■モーツァルト作品解説■    [HOME]   [年代別目次]

ピアノ協奏曲 第23番 イ長調

K488

 1784年には6曲のピアノ協奏曲が作られており、1785年には3曲、そして1786年にも3曲(K488、491503)の協奏曲が作曲された。これらは文字通り古典派のピアノ協奏曲の最高峰に位置する作品である。これらの協奏曲では、形式、楽器の使用法、旋律、和声の点で、ハイドンの技法を継承し、高度の完成へと展開していると、ロビンス・ランドン(1926−)は述べている。
 1786年には、3月から4月にかけて、3回の予約音楽会が開かれ、K488とK491の2曲の協奏曲が、四旬節の演奏会の機会に作曲され、K503は冬期音楽会のために書かれたものである。
 この「イ長調」協奏曲は、モーツァルトの後期のピアノ協奏曲の中で、その親しみやすい主題、両端楽章がごくありふれたソナタ形式とロンド形式という楽曲構造のために、一般的にもっとも広く知られている協奏曲である。また管弦楽と独奏ピアノが同一の主題を奏することも、この曲の密度を高めると同時にわかりやすいものにしている要因である。ピアノが独自の主題をもっていない点は、1785年から1786年にかけてのピアノ協奏曲と異なっている。これは1784年のK451453456などに認められる手法で、モーツァルトの作風が一見後退しているかにみえるが、作品はあくまでも洗練された簡素さを示している。
 一方、ヘルマン・ベックによれば、モーツァルトは、たいていのピアノ協奏曲では、ピアノ・パートをまずスケッチし、あとになって初めてこれを入念に仕上げているが、この作品では、ピアノ・パート全体を最初から完全な形で書き記しており、細部に至るまで入念に仕上げられているので、どのような補充をも必要としていないのである。このことは、第1楽章のカデンツァが完全に書き記されていることからも理解できる。ほかのほとんどの協奏曲では、自筆による総譜にはカデンツァはその本来の場所に書き込まれていない。
 ところで、第2楽章にも、第3楽章にもカデンツァはあらかじめ置かれておらず、またどこにも入る機会が示されていないが、このことも、この作品が極度に力が集中されて作られていることを示している。すなわち、絶え間なく華麗たパッセージが現れているために、いつもは非常に好まれている即興演奏の技法を、さしはさむ余地を与えていないのである。
作曲の時期 モーツァルトが1784年以来書き記している「全自作品目録」には、この作品の完成日は1786年3月2日であり、ウィーンで作曲されたことになっている。
初演 1786年の四旬節の演奏会期間中の3月に初演されたと考えられているが、詳しいデータは不明である。
 モーツァルトはウィーン以外の地でも発表することを試みていたようで、1786年8月8日にこの作品の筆写譜をドーナウエッシンゲンの侯爵に提供している。
基本資料の所在 自筆楽譜はパリ国立図書館(Ms.226)に、筆写譜はベルリン国立図書館(Mus.Ms.15486,15486/1,15486/5)に総譜で、ウィーン国立図書館(Mus.Hs.20227)にパート譜で保存されている。
出版 〔初版〕オッフェンバッハのJ・アンドレ、1800年。〔全集〕旧モーツァルト全集第16篇、第23番。新モーツァルト全集第5篇、第15作品群、第7巻。
演奏時間 24分。
楽器編成 独奏ピアノ、フルート、クラリネット2、ファゴット2、ホルン2、ヴァイオリン2部、ヴィオラ、チェロ、コントラバス。  トランペットとティンパニを欠き、オーボエの代りにいっそうやわらかな響のクラリネットを加えている。

第1楽章 アレグロ イ長調 4分の4拍子。協奏風ソナタ形式。
第2楽章 アダージョ 嬰へ短調 8分の6拍子。三部分形式。
第3楽章 アレグロ・アッサイ イ長調 2分の2拍子。ロンド形式。