■モーツァルト作品解説■    [HOME]   [年代別目次]

セレナーデ 第7番 ニ長調 「ハフナー」

K250(248b)

 20歳という年が人生に対して積極的な区切の意義をもっているとすれば、その意義は、モーツァルトの場合「ハフナー・セレナーデ」の作曲に象徴的にあらわれているとみることができよう。それは、音楽学者ド・サン=フォアの言葉を借りればモーツァルトの〈ギャラント期〉のクライマックスなす作品であり、長さにおいて棄器編成においても・セレナーデ.ジャンルとしては比をみないほどの交響的なスケールを備えている。この「モーツァルト最初の大管弦楽曲」においては「この上ない技術的能力と音楽的天才とが、完壁な統一をかたちづくっている」(R.ランドン)のである。モーツァルトは、この作品において従来のセレナーデ、ディヴェルティメント・さらに交響曲や協奏曲の様式を集成し、円熟期の偉大な交響管弦楽作品に向けて、自覚ある成人音楽家の道を踏み出したのだった。
 モーツァルトがこの時期に多くのセレナーデを書いている理由の一半は、18世紀のザルツブルクに存るセレナーデ熱に求められる。セレナーデは市民生活に深く入り込み、おりおりの夕べ、おりおりの祝典に、街角をその華麗な響きで満たしていた。ヴァルター・ゼンによれば、ザルツブルク・セレナーデの特徴は、編成の大きいこと、楽章数の多いこと、協奏的なエピソードをもつこと、変化が豊かなことなどであるが、こうした特徴は「ハフナー・セレナーデ」にもはっきりと認められる。全8楽章のうち、第2〜4楽章が独奏ヴァイオリン付の協奏曲ともいうべきものとなっているのはその一例である。このほか、メヌエットが3つの楽章を占めていること、ホモフォニーを主体とした明朗で活発な、作風が基調をなしていることも、当時のセレナーデに広くみられる特徴に数えられよう。しかし、こうした点は、単に作品の様式上の枠組を提供するにすぎない。前述した通り「ハフナー・セレナーデ」におけるモーツァルトは、それらを越えて力強い前進をなしとげているのである。
作曲の経過 モーツァルト家は、ザルツブルクの有力富豪であるハフナー家と、レオポルトの代から親しい交際を続けていた。市長まで勤めたジークムント・ハフナーは1772年に死亡し、同名の長男が若くして一家を継いでいたが、このジークムント・ハフナー二世はモーツァルトと同年生まれであるため、2人の間柄はかなり親密なものであったらしい。1776年、主人の姉マリー・エリーザベトは南チロル出身の商人、Fr・X・シュペートと結婚の運びとなり、婚礼は7月22日に行われることになった。そこでハフナーはモーツァルトに、その前夜祭に演奏するための〈婚礼音楽 Brautmusik〉の作曲を依頼、こうして作曲されたのが「ハフナー・セレナーデ」である、音楽家たちの入場・退場の際に奏される「行進曲」K249が演奏の前日(7月20日)にようやく完成されているところからみて、セレナーデの作曲は期日の相当近くまで続けられたと考えることができよう。
初演 1776年7月21日。ハフナーの友人で当時の大司教宮中顧問官、フォン・シーデンホーフェンは、その模様を次のように記録している。「食事の後、私はハフナーの若主人が姉のリーゼルのために作らせた婚礼音楽を聴きに行った。それはモーツァルト作のもので、ロレート教会傍らの庭園で演奏された。」
基本資料の所在 スイス、個人所蔵(自筆譜)。「行進曲」はパリ、フランス学士院図書館(自筆譜)。
出版 〔初版〕パリ、シベール社、1770年代後半(パート譜)。〔全集〕新モーツァルト全集第4篇、第12作品群、第4巻。(第1、第5−第8楽章の5曲よりなる交響曲版が、同全集第4篇、第11作品群、第7巻に復元されている)。
演奏時間 約58分(べーム指揮のグラモフォン盤による)。
楽器編成 フルート2(第2−第4、第7楽章)、オーボエ2、(その他の楽章と「行進曲」)、ファゴット2、ホルン2、トランペット2(第1、5、7、8楽章と「行進曲」)、ヴァイオリン2部、ヴィオラ、コントラバス(オリジナル編成にはチェロが欠けている)。

第1楽章 アレグロ.マエストーソ−アレグロ・モルト ニ長調 2分の2拍子。ソナタ形式の主部には、まず序奏が置かれている。それがのちの交響曲にみるような思索的なアダージョでなく、壮麗なアレグロ・マエストーソとなっているのは、いかにも婚礼前夜の華やいだ雰囲気にふさわしい。
第2楽章 アンダンテ ト長調 4分の3拍子。この楽章から独奏ヴァイオリンが加わる。
第3楽章 メヌエット ト短調 4分の3拍子。「天才的なト短調メヌエット」(H・アーベルト)が、半音階楽句を伴いつつ、婚礼用セレナーデには不似合なほどの真摯な情調を響かせる。
第4楽章 ロンドー アレグロ ト長調 4分の2拍子。クライスラーによる編曲(ヴァイオリンとピアノ用)で有名になったロンドー。典雅と快活、大衆性と霊感の美しい結合がここにある。
第5楽章 メヌエット・ガランテ ニ長調4分の3拍子。協奏楽章は前曲で閉じられ、ここで再び,第1楽章の調性と編成が戻ってくる。
第6楽章 アンダンテ イ長調 4分の2拍子。ロンド形式と変奏曲の融合という意味で、第4楽章と共通のアイデアを示す楽章。
第7楽章 メヌエット ニ長調 4分の3拍子。2つのトリオをもつメヌエット。
第8楽章 アダージョ ニ長調 4分の4拍子−アレグロ・アッサイ ニ長調 8分の3拍子。
行進曲 ニ長調 マエストーソ 4分の4拍子。セレナーデを演奏する楽師たちは、演奏席に行進曲を奏でながら入場し、また退場するのが常であった。したがって、モーツァルトにおいてもセレナーデと行進曲はしばしば一対をなしており「ハフナー・セレナーデ」に対応するものとして、この、K249が書かれている。