■モーツァルト作品解説■    [HOME]   [年代別目次]

キリエ ニ短調

K341(368a)

 オペラ「イドメネオ」上演のために滞在中のミュンヘンで、1780年末から翌年にかけて、当地での就職に期待をこめて作曲されたと思われる作品。オペラの依頼主であるバイエルン選帝侯カール・テーオドール公に、オペラのみならず教会音楽における実力も認識してもらうべく、モーツァルトは旧作のミサ曲を送るようザルツブルクの父に依頼していたが、とかくする間に、ミュンヘンの高い音楽要求にかなうような新作を、との考えに傾いたのであろう(アインシュタイン)。「イドメネオ」のそれと一致するヴィオラとクラリネットまでも加えた大編成は、モーツァルトのミサ曲にあっては異例なものである。しかし、この孤立した、だが119小節にもおよぶミサ冒頭楽章の何よりも印象的なのは、絶作「レクイエム」と同じ調性による暗く深い響きで哀しみと悔恨を訴えあげていることであろう。表現の円熟という点よりすれば、これはすでに翌年の「ハ短調ミサ曲」の域に接している。サン=フォアが若きモーツァルトの到達し得た最高の宗教的境地をここに見出しているのも、ゆえなきことではない。
作曲の時期 おそらく1780年11月から1781年3月までの間、ミュンヘンにて。
基本資料の所在 自筆楽譜は消失。
出版 〔初版〕オッフェンバッハ、アンドレ社(1825年頃)。〔全集〕旧モーツァルト全集第3篇、第5番。
演奏時間 約6分半。
編成 4歌唱声部。フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、ティンパニ、ヴァイオリン2部、ヴィオラ、チェロ、コントラバス、オルガン。

 ニ短調 アンダンテ・マエストーソ 4分の3拍子。冒頭、ニ短調和音が深々と響きわたると、弦と低音に愁いを帯びた半音階的楽句が奏されて、全曲の基調が早くも予示される。合唱が「キリエ」を3回唱えたあと、へ長調の旋律に始まる中間部をはさんで、音楽的には3部形式をとるが、それは典文テクストの3行構成とは合致しない。テクスト2行目の「クリステ」が音楽の第3部(再現部)にあてはめられる一方、全曲を通して「キリエ」と「クリステ」は自由に交錯しているからである。声と弦の対応を盛えてる多彩な木管群の音色効果の絶妙な点は、後年のピアノ協奏曲に通じるものがある。合唱が最後に今一度トゥッティで隣みを乞い叫び、曲が完結したかに思われる一瞬、オーケストラの消え入るような後奏が嫋々とした余韻を含んで響きやむ。