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ヴァイオリン協奏曲 第5番 イ長調

K219

 1775年に作曲された5曲にのぼる〈ザルツブルク協奏曲〉の最後を飾るイ長調の作品は、先立つニ長調の「第4番」から、約2ヶ月をへだててようやく年の暮れも押し迫った12月20日に完成された。一連の作品の最後のものにふさわしく、堂々とした規模をもった作品である。先立つ4曲とおなじ系列に属していることは、全体からなお感じとられるフランスの影響によって確かめることができるが、しかし、それとともに、ドイツ的な色彩も、しだいに濃くなってきつつある点も注目される。しかも大らかな音楽の流れが、全曲を貫き、単純ではあるが、若々しく澄んだその作風は、つぎの年のモーツァルトがやがて生みだしてゆく新しいスタイルをすでに予見させるものである。前の諸作品でみられた細部への配慮は、むしろ、全体の統一のために、背面にしりぞいている。といって、すべてが、単純そのものに出来上がっているというわけではなく、この曲では、この曲なりの構成上の新機軸がみられる。たとえば、第1楽章で、トゥッティによる呈示部と、つぎにくる独奏楽器による呈示部の間には、ソロによるアダージョの序奏が挟まれるという、新しい作り方が注目されるし、また、ソロによる呈示部の出だしでは、曲頭トゥッティが奏した音形が、独奏ヴァイオリンの奏する主題の対位旋律として用いられるという変った作り方もしている。さらに、いままでロンド形式によって作られることがふつうであったフィナーレには、テンポ・ディ・メヌエットが用いられ、しかも、短調の中間部には、トルコ風リズムが採り入れられて、この曲なりの変化が図られている点も、構成的におもしろい。いずれにしても、優美なものながら、あふれるばかりの若さと力感に満ち、青年モーツァルトの手になる音楽のひとつの典型を生みだしている。
作曲年代 1775年12月20日、ザルツブルク。
基本資料の所在 自筆譜はアメリカ合衆国ワシントン議会図書館が所蔵している。
演奏時間 約30分。
楽器編成 独奏ヴァイオリン、オーボエ2、ホルン2、弦5部。

第1楽章 アレグロ・アペルト イ長調4分の4拍子。協奏風ソナタ形式。主楽章のアレグロには、「アペルト aperto」という発想記号がつけ加えられているが、これは「開いた」という意味から、「はっきりとした」とか、さらには「堂々とした」というような意味になったもの。この淡白、直裁な表現力をもつ第1楽章には、まことにうってつけの記号といえよう。
第2楽章 アダージョ ホ長調 4分の2拍子。
第3楽章 ロンド−テンポ・ディ・メヌエット イ長調 4分の3拍子。冒頭にロンドーと記されているが、実際には、メヌエット楽章であり、中間のイ短調によるアレグロが、トリオの部分をかたちづくっている。前の「第3番」や「第4番」のように奇妙で多様な作り方ではなく、古いメヌエット形式をとっている点、形式の上からはいわば後退したかのような感をあたえられないこともないが、全体から受ける印象はきわめて新しく、しかも円熟しつつあるその手法は、たとえば、管の重用といった特徴とともに、つぎの年のスタイルをほうふつとさせるものである。