■モーツァルト作品解説■    [HOME]   [年代別目次]

交響曲 第28番 ハ長調

K200(K189k)

 3回目のイタリア旅行に引き続いて行われた、1773年の3ヶ月にわたるウィーン旅行ののち、約1年ばかりザルツブルクに落ちつくこととなったモーツァルトの手からは、1773年晩秋から翌年にかけて、5曲の交響曲が生み出された。「第24番」変ロ長調、「第25番」ト短調「第29番」イ長調「第30番」ニ長調、そしてこの「第28番」ハ長調である。従来、1774年5月5日に完成した「第30番」ニ長調が、9曲におよぶ一連の〈ザルツブルク交響曲〉の最後を飾るものであり、これ以後1778年の交響曲「パリ」にいたるまで、モーツァルトはぷっつりと交響曲の分野から筆を折ってしまったと考えられていたが、作曲年代推察判読の結果、この「第28番」K200(K189k)が1774年11月中旬の作品と考えられるようになり、従来の説は訂正されることとなった.そしてケッヒェル作品目録第6版(1964年)からは189kの番号が付されている。モーツァルトは、交響曲またはディヴェルティメントのフィナーレ2曲(K121=K207aとK102=K213c)を1775年に作曲してはいるが、その後は第31番「パリ」まで交響曲に筆を染めることはなかったのである。というのは、その間のモーツァルトは、当時流行していた〈ギャラント様式〉にすっかり浸り切っており、彼の関心の対象はむしろピアノ・ソナタや協奏曲、あるいはディヴェルティメントなどに向けられていたからである。優雅で人の心を無条件に楽しませ、一種の社交的あるいは娯楽的要素を重んじる貴族趣味的な〈ギャラント様式〉の音楽では、緻密に計画された構造美や、論理的な展開、さらには味わいの深さよりも、表面的な美しさや、快い旋律の並置の方が喜ばれたのであって、結局のところ交響曲は〈ギャラント様式〉が好む表現の対象とはなりえなかったのである。
 ところで、モーツァルトがいよいよ本格的に〈ギャラント様式〉に入り込む前に、彼の交響曲史上に小休止を打つことになったこの「第28番」ハ長調は、6ヵ月前に完成した「第29番」イ長調や、1年前に彼の交響曲史上に1つの転期を画した「第25番」ト短調とむしろ類似しており、それらと並んでこの頃の彼の作品の高みを作っているといえよう。そして随所にウィーンで学びとったヨーゼフ・ハイドン、ヴァーゲンザイル、ゲオルク・マティアス・モン(1717-1750)、モーツァルトあるいはヴァンハルや、ザルツブルクの先輩ミヒャエル・ハイドンらの影響が認められ、ウィーン旅行前の作品にみられたイタリア序曲風なものは、ぐっと後退しているのである。この作品は4楽章形態であり、メヌエットを除いた3つの楽章が、いずれもソナタ形式をとっていることが、まずはイタリア様式からの脱却であるし、それらの楽章では、呈示部はいうにおよばず、再現部のあとでも反復記号が付されていて、繰返しが指示されている。さらにそれぞれの曲尾には、第1主題を借用したコーダが新たにつけられていて、まとまりのある楽曲という印象を植えつけているが、ド・ヴィゼヴァとド・サン=フォアらの研究によるまでもなく、これはミヒャエル・ハイドンの影響と考えられる。各楽章の主題の統一化への傾向、それを同時に認められる多主題性、各声部間での主題の模倣といったものは、すでに「小ト短調交響曲」K183(K173dB)でみられるものであったし、フィナーレに2分の2拍子を用い、しかも厳格なソナタ形式を採用して密度を高める方法はすでに使われたものであった。さらには、両端楽章の展開部における主題の活用法に新しさが認められることも、注目しなければならない。また、管楽器に独目の役割が与えられ、その色彩効果が巧みに利用されているのも、この作品の特徴である。なお、当時はトランペットとティンパニは対になって使われることが多かった。この作品にもティンパニがついていたようだが、1929年以来その自筆楽譜は消息不明であり、新全集ではティンパニなしで編集されている。
 いずれにしろ、この曲は先の2曲ほど有名ではないが、「ハ長調」という調性がもつ明るくて堂々とした雰囲気をそなえており、当時のモーツァルトの作風を代表するものと考えてよいであろう。
作曲の時期 日付けの判読ができず、1774年11月17日か12日、ザルツブルクにて。成立時期に関しては、「第26番」ホ長調K184(K161a)の「概説」参照
基本資料の所在 自筆楽譜は、ウィーン在住のK.R博士の個人蔵となっているが、これにはティンパニの声部が欠けている。ティンパニの自筆楽譜は1929年までは存在していたが、その後消息不明である。
出版 新モーツァルト全集第4巻、第2作品群、第4巻(べーレンライター社)、1959年。(音楽之友社刊、べーレンライター・ミニアチュア・スコアOGT677はそのポケットスコア版)。
演奏時間 約24分(反復を含む、OGTによる)。
楽器編成 オーボエ2、ホルン2、トランペット2、ティンパニ(新全集にはなし)、弦5部。

第1楽章 アレグロ・スピリトーソ ハ長調 4分の3拍子。
第2楽章 アンダンテ ヘ長調 4分の2拍子。ソナタ形式。
第3楽章 メヌエット アレグレット 4分の3拍子。複合3部形式。
第4楽章 プレスト ハ長調 2分の2拍子。ソナタ形式。