DISCLAIMER:「ベルサイユのばら」の著作権は、池田理代子先生および池田理代子プロダクションに
あります。この作品は作者が個人の楽しみのために書いたもので、営利目的はありません。
Author: miki
Email: miki@he.mirai.ne.jp
Date: 10/21/2000
Category: オスカルとアンドレの仲直りを計るジャルママ
Spoiler: none

Authors note: この作品はある企画で書かせていただいた作品の続きとして、書いた作品です。

個人で楽しむ以外の無断転載・再配布は、ご遠慮願います。
読後には、サクラ様からいただいた素敵なイラストをお楽しみ下さい。

ラ・コンテス・ブルー
〜伯爵夫人の蒼い瞳〜



「オスカルとアンドレは出かけたのかしら?ドヴルー」

ジャルジェ夫人は彼女付きの侍女頭のドヴルーに尋ねた。

彼女は、先ほど二人を見送ったオスカル付き侍女頭のソフィーが、女主人の部屋を片付けに

二階に登っていくのを見たので、多分そう思いますが、と応えた。

「ソフィーを呼んできて頂戴。」

しばらくすると、ソフィーが夫人の部屋にやってきた。

「失礼致します。奥様」

夫人は、ここニ、三日オスカルとアンドレの様子がおかしいけれど、何かあったのか知らないかと

侍女に尋ねた。彼女は詳しくはわからないが、どうも5人の姉君達から見事な薔薇と

手紙が届いたことが原因ではないかと思うと述べた。

「また、あの上の娘達が何か面白がってオスカルをからかって怒らせて、

アンドレは、そのおかげで口もきいてもらえないわけね。」

夫人はまるで十歳かそこらの子供達のしでかした“悪戯”のような感想を述べた。

ソフィーは内心笑いたかったのだが、じっと我慢した。

「いいのよ。ソフィー、笑っても。実は私も笑いたいから。」

そう言うと夫人は優しく微笑みだした。それにつられて、ソフィーとドヴルーも微笑んだ。

オスカルもアンドレも二人の関係は以前と同じようにしか周囲の人間達には見えまいと

思 っていたが、母親だけでなく、彼ら二人を長年世話したり、見てきた侍女達には

すべてお見通しだったわけだ。しかし、誰も彼らを非難する者はいなかった。

二人ほどしっくりとした似合いの恋人達はいなかったし、何より若い女主人である

オスカルの幸せそうな笑顔をみれば、誰も不粋なことを言う気になるものはいなかったからだ。

三人の少し年嵩の女性達はそれからしばらく女主人を中心に話しが弾んだ。

勿論、どうやってオスカルとアンドレを仲直りさせるかという話だ。

話しがまとまると、あとは行動あるのみだ。早速準備にとりかかった。

勿論、寝こんでいるばあやは除外だ。

それに彼女の耳に入るとアンドレが怒られるのは目に見えているからだ。

三人は夜が待ち遠しかった。



夜、オスカルが帰宅し主人不在であるため、母親である夫人と二人でディネ(正餐)を食べていた。

アンドレがいつものように給仕をしていたのだが、オスカルは食事もそっちのけで

彼を盗み見るようなしぐさを繰り返していて、端で見ている夫人は思わず微笑んでしまった。

そんな母親に気づき、彼女は尋ねた。

「何か私が可笑しいのございますか?
母上」

「いえ、何でもないわ。オスカル」

おかしな母だと、ふとオスカルは思った。

いつもの優しげに自分を気遣う母親の瞳ではなく、自分より幾分薄めの蒼い瞳を

悪戯気にくるくるさせている、そんな瞳なのだ。

(一体何を企んでいるのか?)と訝しく思ったのは一瞬で、今最大の関心事

−如何にしてアンドレと仲直りをしようか―にまた考えが飛んでしまった。

後でオスカルは、この食事の時もう少し母を観察するべきだったと反省したのだった。

「オスカル、食事の後で私の部屋でヴァイオリンを弾いてくださいね。」

珍しく母親が音楽をねだった。

しかし、今夜こそは素直にアンドレに謝って、許してもらおうと思っていたオスカルは、

うわの空で母親の言葉を聞いていた。

どうやって謝ればいいのか?・・・

食事も殆ど喉を通らず、給仕しているアンドレの顔ばかりをチラチラと見て、

頭の中でグルグルと考えを巡らしていた。

(用事があるからと部屋に呼びつけて、甘く迫ってみようか?でも、私には無理かも…。

アンドレが笑い出しそうだし。それとも、前みたいにヴァイオリンのG線を切ってみようか。

心配して飛んできてくれるかもしれない。それとも、彼の部屋へ突然行ってみて驚かそうか?

