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「聖母マリアのためのリタニア」

K195(186d)

 「切なる願い」という意味のギリシア語に由来するリタニアは1人の先導者が主なる神や聖母マリアなどに賛美の言葉をもって呼びかけ、その1句ごとに会衆が「われらのために祈り給え」や「われらを憐れみ給え」といった折返し句をもって応えるという、応答形式による祈祷であり、箴言的な祈求からなるものである。リタニアは中世において大変愛好され、絶えず新しいものが生み出されていたようであるが、現在では「聖母マリアのためのリタニア」を含め5種が公認されているだけである。音楽史においては、16世紀末に多声声楽曲としてのリタニアが盛んに書かれるようになり、19世紀初頭にいたるまで、南ドイツやオーストリアの地域において、なかでも特にウィーンやザルツブルクにおいて、多くのリタニアが生み出された。モーツァルトが、ザルツブルク大司教に仕えている間に4曲のリタニアを当地の典礼のために作曲したという事実も、こうした当時の状況を物語るものとしてとらえられる。
 ところで、このリタニアは、わが国では「聖母マリアのためのリタニア」という名で知られているが、本来は、モーツァルトの標題に記されているように「ロレートのリタニア」と呼ばれるものである。1558年に初めてテクストが刊行されて以来、最も親しまれてきたリタニアであり、ザルツブルクにおいても多くの曲が作られている。
 この曲は、比較的大きな編成をとっており、おそらくは大聖堂で演奏されるために書かれたものと思われる。テクストは、もう1曲の「聖母マリアのためのリタニア」K109(74e)と同様、ザルツブルクで当時使用されていたものである。テクスト区分も当時の伝統的な用法に従っており、以下に解説する5楽章に分けて作曲している。
作曲年代 自筆譜に「ザルツブルクにて、1774年」と記されている。おそらく、マリアの月にあたる5月に、当地の典礼に用いられるために書かれたものと思われる。
基本資料の所在 自筆譜がベルリン国立図書館(プロイセン文化財)にある。
出版 新モーツァルト全集第1篇、第2作品群、第1巻。
演奏時間 35分。
編成 4歌唱声部。オーボエ2、ホルン2、トロンボーン3、弦4部、オルガン。

第1曲 キリエ。アダージョ−アレグロ ニ長調 4分の4拍子。アダージョの序奏を伴うソナタ形式。
第2曲 サンクタ・マリア。アンダンテ ト長調 4分の3拍子。「ヴィルゴ・プルデンティッシマ」からを展開部、「ヴァス・スピリトゥアーレ」からを再現部とするソナタ形式。
第3曲 サールス・インフィルモールム。アダージョ ロ短調 4分の4拍子。3行のテクストの各行がひとつの部分を形づくる3部分構成。
第4曲 レジナ・アンジェロールム。アレグロ・コン・スピーリト ニ長調 4分の3拍子。「レジナ・アポストロールム」からを展開部、「レジナ・マルティルム」からを再現部とするソナタ形式。
第5曲 アニュス・デイ。アダージョ ニ長調 4分の4拍子。3行のテクストの各行がひとつの部分をたす3部分構成。各行の冒頭を同じ旋律で歌うことにより、ロンド風に構成される。