■モーツァルト作品解説■    [HOME]   [年代別目次]

弦楽五重奏曲 第2番 ハ長調

K515

 モーツァルトの弦楽五重奏曲は、ザルツブルク時代につくられた「第1番」から実に15年以上を経て新たにその真の重要性をもって室内楽の世界に歩み出す。その第一歩を記す作品がこの「ハ長調五重奏曲」であり、次にくるト短調作品とともに、従来あの「大ト短調」「ジュピター」の最後の2つの交響曲に並び称されてきた。相対照する調性と作品の秘めている構築美がこれらに比肩されるのである。全器楽作品中、最大規模をもつこのハ長調作品には、「ジュピター」に似て旋律法、形式観ともに揺るぎなく、君臨する王者の風格がにじみ出ている。アインシュタインは「誇らかで、王者のようで、宿命を孕んでいる」と表現しているが、この最後の言葉は、この作品がさらに「ドン・ジョヴァンニ」の年に生まれたことをも想起させるのである。かのオペラを支配した運命的なデモーニッシュな力は、半音階を含む不安定な音進行、揺れ動く調性など、この透明で誇らかた作品にも影響をあらわさずにはすまさなかった。しかし次にくるト短調作品とは対照的に、力強い緊張を内に向けて保った密度の濃い堅固な精神が全体を支え、モーツァルトの室内楽作品のうちの最高傑作をつくりあげている。
作曲の経過 モーツァルトが真の室内楽としての弦楽五重奏へと促された動機はチェロを巧く奏したプロイセン王とその宮廷作曲家ルイジ・ボッケリーニの弦楽五重奏曲とも考えられるが、真偽は明らかでない。しかし1788年4月2日、5日、9日の3回にわたってウィーン新聞に掲載された予約出版広告における3曲の弦楽五重奏曲がこのハ長調、次のト短調K516、それにハ短調K406(516b)であることはまちがいない。この広告は多くの予約者を集めることができなかったとみえて6月25日に再掲載され、−これによって予約者が増えたものかどうかは明らかではないが−1789年にアルタリア社から出版される運びとなったのである(作曲年代は1787年4月19日、ウィーン)。
基本資料の所在 ワシントン、国会図書館所蔵。
出版 〔初版〕ウィーン、アルタリア社、1789年。〔全集〕新モーツァルト全集第8篇、第19作品群、第1巻。
演奏時間 約32分。
楽器編成 ヴァイオリン2、ヴィオラ2、チェロ。

 楽章配置は、自筆稿ではアレグロ−メヌエット−アンダンテ−(アレグロ)となっているが、おそらくシュタトラー(1753-1812)と目される第三者の手で中間の2楽章が入れ替えられているため、新全集の校訂者シュミットはアンダンテを先におき、後継者ヘスもこれを残した。しかしアーベルトはメヌエットを先におく楽章配置をこの時期のモーツァルト作品の特徴としており、また、次にくるト短調作品でもメヌエットが第2楽章とされていることからヘスはメヌエット−アンダンテでも可としている。
第1楽章 アレグロ ハ長調 4分の4拍子。大規模なソナタ形式。
第2楽章 アンダンテ ヘ長調 4分の3拍子。展開部を欠くソナタ形式。第一ヴァイオリンと第一ヴィオラの美しい対話が主体となるコンチェルタントな楽章。
第3楽章 メヌエット アレグレット ハ長調 4分の3拍子。第1楽章の悠然とした気品を伝える内省的で、しかも諧謔的なフモールをも含むメヌエット。
第4楽章 アレグロ ハ長調 4分の2拍子。第1楽章に匹敵する規模と質を得るために精巧に構成された、ロンド形式とソナタ形式の大規模な融合形式。