マッシングをやってみました

マッシングをやってみました

(麦芽を酵素によって糖化する)

 Masuda Takayoshi

1998年2月5日作成
1999年08月21日訂正

[ Masudaのビール作り ] [ ホーム ]

 

     1. なりゆき
     2. マッシング講習会
     3. 最初のマッシング
     4. マッシングに必要な道具の自作

        関係者一覧(登場順、敬称略)

        Masuda:        私。1950年1月生まれ、男性。突然ビール作りに興味を持つ。少量の酒で酔う。

        小倉:          あるパソコン通信での自家醸造フォーラムの代表者。ビールワインどぶろくの醸造
			から醸造用具の製造、薫製作りなど、DIYを何でもこなす。1997年夏、わが家の近
			所に越してくる。ペンペン草販売に関係しているらしい。

        宮下:          機械技術者、かって麻雀ブームの時は給料より麻雀収入の方が多く、バブルの時代
                        には株で3階建ての美容院を建てた。奥さんは美容師。現在、畑、ヨット、自転車、
                        ビール作り、飲酒、燻製製造等の無数の趣味を持つが、全て本格的。

        小池:          那古野在住のビール自家醸造家。オートバイとスノーボードが趣味の多忙なビール
			飲み。

        竹田:          山桃県の自家醸造家。登山を好む。

        堀部:          登山グループKinley会(きんれいかい)の永代名誉会長。特許事務所勤務。登山家。
                        裕福にもかかわらず、貧乏学生時代の習慣でめぼしい粗大ゴミを拾ってくる。尚、
                        Kinley会はMckinley山とは無関係。

        秀実:          Kinley会員。自動車金型ゲージ設計家。酒が弱い。醸造所に自宅を提供してくれる。

        大沼:          Kinley会員。機械設計技師。自転車、マラソン、テニス、畑仕事を好み、それらの
                        あとのビールをもっと好む。毎日曜日は「マラソン・テニス・百姓」のトライアス
            ロンをこなす。


[
最初へ ] [ Masudaのビール作り ]
 

1. なりゆき


本の表紙
 1998年の初夏、そろそろモルトエキスによるビール作りから一歩上を目指そうと思う。そこで、The Cellerに、オールグレインのビール材料を発注する。この段階では、どの様にするのかの知識は全く無い。そこで材料発注と同時に、C. Papazianの"The New Complete Joy of Home Brewing"という有名らしい本を同時に注文する。
 このころあるパソコン通信の自家醸造フォーラムで「自家醸造非完全教本第2版」を作成したので、それも入手する。この本は日本語で書かれた、唯一のマッシング教本とも言えるようだ。

 夏になって、その「非完全教本」を作った責任者の小倉さんが、転勤で偶然わが家の近所に引っ越してきた。秋になったらマッシング講習会を開こうという話が起こる。
 手始めに小倉さん主催で薫製講習会を初秋9月22日に行う。私の一家5人、小倉さん一家5人、大沼夫婦、宮下などが参加し、ベーコン、ハム、卵、はんぺん、烏賊燻、等を作って秋の公園を楽しむ。時節柄自家醸造ビールを誰もが切らしているため、「麦酒職人」、「大黒ビール」などの購入ビールでのパーティとなる。
 我が家の近くの大徳緑地にテントを張って、薫製缶を2個設置して、楽しんでいたら「親切な」人が現れ、「誰の許可を受けて那古野市の公園で火を焚いているのか」と指摘する。「少なくともあなたの許可は必要ないでしょう」と思う。

 11月3日の休日に、小倉さん宅でマッシング講習会を開く事となった。この時、私以外のKinley会員、堀部、秀美、大沼は、前日からイスタンブール旅行に出かけたので、講習会に出席できない。旅行の発案者である私は、諸般の事情により旅行参加不可能となり、不幸中の幸いでマッシング講習会に参加できる。


[
最初へ ] [ Masudaのビール作り ]

2. マッシング講習会

 小倉さん宅に朝の8:00に集合する。参加生徒は小池さん、竹田さん、宮下、私の4人。竹田さんは山桃県からこの講習会にはるばる参加してくれた人で、朝10時頃に那古野に到着する。小池さんは、ドイツのバイエルン自動車会社製の巨大なオートバイに乗って現れる。宮下は、奥さんと自分の休日が重なる年にわずかの日(これを「七夕」という)のため、午前中だけの参加で、昼前に奥さんのもとに帰っていく。

