■モーツァルト作品解説■    [HOME]   [年代別目次]

「泉のほとリで」によるクラヴィーアとヴァイオリンのための6つの変奏曲 ト短調

K360(374b)

 ザルツブルクの大司教との確執の末、その束縛の糸を断ち切ったモーツァルトは音楽家としての職と名声を確立するために楽都ウィーンで活動することになるが、その最初の年1781年に作曲されたのがこの2曲の変奏曲である。モーツァルトがこの年に、広く愛好されていた変奏曲を作曲したことは、弟子を集めるためとクラヴィーア奏者としての名声を得るための当然の行為として解される。6月20日の父親宛の手紙では「僕はさらに女弟子のために変奏曲を作らねばなりません」と書いており、7月4日には姉宛に「3曲の変奏付アリアを作曲しました」と完成を伝えている。この女弟子はウィーンにおける最初のクラヴィーアの弟子マリー・カロリーネ・ティエンヌ・ド・ルムベック伯爵夫人であるが、彼女のための曲がいずれであるかは不明である。また、3曲とはこの2曲の変奏曲のほかにK352(374c)のクラヴィーア変奏曲をさす。
 2曲の変奏曲はト長調とト短調の対をなしていて〈ギャラント〉(アインシュタイン)な性格を有している。変奏は主としてクラヴィーアによるものであるが、ヴァイオリンは機に応じて鋭い効果をあげている。主題はいずれもフランスのシャンソンからとられている。すなわちト長調のほうは、1770年にアルバネーズが出版した「同声の二重唱、ロマンス、ブリュネット集第5巻」中にブリュネット(恋歌)としておさめられている「羊飼の娘セリメーヌ」から、ト短調のほうはやはりアルバネーズが1767年に出版した「伴奏付のアリエッタ集第3巻」中、「泉のほとりで」からとられている。後者は従来「ああ、私は恋人を失くした」によるとされてきたが、この題のシャンソンはフランスにはないことが、その後の研究で判明したため、新全集では「泉のほとりで」によると変更されている。モーツァルトはこれらを1778年のパリ滞在の際に知ったものと考えられる。
作曲年代 おそらくは1781年、7月。
基本資料の所在 パリ国立図書館(旧パリ音楽院図書館、マレルブ・コレクション)。
出版 〔初版〕ウィーン、アルタリア社、1786年。〔全集〕新モーツァルト全集第8篇、第23作品群、第2巻。
演奏時間 K359は15分。K360は10分。
楽器編成 クラヴィーア、ヴァイオリン。

〔「泉のほとりで」の主題による6つの変奏曲〕アンダンティーノ ト短調 8分の6拍子。原曲のホ短調はト短調に移されている。「憂愁を帯びたシチリア風の主題による抑制された、かなり強い情熱をもつ真のモーツァルト的ト短調作品」(アーベルト)。