■モーツァルト作品解説■    [HOME]   [年代別目次]

ディヴェルティメント 変ホ長調

K563

 モーツァルトの最後のディヴェルティメントとして書かれたこの作品は、弦楽三重奏という小さな編成になっている。大きな編成でも、また四重奏、五重奏といった作品でも自由自在な楽器の取扱いを示すモーツァルトの特性がここでも十分に発揮されている。たとえば、和音を充実してきかせるためには、ダブル・ストッピングを用いたり、また無理のない動きで、チェロを細かく動かせたりして、3つの弦楽器という限られた素材を最大限に生かしている。こうした例は特に第4楽章、第6楽章に顕著にみられる。
 モーツァルトがなぜ三重奏の編成で作曲したかは不明だが、この作品の依頼者であるプフベルクの要求に応じたのかもしれない。  全体の構成は6楽章からなり、その点ではディヴェルティメントに近いのだが、その内容はむしろ弦楽四重奏に近い。第1楽章の充実したソナタ形式、第4楽章のよく練られた変奏手法、そして、第6楽章の主題の展開を含むロンド形式などは、すべて弦楽四重奏から獲得した成果と考えられる。
 こうして、後期のディヴェルティメント、セレナーデを扱うについては、私達はもう一度、社交音楽、娯楽音楽といわれる音楽の内容を洗い直す必要があることを指摘しておきたい。そのきっかけを与えてくれるのに、この作品は必要かつ十分な条件を備えている。
作曲の経過 このトリオはフリーメイスンの盟友で、しばしばモーツァルトの金の無心に応じてくれたウィーンの豪商、プフベルクのために1788年9月27日に書かれた。自作品目録には、「ディヴェルティメント」として収録されている。
初演 不明。ただし、1789年4月16日付の手紙に「……この小さな音楽会で、ぽくは、フォン・プフベルク氏のために書いたトリオを演奏しました。なんとか聴ける程度に弾けました。」とあることから、4月13日にドレスデンの「オテル・ドゥ・ポローニュ」で開かれた私的な音楽会でモーツァルトも加わって演奏したこと、また1790年4月8日付の手紙から翌9日に、ハディーク伯の所でこの作品が演奏されたことが確認されている。
基本資料の所在 かつてロンドンのE・W・ポール氏が所有していたが、現在は紛失。筆写譜、ベルリン国立図書館(プロイセン文化財 Mus.Ms.15445/1 第二メヌエットは、15351/3)。
出版 〔初版〕ウィーンおよびマインツのアルタリアから「大トリオ」作品19として1792年に出版、V.-Nr.368 同社の後の出版番号はV.-Nr.1907(1807年)。アルタリア社の次には、J・カッピ社。〔全集〕旧モーツァルト全集第15篇、第4番。新モーツァルト全集第8篇、第21作品群。
演奏時間 41分13秒(フィリップス X.5564)。
楽器編成 ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ。

第1楽章 アレグロ 変ホ長調 4分の4拍子。展開部が充実したソナタ形式。
第2楽章 アダージョ 変イ長調 4分の3拍子。
第3楽章 メヌエット アレグロ 変ホ長調 4分の3拍子。トリオ 変ホ長調。
第4楽章 アンダンテ 変ロ長調 4分の2拍子。主題と4つの自由な変奏曲。古典派の曲には民謡がしばしば顔を出すがこれもそうした例の1つである。原曲は、チロル民謡「街音楽師とランツフートヘ」(ネットゥル)である。
第5楽章 メヌエット アレグレット 変ホ長調 4分の3拍子。トリオ1 変イ長調、トリオ2 変ロ長調。メヌエット−トリオ1−メヌエット−トリオ2−メヌエット−コーダの順で演奏される大規模なメヌエット。
第6楽章 アレグロ 変ホ長調 8分の6拍子。大きなロンド形式。途中にかなり充実した展開部分があるため、ソナタ形式にも近く思われる。