 当日の予定と材料を以下に示す。

	97/10/26
	British Ale Yeastを叩く

	97/11/29
	Yeast 予備発酵

	97/11/3
	8:00 Crush
	モルト	American 2-row	3700g
		English crystal	800g
		Chocolate	80g
		Roast Barley	80g
		Water		11,000cc

	8:30
	PH測定
	初期温度45℃ 30分保温
	初期温度55℃ 30分保温
	初期温度67℃ 90分保温

	11:30
	Lautering
	比重測定

	12:30
	Sparging
	追加量、比重、累積量を計算。比重調整目標1.062@15℃

	13:30
	Irish mossの準備
	がんがん煮込む
	Golding 35g	45分	(0分)
	Irish moss		(20分)
	Golding 35g	15分	(30分)
	chillerを投入		(35分)
	Golfing 17g	2分	(43分)
	Cascade 2g	2分	(43分)

	14:30
	冷却
	PH測定、比重調整

	15:30
	片づけ

	16:30
	完了


粉砕する
 8:00に麦芽の粉砕を開始する。必要量の麦芽を計って大きなボールにいれる。必要な水量を鍋に入れる。鍋の水を30℃に暖める。鍋の上に粉砕器を置き、粉砕器の軸に電動ドリルを接続し、麦芽の粉砕をする。ここで問題発生!。
 鍋に落ちていく麦芽が粉砕されてない。そこで、粉砕器のギャップを小さくしてみるが、やはり粉砕されてない。かなりの量の麦芽が粉砕されずに鍋の水に落ちていく。更にギャップを小さくしても、状況は変わらず。
 結局、モーターが逆回転していたので麦芽が粉砕されなかった事が判明した。逆回転可能な高級な電動ドリルであったために起こった間違い。
 そこで、今粉砕そこねた麦芽を再度粉砕器にかけようとしたのが、第二の間違い。粉砕器のミル部分のローラーに濡れた麦芽の粉砕物がこびり付き、ミル部がゴチゴチに固まって、粉砕器が動かなくなってしまう。モーターが過負荷になり煙が出てくる。ミル部を乾かし、固まった麦芽粉をワイヤーブラシでこすり落とすのに、1時間ほどかかってしまう。結局、湿った麦芽は捨てて、再度麦芽の分量を量り直す。
 既に予定より1時間以上の遅れとなり、焦ったのが、第三の間違い。粉砕器のギャップを元に戻すのを忘れて、最小のギャップのまま麦芽を一気に粉砕したので、麦芽微粉末ができ、あとで大変な目に遭う。


加熱、撹拌
 麦芽を水に混ぜ混んだ状態で、PHを測定する。それから、鍋を火にかけ、45℃まで加熱する。温度計を張り付けた木のヘラが便利である。棒状温度計を破損帽子のためシリコンチューブにくるみ、撹拌用のヘラに接着してあり、撹拌と温度測定が同時にできる。しかも裏側に目盛りがあり、鍋の水量が計れるようになっている。
 加熱した鍋を毛布にくるみ、座布団の上に置いて30分放置する。放置後の温度は殆ど下がってない。
 更に鍋を55℃まで加熱し、毛布と座布団で30分保温する。53℃くらいで火を止めると55℃になるという。この工程がいわゆるプロテインレストで、蛋白質を発酵に有益なアミノ酸に変える過程である。

 その後、67℃まで加熱し、毛布と座布団で90分保温する。既に予定を遅れて12時を過ぎているので、この90分の保温の間に昼食を取る。小倉さんの奥さんが作ってくれた、ちらし寿司のおにぎりや稲荷寿司を、小倉さん作のビールとともにいただく。90分後に温度を測定すると、65℃までしか下がっていない。この時、麦汁の味を見ると甘くなっている。この工程が糖化で、糖化酵素が澱粉を麦芽糖に変える。この時の温度により、糖の性質が異なり、高温になるほど発酵しにくい糖分が多くなり甘口ビールになるという。


下でうける

上にそそぐ
 鍋の温度を70℃まで上げる。下端にバルブのついた発酵タンクにスパージングバックを取り付け、そのバッグの中に70℃のマッシュを静かに注ぎ込む。バルブを少し開き、600cc/分の割合で麦汁をバルブから容器に受け取り、その麦汁を再度スパージングバッグの上から静かに注ぎ込む。この作業を45分から1時間続けると麦汁の濁りが消えて澄んでくる。これをローターリングと言う。しかし、ここで問題発生。
 麦芽微粉末の為に、麦芽殻が目詰まりして、麦汁が下りてこない。600cc/分なんてとても無理。細かい澱が麦芽殻で濾されてクリアになるはずが、泥状の麦芽殻の為に、何時まで経っても濾すことができない。仕方がないのでヘラで撹拌してかろうじて麦汁を得る。