でも、まだ怒っていたら、部屋へ入れてくれないかもしれないし…。

う〜ん、どうしたらいいのだろうか?)

「オスカル、私の話しを聞いていますか?」

「はい、すいません…。考え事をしておりまして、何でしょうか? 母上」

「食後に私の部屋へ来て下さいね。必ずですよ。」

「しかし、私は、今晩はたくさん用事がありまして…えっと、いろいろとやらなければ

ならないことがありまして…、つまり、その…軍の仕事がありますから。

明日ではダメですか? 母上」

「ダメです。どうしても今晩でなければ…。」

珍しいくらい強い口調に驚いて彼女は、自分の母親を見つめた。アンドレまで驚いている。

いつも大人しくて穏やかな母親が自分に命令しているのだ。



オスカルはしぶしぶ食後に母親の部屋を訪れた。

待ちかねたように母親が近くに来るように手招きし、横の肘掛椅子に座るように指示した。

「オスカル、私に相談したいことがあるのではありませんか。違いますか?」

母である伯爵夫人は、薄い蒼い瞳を優しくオスカルに向けて微笑みながら、

しかし、はっきりとした口調で尋ねた。

オスカルは戸惑いながらも正直に、アンドレと喧嘩をしたが仲直りのきっかけが

無くて困っていることを告げた。

いつの間にか母の膝に自分の頭をのせかけ、子供のように話していた。

「それなら、たまにはあなたの方から素直におなりなさい。

いつもいつもアンドレばかり謝らせてはいけないわ。

あなたの気持ちをすべて話せばいいのよ。

アンドレは優しいからすぐに許してくれるわ。そうでしょう?」

母は瞳を優しく投げかけ、諭すように話しかけた。

「そうですね。それが一番いい方法ですね。

いろいろと姑息な手を使おうと思うのは、まちがいですね。」

オスカルは、サファイアの瞳を母に向け、素直な自分の気持ちを告白した。

久しぶりに母とゆっくり話をした気がした。

ここのところ、アンドレと一緒にいるのが嬉しくて、ついつい二人でばかり過ごしていた。

母のお茶の相手も何かと理由をつけて避けていた。

少し申し訳ない気持ちがした。

オスカルが珍しく神妙にしていると母が突然思いついたように言った。

「オスカル、それなら、いい手があるわ。ドヴルー、ソフィー、用意は出来たかしら?」

「はい、奥様、全部準備できておりますわ。」

そう嬉しそうに言いながら、二人の侍女がオスカルの側に寄ってきた。



それからは大変な騒ぎだった。

さらに何人かの侍女に取り巻かれ、有無を言わさぬ雰囲気のまま湯殿へ連れて行かれ、磨かれた。

そのまま、湯殿のとなりにつくられた小部屋の暖炉の前で髪を乾かされ、結われ、爪を磨かれ、

化粧をされ、香水を振り撒かれた。

後で思い出すと、オスカルにとっては、地獄のような時間だった。

母の部屋に戻されると、

「ローブ・ア・ラングレーズ(英国風ドレス)がいいかしら、ローブ・ア・ラ・クレオール

(植民地風ドレス)がいいかしら、ドヴルーとソフィーはどう思いますか?」

楽しそうにローブを選ぶ母の姿があった。

「母上、私をだしに楽しんでいらっしゃいますね。」

