■モーツァルト作品解説■    [HOME]   [年代別目次]

交響曲 第30番 ニ長調

K202(K186b)

 モーツァルトの、3回にわたった長いイタリア旅行も、ようやくにして終りを告げた1773年には、さらにもう一度、ウィーンヘの旅行が企てられたが、この夏から秋にかけての3ヶ月ほどの旅行をすませて、ザルツブルクにもどったモーツァルトの手から翌年にかけて、つぎつぎと4曲の交響曲作品が生みだされた。「第24番」変ロ長調K182(K173dA)、「第25番」ト短調K183(K173dB)「第29番」イ長調K201(K186a)、いずれも若いモーツァルトのいきいきとした心情を示す傑作ぞろいであるが、その最後に位置しているのが、このニ長調の作品(K202[K186b])である。この曲は、しかし、曲調からすると、他の3曲とはかなり異なったものをもっている。最も著しい特徴は、この曲が、当時流行していた例の〈ギャラント様式〉への偏向を示していることであろう。それは、当時のヨーゼフ・ハイドンが、「皇帝」ニ長調(第53番)をはじめとする、数曲の交響曲でみせている特徴であった。
 ド・ヴィゼヴァとド・サン=フォアの、2人のモーツァルト学者は、モーツァルトがハイドンのこのような作品を知り、その影響のもとにこのギャラントな作品を書いたと考えている。ギャラントリーの方向を示す特徴としてあげられるのは、いままでの3曲にみられる統一的、集中的た性格が、全楽章を通じて、かなり弱められている点である。つまり、極端な言い方をすれば、全体は断片の寄せ集めといった感を呈し、それぞれの主題は、相互間に緊密な連携を保つことなく並置されているばかりでなく、論理の発展をはかるべき展開部さえ、前後の呈示、再現の両部から切り離されて、ひとり孤立しているといったぐあいである。また両端楽章の関係も対立的でさえあり、全体としてみると交響的というよりもむしろ協奏的な性格が現れている。もちろん、以前の様式的な特徴もなおいくぶんこの曲のうちには生きており、こうしてこの交響曲は様式上の転回点に立つ作品ということができる。しかし、ギャラントリーの方向は、むしろ厳格な様式を本領とする交響曲では、かならずしも有効なものではなく、こうしてモーツァルトは以後1778年にいたるまでの比較的長い期間にわたって、交響曲作曲の筆を断ち、むしろより軽い、社交的娯楽的な音楽の制作にふけることとなったのである。
作曲年代 自筆原稿にみられる日付により、1774年5月5日に故郷ザルツブルクで完成した。
基本資料の所在 この交響曲についても、モーツァルト自筆の楽譜はウィーンのK・R博士の所蔵になるものである。新全集版もヘルマン・ベックの編集によって刊行されている。
出版 旧モーツァルト全集第8篇、第30番。新モーツァルト全集第4篇、第11作品群、第5巻。
演奏時間 約18分。
楽器編成 オーボエ2、ホルン2、トランペット2、弦5部。

第1楽章 モルト・アレグロ ニ長調4分の3拍子。
第2楽章 アンダンティーノ・コン・モート イ長調4分の2拍子。弦楽だけの短くまとまった楽章。
第3楽章 メヌエット ニ長調 4分の3拍子。
第4楽章 プレスト ニ長調 4分の2拍子。