 次はスパージングの行程、つまり、麦芽殻についている糖分をすすいで麦汁に回収する作業だ。鍋に沸騰させた湯を別の容器に移し、少しさめたところで、麦芽殻がひたひたになるように湯を静かに注ぐ。これも600cc/分の流量で下に麦汁を受ける予定が、泥状の麦芽殻のために、麦汁が下がってこない。麦芽殻を無理矢理へらで撹拌して麦汁を下げる。1時間の予定が2時間以上かかってしまう。途中で、時々すすぎ汁の比重を測定して、糖分が含まれているか否かを判断する。
 20リットルほどの麦汁を得て、比重を測定し、測定値の温度補正を行い、水を追加して目標比重にする。

 この後は従来同様、ホップとともに麦汁をぐらぐらと煮込み、冷却し、発酵タンクに移し、比重と分量を確認調整し、あらかじめ培養したイーストを添加し、エアロックで封をして仕込み終了。既に18:00近い。
 ここで特筆すべきは、冷却。銅パイプ製のワートチラー(麦汁冷却器)に水道水を通すことで、沸騰した麦汁がたったの20分で25℃にまで冷めてしまう。これは是非ともひとつ作らなくてはと思ってしまう。

 使用した道具を洗って片づけてから、小倉さん自作のビール、烏賊のしょっつる漬け、牛舌の塩漬等をいただく。19:00に解散する。山桃県から来た竹田さんは、那古野名物の味噌煮込みうどんを近くのうどん屋で食べて帰る。


スパージング

ワートチラー

麦汁を冷却

[
最初へ ] [ Masudaのビール作り ]

3. 最初のマッシング

 11月22日、朝10:00に醸造所に集まる。指導者の小倉さんも来てくれる。ワートチラー(麦汁冷却器)、PH計、スパージングバッグを小倉さんから借用する。ワートチラーとスパージングバッグは自作中であるが、完成できなかった。

 今回はCellerで買った、American Pale Aleのセットを作る。材料は以下の様である。イーストは4日前に予備発酵を開始させておく。

	基本モルト:		U.S.Klagesペールモルト				7.5ポンド
	特殊穀物:		イングリッシュ・クリスタル・モルト		1/2ポンド
				デキストリン・モルト				1/4ポンド
	煮込みホップ:		ノーザン・ブリューワー・ホップ			1オンス
	仕上げホップ:		カスケード・ホップ				1オンス
	ドライホップ:		カスケード・ホップ				1オンス
	イースト:		Wyeastアメリカン・エール液体イースト
	プライミングシュガー:	3/4カップ
 28リッター容量のステンレス鍋に、モルトの量の2.5倍、約9リッターの水を入れる。水を30℃に暖め、モルトを全部入れてかき混ぜる。PHを計ると5.3。

 マッシング:鍋を55℃に暖め、火から下ろして30分間毛布に包んで座布団に乗せて保温する。再び火にかけ、67℃まで暖め、火から下ろして90分間毛布に包んで座布団に乗せて保温する。
 これで鍋の蓋を開けて液体をなめてみると、勿論、甘い。鍋を火にかけ、77℃まで暖める。この間に、発酵タンクにスパージングバッグを取り付けておく。食事も済ませておく。
 ここで、ヨードで澱粉成分が残ってないかを確認すると良いそうだ。しかし手元にヨードチンキがないので、やらない。澱粉があれば色が紺色になる、という、小中学校でお馴染みのあれだ。

 ローターリング:77℃の麦汁をスパージングバッグに小鍋で掬って移す。発酵タンクのバルブを小さく開き、600cc/分の目安で麦汁を小鍋に受けては、再びスパージングバッグの上にそそぐ。これを40分ほど繰り返すと、薄茶色の濁った液体が、透明になっていく。

 スパージング:発酵タンクの下部バルブの下に大鍋を置き、600cc/分のペースで麦汁を大鍋に受ける。別の鍋とやかんに湯を沸かして、鍋の湯を小鍋ですくい、スパージングバッグの上に少しづつかけて、常にモルトの殻が湯に浸っている状態にしておく。
 ときどき、発酵タンクの下からでてくる液体の比重を見て、糖分が含まれているか否かを確認する。
 60分ほどで、約21リッターの麦汁を得ることができた。道具さえあればマッシングは何とかなる、という印象を持つ。ここまで来れば、あとはモルトエキスでの醸造とほぼ同じ工程である。

