■モーツァルト作品解説■    [HOME]   [年代別目次]

弦楽四重奏曲 第22番 変ロ長調

K589

 〈プロシア王四重奏曲〉の第2曲にあたるこの曲は、第1曲(ニ長調)に引き続き完成されたものではない。第1曲が作曲された1789年6月からこの曲の完成までに、1年もの月日が流れている。
 かつてあれほど多作であったモーツァルトが、この期間に書いた作品の少なさは一驚に値する。ニ長調の弦楽四重奏曲に次いで書かれた「ピアノ・ソナタ」ニ長調K576、同年9月末の「クラリネット五重奏曲」イ長調K581の2曲と「コシ・ファン・トゥッテ」を除けば、あとはただ、軽いダンス音楽や、自作・他作のオペラヘの挿入曲や、断片などがあるのみである。
 モーツァルトの生活上の困窮は、当時、ますますつのる一方で、酷使を重ねた彼の肉体がさらにいっそうたわんでゆくさまは痛ましいばかりである。彼の生活を援助してくれる見込みのあったほとんど唯一の人ミヒャエル・プフベルク宛の手紙は、このころもなお頻繁に書かれているが、その1通(1790年5月17日付)の借金返済の延期を頼んでいる箇所で、このような心配のため、四重奏曲(すなわち、この曲とへ長調K590の2曲)の完成が遅れていることを伝えている。なお6月12日付では、「骨の折れる仕事」と自ら呼んでいるこれらの四重奏曲を、必要に迫られて二足三文で売り渡さねばならぬことを嘆いているが、これはパート譜を出したアルタリア社との交渉のことを述べているものとみられる。
 だが、こうした状態から生まれたこの曲が、それにもかかわらず、鮮明な天才の刻印を有し、澄明な深さによってわれわれに強くうったえかけるのは、当時の彼の作品と同様である。
作曲年代 1790年5月、ウィーン。
基本資料の所在 自筆楽譜はロンドンの大英博物館所蔵。
演奏時間 約25分。

第1楽章 アレグロ 変ロ長調 4分の3拍子。
第2楽章 ラルゲット 変ホ長調 2分の2拍子。展開部を欠いたソナタ形式からなるこの楽章は、チェロと第一ヴァイオリンの対照を中心とする美しい楽章である。
第3楽章 メヌエット モデラート 変ロ長調 4分の3拍子。変ったメヌエット−トリオである。
第4楽章 アレグロ・アッサイ 変ロ長調 8分の6拍子。これも短いが変った楽章で、一見ロンド風であり、対位法に冴えをみせた、かろやかな天空の音楽である。