■モーツァルト作品解説■    [HOME]   [年代別目次]

フルートとハープのための協奏曲 ハ長調

K299(297c)

 1778年4月5日、3度目のパリ到着のおよそ2週間後、この旅に付添って来た母アンナ・マリーアが父レオポルトに認めた手紙の一節に、「ヴォルフガングは仕事をいっばい抱えています……ある公爵のために、協奏曲を2つ書かなければなりません。フルートのためと、ハープのためのとです」とある。2つの協奏曲とあるのは、しかし母の思い違いで、モーツァルトが受けていたのは、実際は、フルートとハープ、この2つの楽器のための協奏曲1曲の注文であった。依頼主の公爵というのは、以前ベルリン、ついでロンドン駐在フランス大使を勤めた外交官、ギーヌ公爵のことで、モーツァルトがこの貴族の知己を得たのは、前2回のパリ滞在時のような積極的な支援は買って出なかったものの、今回も一応はパトロンとして動いてくれたグリム男爵の引合せによる。「ド・ギーヌ公爵はなかなか大したフルートの名手です。その令嬢に僕は作曲を教えていますが、彼女もハープをとても上手に弾きます」−5月14日、今度はモーツァルト自身がこのように父に報告しているとおり、フルートとハープという珍しい取合せのこの作品は、上流階級の素人芸術家の父娘をソリストに想定して書かれたものである。バロックのコンチェルト・グロッソに端を発するこうした複数の楽器をもつ協奏曲は、古典派の時代になるとソナタ形式の交響的楽章に協奏曲の技法を融合させたサンフォニー・コンセルタント、協奏交響曲と姿を変え、モーツァルト滞在当時のパリではことの他もてはやされており、モーツァルト自身も、フルート、オーボエ、ホルン、ファゴットのためのもの(KAnh9=297b、消失)を書き上げていた。それに引き続いて着手されたこの曲は、しかし交響曲ふうな要素はほとんどなく、控え目なオーケストラを背景に2つの独奏楽器が主役として競い合う、あくまで純粋な協奏曲の部類に属している。モーツァルトはもともとフルートが嫌いだった(アインシタュイン)し、ハープも、上下の半音階移動が自由に出来るダブル・アクションを当時はまだ備えていない不完全な楽器だった上に、作品を渡してから4ヶ月たっても報酬が払われなかったこと、さらに令嬢の作曲のレッスンでは、その出来の悪さに散々手を焼かされたことなどもあって、この曲に関してモーツァルトは少しも良い思い出をもっていないようにみえる。にもかかわらず、流行の2つの楽器をオーケストラの響の中に融けこませ、浅薄に堕することなく、典雅なフランス風サロン音楽に仕上げられているのはさすがという他ない。
 なお、本来は独奏者の即興に委ねられるべきカデンツァ(3楽章全部に置かれている)を、ここでは本職の演奏家ではない独奏者のために作曲者が予め全部の音符を書き出してあげているのだが、そのモーツァルト自身によるカデンツァは消失してしまった。
作曲年代 おそらく1778年4月、パリ。
初演 不明。
基本資料の所在 ベルリン国立図書館蔵(自筆譜)。
出版 旧モーツァルト全集第12篇、第12番。
演奏時間 約27分。
楽器編成 独奏フルート、独奏ハープ、オーボエ2、ホルン2、弦5部。

第1楽章 アレグロ ハ長調 4分の4拍子。ソナタ形式。
第2楽章 アンダンティーノ ヘ長調4分の3拍子。展開部を欠いたソナタ形式。オーボエとホルンを省き、弦だけに抑えた伴奏となって、独奏楽器のあでやかた音色がひときわ艶めく。
第3楽章 ロンド アレグロ ハ長調 2分の2拍子。ロンド形式。