■モーツァルト作品解説■    [HOME]   [年代別目次]

交響曲 第1番 変ホ長調

K.16

 モーツァルト一家は、1763年6月9日に、3年半近くもの年月を費し、ミュンヘンを始めとするドイツ各地や、ベルギー、フランス、イギリス、オランダ、さらにはスイスにまで足を運ぶこととなる西方への大旅行に出発したが、モーツァルトの交響曲創作は、この旅行の訪問地の一つであるロンドンで始められることになったのである。
 当時のイギリスの音楽界は、自国の優れた音楽家には恵まれなかったが、その不足を補うために大陸から渡ってきた非常に多くの音楽家たちによって、活発な音楽活動が繰り広げられていたのであった。モーツァルトがこのロンドン旅行中に多大な影響を受けることとなったヨハン・クリスティアン・バッハ(1735-1782)も、1762年に、オペラ作曲家として活躍していたイタリアからロンドンに渡り、宮廷付属のキングズシアターに務めていたが、ちょうどモーツァルトがロンドンを訪問した年には、ライプツィヒのトマス学校出身の作曲家で、ヴィオラ・ダ・ガンバの名演奏家として有名であったカルル・フリードリヒ・アーベルと組み、いわゆる「バッハ=アーベル・コンサート」を始めるなど大変活躍していた存在であった。このコンサートは、入場料を払えばだれでも聴くことのできる現代の演奏会の先駆のような公開演奏会であり、特に器楽曲を中心とした内容のものであった。モーツァルトは、このコンサートを通してクリスティアン・バッハやアーベルの交響曲などの作品を聴き、また直接に親交をもつことによって、彼らから、とりわけクリスティアン・バッハから多大な影響を受けたのである。そして、このことは、モーツァルトがさっそくこのロンドンで、クリスティアン・バッハの交響曲を手本に初めて交響曲の作曲を試みるという、彼の創作活動において非常に重要な成果をもたらしたのであった。
 クリスティアン・バッハの交響曲は、当時イタリアでナポリ派のオペラ序曲から発展して生まれた交響曲の形式に従っており、急−緩−急の3楽章からなる、ブッフォ的性格に満ちた典型的なイタリア風交響曲であったが、モーツァルトの最初の交響曲である「第1番」には、このようなクリスティアン・バッハの交響曲のスタイルが、あざやかに映し出されているのである。
 「第1番」は、急−緩−急という楽章構成をはじめ、弦楽器の他に2管編成のオーボエとホルンが加わるという楽器編成、対照的な性格をもつ2主題性、ユニゾンによる曲の開始、冒頭主題にみられる強弱の対比など、楽曲のいたるところになクリスティアン・バッハの影響が認められ、いかにも9歳になろうという少年の初めての交響曲らしく、お手本に忠実に従った習作的な作品となっている。
作曲の時期 ロンドン滞在中、1764年の末か65年の初めに作曲されたものと思われる。
初演 1765年2月21日、ロンドンのヘイマーケットの小劇場で開かれた「声楽ならびに器楽の演奏会」で初演された。
演奏時間 約11分。
楽器編成 オーボエ2、ホルン2、弦5部。

第1楽章 アレグロ・モルト 変ホ長調 4分の4拍子。二部形式が基礎となっているが、前半で対照的な2つの主題が呈示されることや、主調・属調・主調という調性構造、あるいはまた主調に戻ったところで第2主題が再現されるなど、ソナタ形式へと一層近づいている。
第2楽章 アンダンテ ハ短調 4分の2拍子。二部形式。
第3楽章 プレスト 変ホ長調 8分の3拍子。ロンド形式に近づいている。