少々皮肉をこめて、オスカルは母に告げた。

母の瞳は先ほどの優しい瞳ではなくて、食堂で見たいたずら好きな子供のような瞳になっていた。

「当たり前でしょう、オスカル。美しい娘を着飾らせるのは、母親の楽しみの一つよ。

娘たる者たまには母に楽しみを与えてください。

やっぱり、ローブ・ア・ラ・クレオールにしましょうか。」

そう決まるやいなや侍女達に取り巻かれ、薄いモスリン地製の襟ぐりの大きいローブを着せられた。

そして、アクセントとしてウェストに濃い青色のサッシュを巻いて端を垂らした。

サッシュの青さがオスカルの瞳の色と合い、彼女の白さを誇るような肌をさらに際立たせた。

「こんな風に化粧をしてローブを着るのが、なぜアンドレと仲直りをするいい方法なのですか。

こんなことで彼が機嫌を直してくれるとは思えませんが…。」

「何を言っているのですか、オスカル。機嫌を直してもらうようにあなたも努力しなければ。

さあ、微笑んで、もっとよ。ああ、もっと口紅を濃くしてあげて、ソフィー。そうね、それくらいでいいわ。

その姿でアンドレを悩殺してきて頂戴ね、オスカル」

「悩殺って…、母上、お気を確かに。私にそのようなことができるわけがないでは有りませんか。

“のっぽのかかし”とか何とか、アンドレに大笑いされるのがオチですよ。」

「大丈夫よ、オスカル。とても美しいわ。その上、とても上品で妖艶よ。

その白いローブは、あなたのすらりとした肢体や金髪や白い肌によく映えるわ。

さあ、薔薇園のなかの東屋へオスカルを連れて行って頂戴、ソフィー。

ドヴルーはアンドレにワインを持って行ってくれるように頼んできてね。」

オスカルは、しぶしぶソフィーに手を引かれ東屋へ出かけた。

東屋とは言っても、イタリア風の建物で、一つの独立した離れのようになっている建物だ。

中には小卓や愛の泉を描いた椅子や、ニンフに囲まれたヴィーナスを描いた長椅子が配されて、

長時間いられるようになっている。

ソフィーはとても美しいとオスカルを褒めそやし、大人しく座っているように言い聞かせ、去って行った。

オスカルは、母や侍女達に長時間囲まれてやいのやいのと構われたせいか、

疲れてしまい、もうどうにでもなれとばかりに、しどけなく長椅子に身を横たえた。



しばらくすると、アンドレがワインを持ってやってきた。

彼はお客が来たから飲み物を東屋に届けて欲しいという夫人の伝言を聞いていただけで、

誰がきたのか知らなかった。

彼はこんな時間に奥様のお客様だなんて、珍しいこともあるものだと訝しがった。

しかも、俺を指名して運んでくれだなんて、何か理由があるのだろうかと考えてみたが、

思いつかなかった。

東屋に着くと、何本かの仄かな燭台の明かりの中で、オスカルに似た豪華な金髪の

美しい女性が長椅子の上で微かな寝息をたてていた。

アンドレは驚いた。

(こんな夜更けに東屋でうたた寝なんて、どういう人だろうか?

それに、奥様はどこにいらっしゃるのだろうか?

しかし、このままこの女性をここに置いておくわけにも行くまい。

取りあえず、起こさなくては。)

