■モーツァルト作品解説■    [HOME]   [年代別目次]

弦楽四重奏曲 第20番 ニ長調

K499

 1782年から1785年にわたって書きあげられた6曲一連の〈ハイドン四重奏曲〉によって古典派室内楽のたぐいまれな芸術的完成を果したあと、モーツァルトのこのジャンルの創作活動の重点は、弦楽五重奏曲に切り替えられたといっていい。しかし、続く作品がまったく書かれなかったわけではない。〈ハイドン四重奏曲〉最後の曲、ハ長調K465が書かれてから1年半余を経て作曲されたこのニ長調の作品のほかにも、さらに3、4年をへだてて3曲が生まれているのである。
 ニ長調K499は、1786年8月19日、ウィーンにおいて完成されたものであるが、作曲の動機等については何も知られていない。ケッヒェルの作品目録初版は、古い語り伝えとして、「レクイエム」の作曲を依頼した例のヴァルゼック=シュトゥパハ伯爵の注文によるものという説をあげているが、しかしこれは根拠のあるものではない。この作品は、同年ウィーンのホフマイスター社からパート譜が出版されているため、アインシュタインは、モーツァルトの知人でもあったこの出版者に、本曲の作曲をもって借りを返したのではないかと考えているが、作曲の動機はあるいはそんなところにあったのかもしれない。
 モーツァルトの弦楽四重奏曲の作曲は、数曲がまとまってなされることが多いが、この作品だけは、他の曲から切りはたされ、孤立したものとして、生み出された点、他の作品とは異なっている。しかしながら、様式的にみて、〈ハイドン四重奏曲〉との関係が強調されて考えられることが多く、たとえばアインシュタインやパウムガルトナーがその立場をとっているが、逆に、前後の弦楽四重奏曲群との関連をはっきり否定してしまうものもある(サン=フォア等)。しかし、とにかく、内容・形式いずれを問わず、厳格でありながら、かつ、軽やかな性格からみて、この作品が〈ハイドン四重奏曲〉につながり、いわばその総合としての意味をもつとともに、音の響きの豊かな変化の点でシューベルトをも思わせるというアインシュタインの言葉がうなずける作品であろう。
作曲の時期 1786年8月19日にウィーンで完成された。
基本資料の所在 自筆譜はロンドンの大英博物館所蔵。
演奏時間 約25分。

第1楽章 アレグレット ニ長調 2分の2拍子。ソナタ形式。
第2楽章 メヌエット アレグレット ニ長調 4分の3拍子。対位法を駆使したこの楽章は、当時のメヌエット作品のなかでも、特異な存在のひとつである。トリオ ニ短調 4分の3拍子。
第3楽章 アダージョ ト長調 4分の3拍子。落ち着いたしらべは、秘められた深い内容をしのばせる。
第4楽章 アレグロ ニ長調 4分の2拍子。ソナタ形式。前3楽章を要約するようなフィナーレは、アインシュタインがいうように、快活さのマスクのもとに暗い相貌をかくしているような楽章である。