。
 「袖ケ浦」と比較すると、茎は細身で、中棘の1本が長く目立つ。花弁の中程はピンク、縁に向かって白のグラデーションになる。