 煮込み:21リッターの麦汁をぐらぐら沸かし、以下のタイミングで材料等を投入する。煮沸開始時点で麦汁を少しとりアイリッシュモスをちぎって入れて、少し溶かしておく。煮沸10分後に麦汁を2カップほど別容器にとり、25℃まで冷まし、予備発酵の終わったイーストパックからイーストを入れて、ラップフィルムで覆っておく。ホップは分量を量って、ホップ袋(おばさんストッキング)に入れておく。

投入時点材料など煮込み時間
0分煮込みホップ60分
30分アイリッシュモス30分
40分ワートチラー20分
55分仕上げホップ5分

 冷却:ワートチラーにホースをつなぎ、水を流す。撹拌ヘラでかき回していると、アッという間に冷める。今は水が冷たいせいか、8分で25℃まで下がってしまう。

 発酵開始:スパージングで使った発酵タンクを洗浄し、消毒しておく。そのタンクに25℃まで冷めた麦汁をザバザバっと入れる。ここで麦汁の量をはかり、19リッターに調整する。今回は1リッターほど水道水を追加する。比重を測ると1.050。培養中のイーストを発酵タンクに入れる。
 蓋をかぶせ、エアロックをつけて終了。あとは鍋等を洗って片づけるだけ。

 

発酵タンクとエアロック


[
最初へ ] [ Masudaのビール作り ]

4. マッシングに必要な道具の自作

 ワート・チラー:

1. 3/8インチ(9.5mm)径のなまし銅管10mを直径20cmほどの物(陶器の傘立てを使用)に巻き付けてコイル状にする。なまし銅だから、ゆっくり曲げれば手で曲がる。
2. 巻き始め15cmほどをストレートのままにしておく。
3. 巻き終わりをコイル外側を通して、巻き始めの位置まで持ってき て、巻き始めと平行に15cmほどのストレート部を作る。
4. 径15mmの水道ホース取り付け用の、真鍮製のホース・ニップル を、ストレート部の先端に差し込む。ホース・ニップルはホース取り付け部の反対側がナットになっている物を使う。ニップル内径は10mmなので、銅管に対して緩い。
5. ホース・ニップルと銅管との隙間を接着する。今回は、銀鑞で溶接をした。100℃に耐える接着剤でも良いと思う。銅鑞なら、安価でフラックスも不要で家庭のガスコンロで鑞付けできるかも知れない。
6.ホースを差し込んだとき、水道側にはホース止め具を付けた方が、水圧で外れる心配が無くて良い。
 
 銅管は冷凍機空調機部品業者から買うと、20mで¥3050。ホース・ニップルは近所のDIYで¥640/2個。(1997年12月時点での価格)


ホース・ニップルをつけたワート・チラー

 

 スパージング・バッグ:

   小倉さんのスパージング・バッグを真似て作りました。発酵タンクに取り付ける形で使用します。
 (但し、2003年以降は発酵バケツにファルスボトムを取り付けてスパージングを行っています)

1. ナイロン製の紗の布を直径25cm、高さ50cmの円筒状にする。1m 買った布地を、あまらせてもつまらないから、2重にする。これで強度も得られる。円筒の上部20cmほどは縫いつけずにおく。
2. 洗濯用のメッシュ・バッグの、チャックのついてない部分を上気の紗の円筒の底に縫いつける。メッシュ・バッグの余った部分は小さな洗濯用バッグにして使う。
3. 円筒の底でない部分は、折り返してパイプ状に縫いつけ、中にロープを通す。


紗の円筒を作る

底を縫う

紐通し

発酵タンクにつける
 
 
 撹拌温度計:

1. 長さ60cm、幅10cm、厚み15mmほどの板を¥200で入手する。鋸とナイフ、かんなを使って、板をヘラの形に削る。
2. 彫刻刀で、板の中心に、棒状温度計の入る溝を浅く彫る。
3. へらの、温度計のアルコール溜りのあたる部分に、丸く穴を開ける。
4. 105℃までの温度計を直径10mmの透明な収縮チューブに入れ、熱湯をかけてチューブを収縮させる。これは、何かのはずみで温度計が割れたときにガラスの飛散を防止するためである。
5. シリコンゴム等の耐熱性の高い接着剤で、溝に温度計を固定する。収縮チューブの両端は折り曲げて、この時に接着し、チューブの中に液体が入らないようにする。
6.使用する大鍋に水を測って入れて、ヘラを鍋底に立て、その時の水位をヘラの裏側に記録し、ヘラに目盛をつける。3リットルおきに27リットルまで目盛る。
 


撹拌温度計

[ 最初へ ] [ Masudaのビール作り ]