徳山ダムは必要か


 

T、徳山ダムの目的

 徳山ダムは揖斐川の最上流部に計画されている貯水容量六億六千万トンの日本最大規模のダムである。水没する旧徳山村民の移転はすでに十年前に完了しており、現在は準備工事が水資源開発公団によって進められている。
 徳山ダムの目的は次の四点。
 一、 洪水調節
 二、 流水の正常な機能の維持
 三、 新規利水
 四、 発電
 これらの目的がはたして適正なものであるのか現在の時点で検討してみよう。

 

U、洪水調節に役立つのか

 計画では、ダム地点における計画高水量毎秒一九二〇トンのうち毎秒一七二〇トンの洪水調節を行うとされている。洪水のピーク時でもダム下流には、毎秒二〇〇トンが流されるだけとなる。このことによって、下流の揖斐川の水位はピーク時でも低下して、降雨の中心が中下流域であっても内水排除のために役立つという説明が、建設省によってなされている。
 しかし、揖斐川の洪水調節のために本当に最上流部でのダム建設が必要かどうか、費用効果の点からは疑問が大きい。中下流域での集中豪雨の場合(実際、大垣などで被害が出ているのはこの場合である)、最上流部での洪水調節がどれだけの効果を持ち得るのか。乱開発の禁止、土地利用の適正化、遊水地の確保など、総合的な治水対策に取り組むことこそが必要である。
 徳山ダムのために旧徳山村民が村を離れてから十年、山林の荒廃は事実上放置された状態で(砂防工事が建設省直轄で進められているが、砂防ダムは完成直後に堆砂で埋まっている)、森林再生に直ちに取り組むべきである。
 徳山ダムが作られても、貯水湖に崩壊した土砂が大量に流れこんで、ダムの有効貯水容量を早期に失うことが予想される。急激な土砂崩壊によって貯水の湖面振動がおきて、ダムを越流することもありうる。さらには、巨大なダム湖の貯水が引き金になって地震が起こる可能性もある。
 ダムを作れば洪水がなくなるというのは神話にすぎず、ダムによって水害が引き起こされた例は日本でも数多い。徳山ダムさえあればという発想から、徳山ダムがなくてもという発想に切り替えて、多様な治水対策のひとつとして費用効果と安全性の冷静な検討が求められている。

 

V、渇水対策に有効か

 近年、渇水対策への徳山ダムの有効性がにわかに取り上げられるようになった。徳山ダムの本来の計画には「渇水対策」はない。揖斐川の既得用水の補給導流水の正常な機能の維持と増進をはかるとして、維持最低流量が想定されているが、これが絶対的に保障される訳ではない。最上流部への降水量が十分に確保されるかどうか自体はダムの有無には関係がない。さらに、揖斐川の流量の維持にとって徳山ダムが大きな影響を持つとしても、下流の流量すべてが徳山ダムで決定される訳でもない。ダムによらない自然の流量が実際には流量の過半をしめる可能性が、木曽川の実例から推測される。
 ダムを作れば渇水がなくなるのではなく、ダムを作り、既存の自己水源を放棄してしまうからこそ、近年の渇水が深刻化しているのである。徳山ダムは渇水対策の決め手どころか、かえって渇水を深刻化させる元凶になりかねない。木曽川水系の渇水対策は総合的な方策をもって、徳山ダムとは切り離して議論すべきであり、最近の不特定流量の確保=渇水対策という建設費用の負担の責任をあいまいにしてのすりかえの議論には注意が必要である。

 

W、新規利水はあるのか

 徳山ダムの最大の争点は利水の点である。そもそも木曽川水系においては大幅に水が余っており、本体だけが完成した長良川河口堰は利水目的を失っている。
 徳山ダムでは、最大の利水を予定していた名古屋市は毎秒六トンの半分の毎秒三トンを返上することを正式に決定した。名古屋市の現状からは、実際には全面返上しないと取り返しのつかない水道財政になることが指摘されている。
 他はどうか。岐阜県の需要は計画では大垣市を見込んでいるが、水道用水は既存の水源で十分に足りており、今後の大幅な増大は見込めない。岐阜県の工業用水は現状でも大幅に余っていて、需要はむしろ減少している。
 愛知県も、岐阜県も、名古屋市も水需要予測は実状をはるかに超えて宙に浮いたものとなっているが、これらは名古屋市のように見直しを迫られている。
 利水の点からは徳山ダムの必要性は全くなく、このまま建設事業が進められれば、長良川河口堰に以上の浪費と財政負担になることは明白である。

 

X、発電は何のために

 徳山ダムではダム本体の徳山発電所で四十万キロワット(電源開発)、下流の杉原発電所で二万四千キロワット(中部電力)を予定していて、徳山発電所は夜間の余剰電力を利用する揚水発電となる。この発電所の規模は隣の根尾村に建設されている奥美濃発電所の二百万キロワットと比べると小さなものなのに、ダムの規模は非常に大きい。はたして、これだけの投資効果があるのかどうかは疑わしいが、原発の稼動を続けるためには揚水発電が必要とされるのであろう。

 

Y、ダム事業見直しのゆくえ

 徳山ダムサイトで猛禽類の生息が確認されている。すでに準備工事で巣が破壊されたとの報告もある。貴重な自然についての事前の環境アセスメントが満足になされないままに準備工事は進められてきた。全国十二(対象は十三)のダム事業についての見直しの審議会が設置されて、徳山ダムについても審議が進められている。徳山ダムの場合、審議は公開されているものの、建設省のしいたレールの上でのサロンでしかない。
 これに対して「徳山ダム建設中止を求める会」は建設省との対話集会を、大垣市の妨害をはねのけて、十月十日に第一回を開き、次回は一月に予定している。十一月二十四日には「徳山ダム建設をやめさせ山の再生を求める全国集会」が開かれた。これらの様子や経過については、私のホームページを参照していただきたい。

(『東海自治体問題研究所所報』No.152号)

1996-12-5修正

表紙に戻る  徳山ダム問題に戻る  メール