■モーツァルト作品解説■    [HOME]   [年代別目次]

ピアノ協奏曲 第14番 変ホ長調

K449

 1784年−ウィーンに出てから3年目を迎えるこの年は、モーツァルトにとって、外的成功の頂点を形成した年であった。ピアニストとしての人気は絶頂に達し、四旬節のころには、46日の間に23回ものコンサートを開かねばならなかった。予約者の数が増えた結果、生計の維持には十分な見通しがついたから、モーツァルトは、音楽活動に心ゆくまで打ちこむことができた。多忙な日々をモーツァルトがどれほどの誇りと満足をもってすごしていたかは、3月3日に父レオポルトに宛てた報告から読みとることができる。「御無沙汰をお許し下さい。ぼくにはまったくもって時間がないのです。(中略)こう言えばすぐにおわかりでしょうが、どうしても新作を演奏しなくてはなりません。ですから、やはり作曲しなくてはならないのです。午前中は、ずっと生徒達にかかりっきりです。そして、夜は夜で毎晩のように演奏しなくてはなりません。」
 またこのころモーツァルトは、作曲家としての自分についても、はっきりした自覚をもつようになっていた。それを象徴的に示しているのは、この年の2月に、自筆の「主題目録」(1784年2月から1……年……月までの私の全作品の目録)が作成されはじめたことである。モーツァルトはこれによって、おりおり書き連ねられる自分の作品すべてに独立自存的な位置づけを与え、それらが特定の機会を超えて保存されることを願った。音楽における古典主義の完成は、モーツァルトの内部においても成就されつつあったのである。
 こうした充実の時期における創作気分の高揚は、一連の器楽作品、とくに6曲のピアノ協奏曲に、もっともよく反映されている。なかでも、協奏曲「変ホ長調」K449は、「主題目録」に第1曲として収められたという意味で、モーツァルトの創作史上記念すべき位置を占める作品であるといえよう。この「変ホ長調」を皮切りに、次々と生み出された協奏曲−明るさと活気にみちあふれ、〈ハイドン・セット〉の時代ならではの精緻な作曲技法の示された諸作品−に対して、モーツァルトは、明らかに格別の自負と愛着をいだいていた。すなわち、モーツァルトは5月に、4つの協奏曲(K449、450451453)をザルツブルクの父に送っているのだが、そのさい、これらの協奏曲が無断で筆写されて名をかたられたりしたいようくれぐれも注意してほしい、と頼んでいるのである(5月15日付の書簡)。しかしモーツァルトによれば、この「変ホ長調」K449は、「まったく特別な種類の協奏曲」として、K450以下の「大」協奏曲とは一線を画されるべきものであった。これは「大オーケストラというよりは小オーケストラのために」(5月26日付の書簡)に書かれた作品であり、発想においても、規模においても、室内楽的な特徴が示されているのである。オーケストラの主体はつねに弦楽器に置かれ、管楽器は、用いても用いなくてもよいように、ごく補助的た役割にとどめられている。モーツァルトは、サロンないし家庭向きの手軽な音楽という枠は守りながらも、その中で、個性的な言葉を語りだそうとした。作品全体の基調はなごやかなものであるとはいえ、ここには、同じ調性による傑作、交響曲「第39番」の世界を先取りするような壮麗さと優雅さの、また透明さと悲哀感の並存と融合が、早くもみとめられる。
作曲の経過 1784年から85年にかけてモーツァルトにピアノと作曲を師事していた、バルバラ・フォン・プロイヤーのために作曲された。完成は、1784年2月9日。プロイヤーは、ウィーン駐在のザルツブルク宮廷連絡官、ゴットフリート・イグナーツ・フォン・プロイヤーの娘である。モーツァルトは彼女のためにK449、453の両協奏曲およびピアノのための「小葬送行進曲」K453aを書いており、ほかに、2人の作曲のレッスンに用いられた「練習帳」K453bが保存されている。
初演 1784年3月17日に、トラットナーホーフにおける「ぼくの最初の私的演奏会」(予約制)で行われた。3月20日に父に宛てた書簡は、その好評ぶりを次のように伝えている。
「17日の最初の音楽会は、うまくゆきました。会場はあふれんばかりにいっばいでした。ぼくの弾いた新作の協奏曲は、ものすごく好評でした。いたるところ、この音楽会をほめる声でもちきりです」。なお、プロイヤー嬢は、デープリングのプロイヤー邸で開かれた3月23日の音楽会で、この作品を演奏している。
基本資料の所在 ベルリン国立図書館(自筆譜)。
出版 〔初版〕オッフェンバッハのJ・アンドレ、1792年。〔全集〕新モーツァルト全集第5編、第15作品群、第4巻。
演奏時間 約24分(ヘブラー独奏のフィリップス盤による)。
楽器編成 独奏ピアノ、オーボエ2(省略可)、ホルン2(省略可)、弦5部(低音部にはファゴットを加えてもよい)。

第1楽章 アレグロ・ヴィヴァーチェ 変ホ長調 4分の3拍子。協奏風ソナタ形式。
第2楽章 アンダンティーノ ,変ロ長調 4分の2拍子 主要主題部と副主題部を3度ずつ繰り返した、三部分形式。
第3楽章 アレグロ・マ・ノン・トロッポ 変ホ長調 2分の2拍子。ロンド形式。