■モーツァルト作品解説■    [HOME]   [年代別目次]

弦楽四重奏曲 第23番 へ長調

K590

 この曲は、〈プロシア王四重奏曲〉全3曲の最後の曲である。(成立等に関しては、はじめの〈プロシア王四重奏曲〉概説および「第22番」の概説を参照されたい。)
 モーツァルトが、われわれに残した弦楽四重奏曲の最後の作品にあたるこの曲には、このセットの他の2曲にみられる特徴が、同じくはっきりうかがわれる。とくに、これに先立つ変ロ長調K589との様式的な共通性が際立っていることは、当然のことながら、やはり注目される。たとえば、第1楽章をはじめ各楽章にみられる第1主題と副主題の密接な類縁性がそれで、すべてが第1主題に関係づけられ、直接にそれから由来しており、このようなところから、これらの曲の一元的な統一性が生みだされ、単純さを第一の特徴としながらも、なお、深いモーツァルトの最後期作品の様式が創造されているのである。さらに、展開部の書法にも、随所にみられる対位法的な技法の応用にも共通点が指摘できる。なお、全体的な特徴としては、冒頭楽章、緩徐楽章、メヌエット、そしてフィナーレのいずれの楽章においても、純粋な遊戯(シュピール)の精神が生き生きと働いているばかりでなく、それが、まさにこのシュピールのゆえに、いっそう深い感動を誘うことである。
 しかし、ド・サン=フォアは、このように共通点が明瞭であるにもかかわらず、なおこのへ長調の作品には、前作品とはっきりした違いがみられると主張している。たとえば、第1楽章には、不快とか不安とかいった感情のごときものがあって、それが対照のはげしい、意外な印象をもたらすという。それは、冒頭の第1主題で、2小節ですぐに弱奏が強奏に変って、はげしい下降音階となる箇所や、このフォルテの音形によって始められる展開部において、この音形が活躍する後半部などである。そのほか、チェロの独奏的な性格が変ロ長調の作品に比べて薄いことも、ひとつの相違点としてあげられよう。
 なお、この曲の第2楽章は、普通、アレグレットとされているが、これは初版のテンポの指示であり、自筆楽譜ではアンダンテである。
作曲年代 1790年6月、ウィーン。
基本資料の所在 自筆楽譜はロンドン、大英博物館所蔵。
演奏時間 約25分。

第1楽章 アレグロ・モデラート ヘ長調 4分の4拍子。
第2楽章 アンダンテ ハ長調 8分の6拍子。
第3楽章 メヌエット アレグレット ヘ長調 4分の3拍子。トリオ ヘ長調 4分の3拍子。
第4楽章 アレグロ ヘ長調 4分の2拍子。一見ハイドン風な主題をもって始まるこのフィナーレは、ロンドではなくソナタ形式であるが、はっきりした副主題をもってはいない、はげしい楽章である。