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弦楽五重奏曲 第6番 変ホ長調

K614

 モーツァルト最後の弦楽五重奏曲であると同時に、純粋器楽作品の主要な柱の1つである弦楽器を中心とした室内楽の領域における最後の作品でもある。死の年、「魔笛」「レクイエム」に先立って、経済的困窮を緩和せんがための多くのオーケストラ機会音楽や声楽曲にはさまれて春頃生まれた。この五重奏曲ののちには、大器楽作品としては「クラリネット協奏曲」を残すのみとなるのである。だがこうした意味深長な成立時期を有する作品として他の大作と比較するには、その音楽はあまりにも快活でありすぎるようであるが、困窮と絶望の淵にあってなお、それをうかがわせない清明な−屈託のないユーモアすらも含んだ−作品を生み出すモーツァルトの姿をここにもみる思いがする。
 作品は「愛すべき快活さを基調としている」(アーベルト)。ヴィオラ2挺によって奏される冒頭モティーフのホルン5度の響きから「狩の五重奏」として親しまれている。この場合、「ハイドン四重奏曲」第4番K458が想起されるが、あの室内楽の大巨匠に献げられた変ロ長調作品に比してこの五重奏曲はまったく、ほとんど純粋にといってよいほどハイドン的な晴れわたった世界のなかにある。そのことによってモーツァルトのハイドンヘのオマージュを感じとるのはアインシュタインだけではないだろう。楽想(両端楽章とメヌエット楽章は単一主題)と構成はきわめて明快で単純ですらあり、これを妨げるものは排除されるか、あるいは入念に隠されている。作品の規模も縮小され、先行する4作品中、最も演奏時間の短いものとなっている。
作曲の経過 すでに「ニ長調五重奏曲」について述べたように、この2作品は「ウィーン新聞」に掲載されたアルタリア社の広告によれば、〈ある音楽愛好家〉の注文によって生まれたものである。しかしながらニ長調作品の初版の表紙に書かれていた「あるハンガリーの音楽愛好家のための作品」という付記は変ホ長調作品にはなく、注文主に関しては、ニ長調のものと同様にヨーハン・トストであるという推定の域を出ていない(第5番、作曲の経過の項参照)。作曲年代は1791年4月12日。
基本資料の所在 ロンドン、シュテファン・ツヴァイク・コレクション(自筆楽譜)。
出版 〔初版〕ウィーン、アルタリア社、1793年。〔全集〕新モーツァルト全集第8篇、第19作品群、第1巻。
演奏時間 約22分。
楽器編成 ヴァイオリン2、ヴィオラ2、チェロ。

第1楽章 アレグロ・ディ・モルト 変ホ長調 8分の6拍子。ソナタ形式。
第2楽章 アンダンテ 変ロ長調 2分の2拍子。主題と3つの自由な変奏曲であるが、アーベルトはさらに全体をロンド形式と捉えている。
第3楽章 メヌエット アレグレット 変ホ長調 4分の3拍子。
第4楽章 アレグロ 変ホ長調 4分の2拍子。ロンド・ソナタ形式。全曲中、最もハイドン的な楽章で、あの室内楽の先輩がつねに有していたフモールがモーツァルト的となって素朴な率直さというものがみなぎっている。