■モーツァルト作品解説■    [HOME]   [年代別目次]

オーボエ、クラリネット、ファゴット、ホルンのための協奏交響曲 変ホ長調

K297b〔KAnh9=K297b(KAnhC14-01)〕

 このパリ風の典雅で豊麗な響に満ちた協奏交響曲は、実はモーツァルトの真作か否かがいまだに確定されていない問題作である。魅力に富んだ作品ということもあって、多くの議論を呼んでいるが、まずこの点にふれておこう。
 パリ到着まもないモーツァルトが、1778年の4月に、ちょうどパリにいあわせた4人の名管楽器奏者、フルートのヴェンドリング、オーボエのラム、ファゴットのリッター、ホルンのヨハン・シュティヒ(通称プント)のための1曲の協奏交響曲を作曲し、コンセール・スピリチュエルで演奏するため総監督のジャン・ル・グロに自筆譜を売り渡したことは事実である。ところが、演奏用のパート譜作りの段階で、どういうわけか自筆譜が紛失し、作品は演奏されずに終ってしまった。以上の経緯は、5月1日付の父宛ての手紙に克明に述べられている。モーツァルトは、ル・グロの不誠実な態度に憤慨するとともに、陰謀のにおいを嗅ぎつけ、主謀者はジュゼッペ・カンビー二ではないかと疑っている。当時パリには多数の有力な音楽家が住み、互いにしのぎを削っていたのであるから、パリの作曲家の誰かが、モーツァルトに得意の分野での名声を奪われることを恐れ、陰謀を企てた可能性は大きいといえるだろう。
 19世紀を通じて、問題の作品はそのまま消失したものとされていた。ところが、今世紀初めO・ヤーンの遺品の中に、オーボエ、クラリネット、ファゴット、ホルンのための1曲の協奏交響曲の筆写譜があることがわかり、ヤーンの「モーツァルト伝」第4版(1905年)の校訂者ダイタースは、そのなかでこの筆写譜こそ消失したと思われていた協奏交響曲の編曲譜である、という説を提出した。というのは、モーツァルトは1778年10月3日の手紙で鮮明に記憶に残っているこの作品を帰郷後もう一度書き下すつもりだと述べているからである。この説は広く承認され、ケッヒェル第二版ではおそらく真作としてAnh9の番号が、さらにアインシュタイン校訂の第三版(1937年)ではK297bの番号が与えられた。しかし、ケッヒェル作品目録の最新版である第六版(1963年)では、筆写譜や伝記的状況、そしてクラリネットの用法などを詳細に検討した結果、擬作の可能性が非常に大きいと判断し、真作の項からは除外し、「擬作または疑義ある作品」を示すAnhC14・01という番号を与えている。こうして、ケッヒェル第六版は厳密な考証を総合して、この作品が失われた協奏交響曲の編曲ではないと結論したわけであるが、真作説をとる研究者も数多く、議論は尽きたい観がある。いずれにせよ、どちらの説にも決定的な根拠は欠けており、真偽の決定は新資料の発見を待つしかないであろう。
 作品自体は、18世紀末にパリ楽壇を風靡したこの特殊なジャンルの典型的なスタイルを示しており、モーツァルトのパリ滞在中の作とするのに大きな疑念を抱かせるものではない。また大きな魅力に富んだ作品でもある。とくに独奏楽器の用法はこれらの楽器の個性を知り尽した見事た筆さばきを示している。編曲にあたって、フルートのパートがオーボエに、オーボエのパートがクラリネットに置き換えられた訳だが、クラリネットのパートが、この新興の楽器の魅力を十分に生かしていることは注目されよう。(このことも擬作説の有力な根拠とされていることを付け加えておこう。)
 最後に、碩学フリードリヒ・ブルーメの見解を紹介しておこう。「……しかし作品の由来はなお曖昧であるとはいえ、我々が所有している版の信憑性に対して早まった疑問を投げかけることは、間違っていないだろうか。なぜなら、作品のどの部分にも−編曲版のどの部分にもというわけではないにしても−モーツァルトの手が明瞭に認められるからである。」
作曲の時期 1778年4月5日から4月20日までの間(父宛ての手紙による)。
初演 前述のように予定された演奏会では演奏されなかった。その後、7月9日付の父宛ての手紙で「今になってみると、あのころのように4人の音楽家が集まるという機会はまたとありません」とあるので、パリで演奏された可能性はない。
基本資料の所在 自筆譜は消失。O・ヤーンの遺品から発見された筆写譜はベルリン国立図書館の所蔵。
出版 〔全集〕 旧モーツァルト全集第24篇、第7a番として。
演奏時間 約30分。
楽器編成 独奏楽器(オーボエ、クラリネット、ファゴット、ホルン)、管弦楽(オーボエ、ホルン2、弦5部)。

第1楽章 アレグロ 変ホ長調 4分の4拍子。協奏風ソナタ形式。
第2楽章 アダージョ 変ホ長調 4分の4拍子。
第3楽章 アンダンティーノ・コン・ヴァリアッツィオーネ 変ホ長調 4分の2拍子。 主題と10の変奏。