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交響曲 第41番 ハ長調 「ジュピター」

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 「ハ長調交響曲」は、「ト短調交響曲」に遅れること約半月、1788年の盛夏に完成された。あの「ト短調」のあとに、かくも対照的な「ハ長調」が作曲されたということほど、モーッァルトの底しれぬ力量を感じさせるものはない。「ト短調交響曲」で内面的なパトスの表出に専念したモーツァルトは、それを補完する記念碑的な長調作品を書きたいという衝動にかられたのであろうか。「ト短調交響曲」をわれわれはまったくモーツァルト的た作品と認めるのだが、その「ト短調」さえ、最後の「ハ長調交響曲」からふりかえってみると、輝かしい生命力の燃焼を引き出すための内面の整理にすぎなかったのではないか、と思えてしまうほどである。短調というのは確かに抗しがたい魅力をもってはいるが、芸術家の天分の最たるところは、長調、それもハ長調をどこまで立派に書きうるか、というところにあるのではなかろうか。
 この交響曲は、フィナーレに、すべての人々の讃嘆してやまぬ、偉大な音構築を置いている。これは、ソナタ形式の原理とフーガの原理、新しいものと古いもの(アインシュタイン流にいえばギャラントなものと学問的なもの)の渾然とした統一体であるが、この高みに登りつめるまでの歩みは実に変化に富んでいて、さまざまな楽想を並置するかつての技法への復帰とさえ思われる箇所も存在する。しかし、一見無造作に継起するようにみえる多くの楽想は、実はフィナーレの定旋律から(意識的にしろ無意識的にしろ)導き出されたものにほかならない。これによって、大規模な作品の全体に、ゆるぎない統一の基調が与えられているのである。この交響曲は、J・P・ザロモン(1745-1815)以来、「ジュピター」の愛称で呼ばれるようになった。モーッァルトの交響群の最後に位置し、高みから不滅の光芒を放つかにみえるこの作品の偉容を示すものとして、これはまったく適切な形容というべきだろう。たしかに、「ジュピター交響曲」には、ギリシア的なイメージを喚起するものがある。その源泉は、ギリシアの建築や彫刻を思わせる造型の美という以上に、形態と内容の素晴らしい一致にあると思われる。近代の芸術家たちは、ギリシアを理想とし、外面と内面の一致を夢みながらも、多くの場合、憧憬としてしかそれを表現するすべを知らなかった。しかし、モーツァルトのこの交響曲は、両者の融合を、まったく素朴な態度で実現しているかにみえる。つまり、「ジュピター交響曲」は、言葉の真の意味における古典的作品なのである。形態と内容の一致という理想のゆらぐことがないかぎり、この作品は、美のひとつの極致として、長くたたえられてゆくことであろう。
作曲年代 1788年8月10日(「第39番」の項参照)。
初演 従来はモーツァルトの生前には演奏されなかったと考えられてきたが、今日では、生前に何度か演奏されていたことは確実とみられている(「第39番」の項参照)。
基本資料の所在 ベルリン国立図書館(自筆総譜)。
出版 〔初版〕 1810年頃、ロンドン、チャンケッティー二&スペラーティ(総譜)。1793年、オッフェンバッハ、J・アンドレ社(パート譜)。〔全集〕新モーツァルト全集第4篇、第11作品群、第9巻。
演奏時間 約30分(ワルター指揮のソニー盤による。繰返しはメヌエットのみ)。
楽器編成 フルート、オーボエ2、ファゴット2、ホルン2、トランペット2、ティンパニ、ヴァイオリン2部、ヴィオラ、チェロ、コントラバス。

第1楽章 アレグロ・ヴィヴァーチェ ハ長調 4分の4拍子。ソナタ形式。
第2楽章 アンダンテ・カンタビーレ ヘ長調 4分の3拍子。ソナタ形式。
第3楽章 メヌエット(アレグレット) ハ長調 4分の3拍子。
第4楽章 モルト・アレグロ ハ長調 2分の2拍子。