■モーツァルト作品解説■    [HOME]   [年代別目次]

ピアノ四重奏曲 第1番 ト短調

K478

 ウィーンにおけるモーツァルトの活動はクラヴィーア奏者としてのそれを抜きにしては考えられないが、当時のクラヴィーアの流行は著しいものがあった。「フィガロ」を峰とした1784−86年にはクラヴィーア協奏曲を中心としたクラヴィーアを含む器楽曲がことに数多く生み出されている。だがそれにしてもこのクラヴィーア(ピアノ)四重奏曲というジャンルはウィーンの聴衆にとってもまたモーツァルトにとっても準備のなかったものであり、室内楽の大先輩ハイドンも1曲すら残さなかった領域なのである。モーツァルトが1787年になって、なぜ新しくこのジャンルに着手したのかは明らかではない。前年の「クラヴィーアと木管のための五重奏曲」K452に動かされたものか、あるいはのちに述べる出版社からの依頼の際に取り決められていたのだろうか。
 「フィガロ」をはさんで相次いで生み出された2曲のクラヴィーア四重奏曲は、クラヴィーアという華やかな、社交的な楽器の参加によって協奏曲的な性格に濃く彩られつつも、音楽の本質は弦楽四重奏曲の延長上にある真の室内楽に根ざしている。ことにこの「第1番」はト短調という調性を得た厳粛で情熱的な楽曲であり、モーツァルトはこのジャンルを突然の高みからはじめることとなるのである。「大ト短調」交響曲弦楽五重奏曲「第3番」にその結晶がみられる〈宿命的〉調性は、このクラヴィーア四重奏曲でも独特の刻印を残している。なお、購売者の趣味を配慮したものか、主楽章以外では短調は避けられている。ちなみにモーツァルトはこの年、「ニ短調クラヴィーア協奏曲」「ハ短調」のファンタジーといずれも個性的な短調作品を生み出している。
 成立事情としては、ウィーンの出版社ホーフマイスターは、クラヴィーア四重奏曲を3曲の連作としてモーツァルトに依頼したが、第1番について、これは一般公衆にはむずかしすぎるので受けないだろうと嘆いたため、モーツァルト自ら契約を破棄し、次作をアルタリア社から出したといういきさつが伝えられている。第3作はその後、作曲されず、またこのジャンルそのものも、もはや顧られることはなかったのである。作品は「フィガロ」に没頭していたであろう3ヵ月の沈黙期間ののち、10月に作曲されている。
作曲年代 1785年10月16日、ウィーン。
基本資料の所在 ワルシャワ、ショパン協会(自筆楽譜)。
出版 〔初版〕ホーフマイスター、1785年12月。〔全集〕新モーツァルト全集第8篇、第22作品群、第1巻。
演奏時間 約26分。
楽器編成 クラヴィーア、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ。

第1楽章 アレグロ ト短調 4分の4拍子。ソナタ形式。
第2楽章 アンダンテ 変ロ長調 8分の3拍子。展開部を省いたソナタ形式。
第3楽章 ロンド 2分の2拍子。主調にかえらずト長調をとっている。主楽章でみせた烈しさとかげりを内に含みながら、透明な美しさのうちに進められるが、楽想とその情調の妙に感嘆させられる。全体はソナタ風の構成をもつロンド形式。