■モーツァルト作品解説■    [HOME]   [年代別目次]

歌曲「すみれ」

K476

作曲年代 1785年6月8日、ウィーン。
演奏時間 約2分半。

 モーツァルトの唯一のゲーテ歌曲であり、彼の歌曲中の最高傑作であるこの曲は、「フィガロの結婚」に着手する直前に完成した。原詩は、ゲーテ(1749-1832)のジングシュピール「エルヴィーンとエルミーレ」(1773年か74年作)に出てくるバラードで、モーツァルトはある詩集のなかにこの「すみれ」を発見し、ゲーテの作品とは知らずに作曲したのだった。作曲の動機は不明である。
 3節からなる詩は物語としての筋をもっており、モーツァルトはそれに即して音楽を劇的に通作することにより、当時一般的であった有節形式による歌曲の枠を打ち破っている。歌曲というよりも劇的シェーナとするほうがむしろふさわしい。曲はト長調、4分の2拍子、アレグレットで始まる。可憐なすみれと快活な少女をほぽ同じリズムで対置させた軽やかな第1節(ト長調−ニ長調)、すみれの少女に対する憧憬を歌った第2節(ト短調−変ロ長調)、すみれの運命と死を告げるレチタティーヴォ形態の第3節(変ホ長調−ハ短調)、死をも喜びとするすみれ(ト長調)というように、細かく転調していく。さらに原詩にはないが印象を強めるためにおかれた最後の2句、歌詞内容を説明づけるピアノ伴奏型、シューベルト以降に展開されるドイツ・ロマン派の歌曲の先駆といえる。
〔歌詞大意〕すみれがひとつ牧場に咲いていた。可愛らしいすみれだった。すると羊飼の娘が楽しそうに歌いながら牧場にやってきた。すみれは、娘の手に摘まれ、ほんの少しでも胸にさしてもらえたらと望んだが、娘はすみれに目もくれず、踏みつけてしまった。すみれは死んだが、娘に踏まれて死んだことをうれしいと思った。哀れなすみれ。