と思い、声をかけた。

「マダム、マダム、お風邪を召しますよ。客間へご案内いたします。」

アンドレは、見ず知らずの女性を抱き上げるわけにもいかず、

少々困った事態になったと内心狼狽していた。

伯爵夫人と侍女二人は、近くの薔薇の茂みでハラハラしながら、ことの成り行きを見守っていた。

オスカルがうたた寝を始めるなんて、予想外だったからだ。

「なぜこんな状況でうたた寝なんて、始めるのかしら、オスカルは。

わが娘ながら、呆れた子ね。」

夫人はつい侍女達に愚痴り始めた。

瞳にはことの成り行きを心配する影がさしていた。

三人の女性は早くオスカルが起きることを神に祈った。

「え、アンドレ、なに?どうしたの?」

やがて、アンドレの声に反応してオスカルが目をさました。

そう言いながら、顔を挙げた女性はオスカルだった。

「ええっ、オスカルなのか?そのローブ姿は一体どうしたんだ。

どうして、こんなところで、うたた寝なんかしているのだ。風邪をひくぞ。」

「クシュ」

アンドレの心配どおり、うまいタイミングで、オスカルは小さくクシャミをした。

春とはいえ少し肌寒い夜の風を受けて座している彼女は、慣れない薄物のローブを着ているだけで、

いつもとは違い凄く儚げにみえた。

一瞬驚いたアンドレだったが、喧嘩中だったことも忘れて、自分の上着をかけてやった。

そして、オスカルがあまり美しいので、自然に腕の中に抱き取り、しばらく見惚れていた。

「奥様のお部屋でヴァイオリンを弾くのではなかったのか?」

そんなアンドレの疑問にオスカルはことの成り行きを説明し、愚痴り始めた。

「怖かったぞ。ソフィーやドヴルーだけじゃなくて、何人もの侍女達の手がわさわさと

出てきて、10本以上の手がこうやって…」

身振りまでまじえて説明をするオスカルは、まるで子供のようだった。

しかし、その姿はまるでヴィーナスのように妖艶で、そのギャップがアンドレを喜ばせた。

彼女が説明し終わるとアンドレは耳元で囁いた。

「悪かった。俺も意地をはっていて。

早く仲直りしていれば、おまえもこんな目に会う必要はなかったのな。」

「そうだぞ。こんな変な格好…私には似合わないし…。」

「そんなことないぞ。とても似合っている。

アドニスの死に涙して、その涙が薔薇になった長椅子に描かれた女神よりずっと美しいよ。オスカル」

彼女は面と向かって彼に褒められると恥ずかしいが、やはり嬉しいので

頬を染めて彼の胸の中に顔を埋めた。

「さあ、風邪をひくと行けないから、部屋へ戻ろう。

それに…ここでは、くちづけしたくても、とてもできないよ。」

「どうして?」

「だって、その話しからすると近くに奥様やソフィー達が絶対いるはずだろ。違うかい?

それに何となく衣ずれの音も聞こえるような気がするし…。」

皆が見ているかもしれないと考えただけで、白い胸元まですべて染めてしまった彼女は、

素直にアンドレの次の言葉を待っていた。

「抱いて行ってやるから、他の人に見つからないように、部屋へ戻ろう。」

そう言うと、アンドレはオスカルを軽々と抱き上げ、薔薇の茂みを通りぬけ、

屋敷の中へ入っていった。

伯爵夫人達には、二人の会話の内容は聞き取れなかったが、仲良く屋敷へ

戻って行った二人を見て、ため息をついた。仲直りは成功だったようだ。

その上、オスカルのローブ姿を見たアンドレは、とても幸せそうな顔をして、

ガラス細工を扱うようにして抱き上げて行った。

そして、抱き上げられたオスカルはこれまた嬉しくてたまらないという顔をしていた。

三人の苦労は報われたようだ。

夫人は瞳を二人の侍女に向け宣言するように囁いた。

「大成功のようね。私は旦那様より現実的なのよ。

オスカルの子供を見ることを諦めたわけじゃありません。

アンドレとの子供なら男でも女でも、どちらにしても美形で賢い上に、

素直な性格の良い子ができるのは決まっているわ。

貴族の位なんてお金で買ったってかまわないし、アンドレなら、似合うかもね。

それがダメなら、オスカルがブルジョアになればいいのよ。

ジャルジェ家の後継ぎは上の娘達の孫だってかまわないし。

ね?ドヴルー、ソフィー、そう思わないこと?」

「勿論、奥様のおっしゃるとおりですわ。頑張りましょうね。ソフィー」

「はい、奥様、ドヴルー様。及ばずながら、私もお手伝いさせて下さいませ。」

三人の年嵩の女性達は自らの決意に瞳を輝かせた。

「さあ、疲れたから、私達もお部屋でお茶をいただいて、休みましょう。」

夫人は二人の侍女を引き連れて、シュルシュルと衣ずれの音をたてながら、

薔薇園を後にした。

FIN

美しいイラストをサクラ様からいただきました。ありがとうございました。

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