■モーツァルト作品解説■    [HOME]   [年代別目次]

交響曲 第40番 ト短調

K550

 この交響曲は、モーツァルトのことのほか表現的な作品として、古来注目を集めてきた。彼の交響曲中でもわずか2曲という短調作品であること、その調が「陰鬱で悲劇的な諸契機」(W・リューティ)を描くためにモーツァルトの好んだト短調であること、しかも最後までそこからの解放が行われないことが、すでにこの作品の常ならぬ性格を示すに十分であろう。A・ホイスは、ここに吹き荒れるパトスの嵐を、〈デモーニッシュ〉という形容詞でとらえようとしたし、H・アーベルトは、モーツァルトの本性にひそむ〈宿命論的ペシミズム〉の表現をそこに認めようとした。確かに、この作品に蔵された、聴く者の存在を根底からゆさぶるほどの力は、音楽的にのみ解明しうるものではない。人生に真剣にとりくみ、人間のいとなみを透徹したまなざしで見据える人格が自己を全的に投入してこそ、「ト短調交響曲」のような作品が完成されうるのである。とはいえ、モーツァルトはそこに、〈叫び〉を求めたのではなかった。どんな激情をも包みこんで結晶化させてしまう厳格な芸術的形成こそ彼の求めたものなのであり、それこそが、この作品の真価を高めているのである。モーツァルトは、「最も苦悩に満ちた音程」(A・ホイス)とされる短二度を、基本動機として全曲にわたって使用し、これに派生する半音階的な旋律と和声に、重要な機能を与えた。そして、バッハ体験以来はぐくみ続けてきたポリフォニー技法をかつてない集中度で利用して、作品に、バロックの教会様式をすら思わせる、きびしい線的性格を打ち出している。この意味で、O・ヤーンの次のような指摘は、作品の本質をつくものといいうるであろう。「モーツァルトの交響曲のうちでも、これは最もパトス的なものである。しかし、巨匠はここでも、『音楽は、最もむごたらしい状況においても、なお音楽であるべきです』(という、書簡で表明された美的原則)を忘れず、パトスの性格的表現のなかに、美を堅持した。」
 この線的性格に対応するべく、編成からはトランペットとティンパニが省かれ、管パートは、フルート1、オーボエ2、ファゴット2、ホルン2によって編成された。のちにモーツァルトは、ここに2本のクラリネットをつけ加え、オーボエに与えられていた楽想をクラリネットに分担させた。これによって、響はいっそう豊かに、表現力はいっそう多様になったが、オーボエを重用した初稿の簡潔できびしいテクスチュアは、後退を余儀なくされている。このため今日では、初稿を用いて演奏されることもまれではない。
作曲年代 1788年7月25日(「第39番」の項参照)。
初演 従来はモーツァルトの生前には演奏されなかったと考えられてきたが、今日では、生前に何度か演奏されていたことは確実とみられている(「第39番」の項参照)。特にこの交響曲においては、モーツァルト自身が2種の修正(第2楽章の一部での楽器変更ど、クラリネットの付加)を行っているところから、彼が演奏を聴いていたと推定されるのである。クラリネット新稿の初演は、R・ランドンによれば、1791年4月16日と17日にウィーンで行われた。
基本資料の所在 ウィーン楽友協会(自筆総譜)。
出版 〔初版〕 1810年頃、ロンドン、チャンケッティー二 スペラーティ(クラリネットなしの総譜)。1794年、オッフェンバッハ、J・アンドレ社(クラリネットなしのパート譜)。1805年、J・アンドレ社(クラリネット付のパート譜)。〔全集〕新モーツァルト全集第4篇、第2作品群、第9巻。
演奏時間 約26分(ワルター指揮によるCBSソニー盤。繰返しはメヌットのみ)。
楽器編成 フルート、オーボエ2、ファゴット2、ホルン2、ヴァイオリン2部、ヴィオラ、チェロ、コントラバス(のちクラリネット2を追加)。

第1楽章 モルト・アレグロ ト短調2分の2拍子。ソナタ形式。
第2楽章 アンダンテ 変ホ長調 8分の6拍子。ソナタ形式。
第3楽章 メヌエット(アレグレット) ト短調 4分の3拍子。
第4楽章 アレグロ・アッサイ ト短調 2分の2拍子。ソナタ形式。