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ピアノ協奏曲 第12番 イ長調

K414

 「……これらの協奏曲はやさしすぎもせず、むずかしすぎもせず、ほどよい中間を保っています。非常に華麗で耳に快くひびき、からっぽにおちいることなく自然さを保っています……」(モーツァルトの手紙から)。
 「これらの協奏曲」とはK413、414、415の3曲、すなわちウィーン時代のピアノ協奏曲の最初のシリーズ、いわゆる1782年のセットをさす(K413およびK415概説の項参照)。
 ウィーン時代ののちの傑作と比較すると、これらの3曲ではいずれもきわめて穏健な伝統の枠に閉じこもり、ウィーンの聴衆の保守的な好みを驚かさぬよう慎重な態度がとられている。とくにこの「イ長調」は形式上の工夫においては「へ長調」に、楽想のスケールと生気においては「ハ長調」に一歩を譲りながら、このセット共通の限界を最も端的に現しているかのようにもみえる。しかしその反面、他の2曲においては真にモーツァルト的な表情がどこか隠し伏せられているような傾きがあるのに対しては、この「イ長調」において最も純粋なモーツァルトが、その限られた一面においてではあるが、直接に現れているといえるであろう。楽式の創意も、楽想の規模もこの曲にあっては問題ではない。ここでモーツァルトはもっばら優雅な、あかるくのびやかな旋律のうちに姿をみせる。この姿はのちに「イ長調」K488の協奏曲で最も完成したかたちで現れるのと同一のものである。そして〈イ長調のモーツァルト〉ともいうべき彼のこの一面は、つねに最も愛好される一面であり、そのためかこの曲はセット中で最もひろく親しまれている。
作曲の時期 他の2曲と同様、1783年初頭の予約演奏会のために書かれた。ケッヒェル番号によれば、この「イ長調」は「へ長調」のつぎに置かれているが、詳細なモーツァルト研究をおこなったアルフレッド・アインシュタインの主張によれば、3曲中最初に完成をみたのはこの「イ長調」に相違ないという。すなわち、モーツァルトが父親に宛てた1782年12月28日付の手紙には、予約演奏会用の協奏曲がまだ2曲未完のままだと記されているため、当時までに完成していたはずののこりの1曲がどれであるかが問題とされるが、アインシュタインはつぎの理由からこれを「イ長調」であると推定している。第一に、これら3曲が初版されたとき、「イ長調」、「へ長調」、「ハ長調」の順に配列されていること。第二に、K386のロンド(イ長調)−これはK414のフィナーレをなすロンドと主題的にもよく似ており、その代役を果しうる双生児なのであるが−に、1782年10月19日という日付がつけられていること。とくに第二の理由はなかたか有力であると思われるが、いずれにせよ最後の確証となるにはいたらない。
 また、この曲が実際に、いつ、どこで、初演されたかに関しては、「へ長調」とおなじく消息はないようである。
初演 この曲の初演は不明だが、1782年11月3日にアウエルンハンマー家で行われた音楽会と考えられている。
基本資料の所在 自筆楽譜はベルリン国立図書館所蔵。
出版 〔初版〕ウィーンのアルタリア、1785年(出版番号41)。〔全集〕旧モーツァルト全集第16篇、第12番。新モーツァルト全集第5篇、第15作品群、第3巻。
演奏時間 約24分。
楽器編成 独奏ピアノ、オーボエ2、ホルン2、弦5部。(モーツァルト自身、ある手紙のなかで、オーボエとホルンは省略して演奏してもよいとことわっている。)

第1楽章 アレグロ イ長調 4分の4拍子。協奏風ソナタ形式。
第2楽章 アンダンテ ニ長調 4分の3拍子。深く静かに息づく旋律は、ヨハン・クリスティアン・バッハの作品からとられたものである。
第3楽章 アレグレット イ長調 4分の2拍子。ロンド形式。