■モーツァルト作品解説■    [HOME]   [年代別目次]

交響曲 第26番 変ホ長調

K184(K161a)

 1773年3月13日、モーツァルト父子は、失意のうちに3回目の、そして最後のイタリア旅行から故郷ザルツブルクヘ帰ってきた。5ヵ月足らずのこの旅行の直接の目的は、依頼作品「ルーチョ・シッラ」の上演であった。その成果は決して満足のゆくものではなかったが、帰国直後の1ヶ月半の間に、イタリア的色彩の濃い4曲の交響曲がたて続けに作曲されたのだった。その最初を飾るのがこの「第26番」変ホ長調であるが、このころに作曲された交響曲の成立時期に関しては、多くの論議がなされてきたので、まず、それについて触れておこう。
 1773年から74年にかけてザルツブルクで作曲された9曲の交響曲の自筆楽譜は、幸いたことに1冊の音楽帳となって現存している。これは、おそらく作曲直後にレオポルトによって綴じられたらしいが、奇妙なことに、当初は各自筆楽譜の冒頭に記入されていた作曲時期のメモが、いずれも激しく消されていて、ほとんど判読不可能なのである。ケッヒェルは、これらの交響曲はおそらく年代順に綴じられたものであろうとして順を追って作品番号を付していったが、ヴィゼヴァとサン=フォアをはじめとする人たちによる研究が進んだ結果、現在では次のように成立順序にかなりの入れ替えがなされることとなった。
 1773年
第26番 変ホ長調 K184(K161a)  3月30日
第27番 ト長調  K199(K161b)  4月10-16日
第22番 ハ長調  K162      4月19日(?)
第23番 ニ長調  K181(K162b)  5月19日
この間にウィーン旅行
第24番 変ロ長調 K182(K173dA) 10月3日
第25番 ト短調  K183(K173dB) 10月5日
 1774年
第29番 イ長調  K201(K186a)  4月6日
第30番 ニ長調  K202(K186b)  5月5日
第28番 ハ長調  K200(K189k)  11月17日

 ウィーン旅行前の4曲の交響曲は、いずれもイタリア風序曲から発展したシンフォニアの影響を強く受けたものとなっている。当時のシンフォニアとは、オペラの序曲としてのものにしろ、独立した楽曲となったものにしろ、なお人の心を楽しませる一種の社交音楽であって、概して祝典的な気分に満ちていた。急−緩−急の3楽章形式で、調性はイタリア的な明るいものであり、内部での大胆な転調もない。ホルンやトランペットやティンパニが加わっても、平凡な紋切型の音形に終始することが多く、北ドイツのあの荘麗な響は影をひそめている。こうした諸点はモーツァルトの4曲の交響曲にも認められうるが、さらに4曲に共通する点としては、主和音の力強い総奏で曲が開始し、華やかさを出していること、第1楽章では主題呈示部のあとの反復記号がなかったり、展開部も極端に短かったりして、形式的には幾分崩れていることがあげられよう。しかし、各楽章間の主題に有機的な関係が保たれていたり、フーガ技法がとり入れられたりして、従来のイタリア風序曲の域を脱しているともいえよう。
 この「変ホ長調」の交響曲は、3つの楽章が切れ目なく演奏され、しかも祝典的な気分に満ちていて、確かにイタリア序曲風である。しかし、かなり大きな編成、管と弦の巧みな用法、音楽的内容の深さから、たとえアインシュタインの言うように第3楽章が少し軽いとしても、この作品はまさしく初期の傑作の1つに数え入れることができよう。
 モーツァトル自身、この曲の出来栄えを悪く思ってはいなかったらしく、この交響曲はのちに、おそらくモーツァルトの同意を得た上で、カール・マルティーン・プリュメッケの戯曲「ラナッサ」の序曲として使われた。これはA・M・ルミエールの戯曲「マラパールの後家」のドイツ語版で、モーツァルトと知己のあったヨハン・ベームの巡業劇団によって、1785年頃からしばしば上演されていたものだった。また、1790年9月、フランクフルト・アム・マインで挙行されたレオポルト2世の戴冠式に寄せて「ラナッサ」が公演された時には、モーツァルト自身がそれに立ち合っている。
作曲の経過 1773年から74年にかけてザルツブルクで作曲された9曲の交響曲のうちの何曲かは、3回目のイタリア旅行中にミラノの、後援者の注文によって作曲されたものと思われるが、それがどの曲かは判明していない。いずれにしろ、この作品は、イタリア旅行から帰ってほどなくした、1773年3月30日に完成した。
基本資料の所在 自筆楽譜は、ウィーン在住のK・R博士の個人蔵となっている。
出版 新モーツァルト全集第4篇、第11作品群、第4巻(ベーレンライター社)、1959年。(音楽之友社刊、べーレンライター・ミニアチュア・スコアOGT672はそのポケットスコア版)。
演奏時間 約9分半(OGTスコアによる)。
楽器編成 フルート2、オーボエ2、ファゴット2、ホルン2、トランペット2、弦5部。

第1楽章 モルト・プレスト 変ホ長調 4分の4拍子。展開部の性格がきわめて弱いソナチネ形式。
第2楽章 アンダンテ ハ短調 4分の2拍子。二部形式。
第3楽章 アレグロ 変ホ長調 8分の3拍子。ソナタ形式。