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歌劇「イドメネオ」より バレエ音楽

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 「イドメネオ」はパリ旅行から帰ったモーツァルトがまたもや失意のうちに宮仕えをしていたころ、ミュンヘンの選帝侯カール・テオドールによって1781年の謝肉祭のために依頼された作品であり、既に1712年、ダンシェの台本でカンプラが作曲したものをヴァレスコがイタリア語に翻訳した3幕のオペラ・セリアである。パリでオペラ座のためにオペラを作曲するという望みを果せなかったモーツァルトはこの依頼で幾ばくかの光明を得たのである。
 当時、オペラにバレエはつきものであったが、このオペラのバレエがどういったものであったのかは明らかでない。しかし当時、彼は「ディヴェルティメント(ディヴェルティスマン)」を作曲すると手紙で述べているところから、おそらくフランスの伝統をもったグルック風のディヴェルティメント(通例、オペラ各幕の最後に置かれる)を意識していたと考えられる。モーツァルトのそれは、第1曲の調性、拍子、自筆楽譜の状況などからオペラ第1幕の最後にまとめて置かれたものと推定される。バレエ音楽にはパリ滞在の影響が強くあらわれており、特にグルックが意識されていて、第1曲シャコンヌの冒頭はグルックの「イフィゲニア」のシャコンヌと類似していることがしばしば指摘されている。いずれにせよ天才の力はこうした短いバレエ音楽をも珠玉の佳品としており、シャコンヌ、パッサカリアといったバロックの舞曲形式における巧まざる優美さ、踊り手と一体となった楽器の処理の見事さが注目される。
 オペラの内容はギリシアのアガメムノン伝説にあるもので、トロイ戦争後のクレタ島、捕われのトロイ王の娘イリアと宿敵クレタ王の子イダマンテの愛、これにアガメムノンの娘エレクトラがからまり、帰還したクレタ王イドメネオが海神に犠牲として息子を捧げるが、イリアの愛で救済され恋人同士は結ばれるという話である。
作曲の経過 モーツァルトは1780年11月6日、オペラの作曲のため、ミュンヘンに到着。ザルツブルクで既に着手されていたオペラは1781年1月に完成。バレエ音楽の方は当時の手紙から推定して1780年12月30日以後、翌年1月18日までの間に成立と考えられる。
初演 1781年1月29日、ミュンヘン選帝侯オペラ劇場(後のレジデンツ劇場)にて。
基本資料の所在 オペラ−ベルリンのプロイセン国立図書館(第1、第2幕は戦後散逸、第3幕は現在マールブルクドイツ図書館)。バレエ音楽−ベルリンのプロイセン国立図書館(現在チュービンゲン大学)。(以上自筆楽譜)
出版 新モーツァルト全集第2篇、第5作品群、第11巻。
演奏時間 序曲5分、バレエ音楽29分。
楽器編成 フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン2、トロンボーン2、ティンパニ、弦楽5部。

 群舞に応じてトゥッティ、ソロ舞踏に応じてソロあるいは少数楽器というように踊り手に楽器が呼応している。
第1曲 シャコンヌ。ニ長調 4分の3拍子。トゥッティによるトニカの三和音が華やかに奏される。
第2曲 ムシュー・ル・グランの「パ・スール」。ニ長調 4分の3拍子。ラルゴでフランス序曲風の荘重な開始。
第3曲 マドモワゼル・レートヴォンのための「パスピエ」。変ロ長調 8分の3拍子。
第4曲 ガヴォット。ト長調 2分の2拍子。
第5曲 ムシュー・アントワーヌのための「パッサカリア」。変ホ長調 4分の3拍子。