■モーツァルト作品解説■    [HOME]   [年代別目次]

ヴェスペレ「証聖者の盛儀晩課」 ハ長調

K339

 ヴェスペレは、カトリックの聖務日課において日没時にとり行われる祈り、晩課の意である。このなかに含まれる「マニフィカト」の典文には古くから多声書法が許されていたため、宗教音楽の歴史においては、おそらくミサについで重要た位置を占めている。モーツァルトにはもうひとつ、同じハ長調の「主日のためのヴェスペレ」K321という作品があり、これには伝承の誤りにより、あたかも別内容であるかに思わせるタイトルが付されてしまったが、実際には、両曲とも使われているテクストも、また音楽的構成もまったく変るところはない。そのテクストは、旧約聖書よりの5つの詩篇(第110、111、112、113、117篇)と新約聖書ルカ伝よりの第1章、第46行から第55行までのいわゆる「マニフィカト」よりなり、おのおのの結尾には「願わくは聖父と聖子と聖霊として栄えあらんことを……」の栄誦が付加される。
 このヴェスペレはザルツブルクで作曲されたモーツァルトの最後の教会作品にあたる。K321に比べて、響きの造形的精巧さが目立つように思われるが、それはすでにあのマンハイム様式も吸収し、生得のいわば女性的美質に、男性的力強さ、逞しさが重ね合わされたためであろう。ウィーン移住後、あの衝撃的な〈バッハ体験〉をもたらしたヴァン・スヴィーテン男爵に聴かせるにふさわしい自作として、父にこれら2曲のヴェスペレの総譜を送るようモーツァルトが依頼したことが、1783年3月12日付の書簡から確かめられている。
作曲の時期 1780年、ザルツブルク。
基本資料の所在 〔自筆楽譜〕ベルリン国立図書館。〔全集〕新モーツァルト全集第1篇、第2作品群、第2巻。
演奏時間 約28分半。
編成 4歌唱声部。トランペット2、トロンボーン3、ティンパニ、ヴァイオリン2部、チェロ、ファゴット、コントラバス、オルガン。

第1曲 ディクシト。アレグロ・ヴィヴァーチェ ハ長調 4分の3拍子。
第2曲 コンフィテボル。アレグロ 変ホ長調 4分の4拍子。
第3曲 ベアートゥス・ヴィル。アレグロ・ヴィヴァーチェ ト長調 4分の3拍子。
第4曲 ラウダーテ・プエリ。ニ短調 2分の2拍子。
第5曲 ラウダーテ・ドミヌム。アンダンテ・マ・ウン・ポーコ・ソステヌート ヘ長調8分の6拍子。
第6曲 マニフィカト。アダージョ ハ長調 4分の4拍子。